美術作品、あらゆる表現物において作家の人生というのは作品に大きな影響を
及ぼすものだと思う。むしろ、そのものではないか?
作家がなにげなく閃き、惹かれていくモチーフやテーマの中に本人をも気がつかないような、
もしくは、意識的であったとしてもその奥底に逆説的な意味が潜んでるような、
嘘がつけないもの、ついてる嘘も現れてしまうものではないかと思っている。
同時代を生きる作家がどうしてこの作品を作ることに至ったのか、
分析を試みて、辻褄があっていく瞬間が好きだ。
そして、その人生ともいえる作品が作家を超えてそこに存在してしまうというものが
いい作品というものではないかと思う。
いい作品に出会う。そこはいつもしんと静まりかえっている。
暴風が吹き荒れたあと、一瞬だけ世界が止まった、凪の瞬間。
孤独を感じる世界の中に、ぽつんとそれは存在している。
ただそこにあるだけなのに、世の中の秘密がわかったような気持ちがしてくる。
そんな作品を作りたいと日頃から思っているのですが、それはとっても大変な事だった。
そして、そんな作品に出会うと嬉しくなり励みにしてまた自分の作品を捉え直したりする。
ヴィヴィアン佐藤氏の個展、「PSYCHE`S SIGHS,LONG LOND BREATHS IN WINTER プシュケの吐息」@Vague
にて、久しぶりにそんな作品と出会うことができた。
ギリシャ語の魂・吐息・呼吸をあらわすプシュケー、それは蝶の意味ももつという。
ヴィヴィアン佐藤氏の瞼には、この蝶がある。
メイクアップした作家はほぼ毎日が個展であるともいえ、作家のモチーフである「ロールシャッハ」は、
作家自身の鏡像関係であるもう一人の自分というものを表しているかのように感じる。
ギリシャ神話に登場する美しい人間の女プシューケーの物語とともに、
展開していくこの個展の中で、ヴィヴィアン佐藤氏は自らの生き方を重ね合わせ、
作家曰く「人から離れた最後の息が蝶になる」という事を
作品へと昇華させたものを作り上げていた。
この作品の光と影、何層にも渡る意味の重なりと、目に映る多重の次元感。
そこに、隠されていた秘密を教えてくれるような美術体験があった。
写真では伝えきれないものがあるが、3次元でぜひ観てもらいたい。
全体を通して生きるということ、その不思議さやそこはかとない怖さ、そして儚さ。
それに対峙していく孤独。そんな感情が沸々と湧き上がる素晴らしい展覧会だった。
Munehisa Sakurada
ヴィヴィアン佐藤「PSYCHE`S SIGHS,LONG LOND BREATHS IN WINTER プシュケの吐息」展@Vague
Profile
munehisa sakurada
1993年にモデルとしてデビュー後、俳優、歌手、タレントとして活躍。現在は、美術家として国内外の展覧会に写真を媒体とした作品を発表している。2011年にART&MUSICBAR「星男」を新宿二丁目にオープン。
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