名作が現代女性に伝える、女性の自立と愛。『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』 エイミー・パスカルにインタビュー | Numero TOKYO
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名作が現代女性に伝える、女性の自立と愛。『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』 エイミー・パスカルにインタビュー

ルイーザ・メイ・オルコットの自伝的小説をベースに、グレタ・ガーウィグ監督がメガホンをとった本作。主演は、シアーシャ・ローナン、相手役はティモシー・シャラメが務め、『レディ・バード』のチームが再結成した。1868年に女性たちが夢中になった物語は、2020年の今も変わらず女性たちの心を癒し、ときに奮いたたせてくれる。ジェンダー平等と女性のエンパワーメントを祝う国際女性デーである3月8日に、作品のレビューとともに、女性プロデューサーであるエイミー・パスカル氏のインタビューをお届けする。

グレタ・ガーウィグが現代女性に贈る、新しい『若草物語』

小説やアニメで幾度も、映像化された『若草物語』。すでに親しみがある人は、マーチ家の4姉妹の中で、特に思い入れのあるキャラクターが頭に浮かぶに違いない。または、物語の随所で共感できる人物が違うという人もいるのではないだろうか。女優志望で家庭的な長女のメグ、小説家を夢見るお転婆の次女のジョー、病弱だが繊細な感性を持つベス、おしゃれで野心家の末っ子のエイミー。本作の特徴は、ジョーの視点を中心に物語が進行すること。姉妹たちは、幸福な少女時代を終えて変化する家族の形と人間関係に戸惑いながらも、各々の人生の選択肢を迫られていく。それに追随して、とびきり仲がいい時も激しく衝突する時もあるからこそ、姉妹の結束は強まる。貧しいけれども明るい4人が集まると最高にハッピー、力を合わせて人生を切り開く、シスターフッドの醍醐味がここにある。

シアーシャ・ローナン演じる次女ジョーは、小説家になる夢と型にはまった人生を送りたくないという強い気持ちにつき動かされて毎日を送る。人を思いすぎることが災いし時に極端な行動をとるものの、その不器用さがまるで自分のことのように感じられ観るもの心を掴む。中でも、社会の不条理や仕事への不安、不理解によるフラストレーションから周りが見えなくなって暴走する姿は、1800年代を舞台にしているのに、まるで自分の姿を見ているかのよう。気づけば映画を観ていることを忘れ、ジョーと共に仕事を抱えて街を奔走して、家族のためにあれこれ思いを巡らせて工夫を凝らし、次々と起こる出来事に一喜一憂してしまう。

またジョーは、今をときめくティモシー・シャラメ演じるローリーと性別を超えた唯一無二の友情を育むが、”ある出来事”をきっかけにして、2人の関係に一つの結論を導き出す必要に迫られる。これが何とも切ない。まるで少女漫画のようなシーソーゲームの展開をするのだが、青春が終わることがこんなにも心が引き裂かれることかと思うと涙が止まらない。期待を裏切らないティモシーの美貌とピュアな御曹司ぶりも必見だ。また、もう1人の名脇役としてフランスの俳優、ルイ・ガレルが出演しているのも注目して欲しい。フランス映画で見せる気難しさはなく”普通ないい男”の姿に驚く人も多いのでは。

それから、『若草物語』といえば、圧倒的な存在感があるマーチ家の母を忘れてはいけない。名女優ローラ・ダーンが、誰にでも優しく慈しみ深い太陽のような母親を演じる。母となって家族を支えること、社会に出て人の役に立つこと、恵まれない人たちに思いをはせることの大切さを示してくれているかのよう。また、娘たちの気持ちに常に寄り添い、楽しい時も辛い時も、遠くから送られる視線は印象的で忘れがたいものがある。Netflixのオリジナル映画『マリッジ・ストーリー』で見せた、凄腕の離婚弁護士ぶりが思い出せなくなるほどのインパクトだ。また、父親役がNetflixのオリジナルドラマ『ブレイキング・バッド』、『ベター・コール・ソウル』でお馴染みのボブ・オデンカークなのも、愛しく、笑えるのがいい。

様々な見どころを紹介したが、『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』は、美しい自然の中で営まれる姉妹の生活を通して、女性の人生の様々なパターンを例として見せてくれる。どれも困難ではあるけれど、どれも間違いではない。必ず幸せにつながっていることを語りかけてくれるのだ。若い世代の人は『若草物語』との最初の出会いとして、恋愛と結婚に対する選択のひとつの参考にしてもいいだろう。年齢を重ねた世代は自らの人生と家族について振り返り、友人と語らうのは楽しそう。いずれにせよ、女性として生まれた自分をポジティブに受け入れ祝福したくなる、そんな一本だ。

3月8日は国際女性デー!
ハリウッドで活躍するプロデューサー、エイミー・パスカルが映画を通して伝えたかったこと

──作品を通して表現したかったことは何でしょうか。

「まずは、女性の経済的自立という考え方は、150年前にすでにあり、現代の女性たちの人生においても大きな課題であること。それと同時に、野心と愛の間の葛藤も変わらず存在し続けています。母親を中心とした家族と母権社会の考え方も時代を経ても変わらず存在していること。そして、大人になるために妥協しなければならないという考えが、人生にはあること。これらが、私が映画を通して伝えたかったことです」

(左から)エイミー・マーチ役でアカデミー賞助演女優賞にノミネートされたフローレンス・ピュー、グレタ・ガーウィグ監督に出演を直談判したというメリル・ストリープ、グレタ・ガーウィグ監督
(左から)エイミー・マーチ役でアカデミー賞助演女優賞にノミネートされたフローレンス・ピュー、グレタ・ガーウィグ監督に出演を直談判したというメリル・ストリープ、グレタ・ガーウィグ監督

──グレタ・ガーウィグ監督とシアーシャ・ローナン、ティモシー・シャラメは『レディ・バード』以来の顔ぶれです。彼らの共演によってどのような化学反応が起きると考えますか。

「3人には、特別な大胆さがあると思っています。グレタが見ていたことの1つは、シーアシャが非常にハンサムだということ対し、ティミーが非常に美しいこと。そして、彼らはある意味、正反対であるからこそ半身同士であり、双方のドッペルゲンガーだと考えていたと思います。奇しくも作中で、ローリーは女の子の名前を持ち、ジョーは男の子の名前を持っていますね。グレタは、シーアシャとティミーと一緒にそのアイデアで遊びたいと思っていたんだと思いますよ」

グレタ・ガーウィグ監督とジョー・マーチを演じたシアーシャ・ローナン
グレタ・ガーウィグ監督とジョー・マーチを演じたシアーシャ・ローナン

──作品において、衣裳はどのような役割を担っていると考えていますか。

「衣装は、最も難しい仕事のひとつでした。衣装を担当したジャクリーン・デュランが、作中で8年を超える時間の経過を伝えなければないことに理解を示してくれてとても嬉しいです。4姉妹と周囲の人たちが、現実と幻想の違い、子供から大人になること、人々の行動と行動の仕方、そしてそれが人生のさまざまなポイントでどれほど異なるかを伝えなければなりませんでした。思い返すと、衣装は小説そのものを表現しながら現実的すぎず、より空想的な世界観を作る必要がありました。彼女はすべてを見事に形にして、繊細に伝えたと思います。また、キャラクターたちの衣装を通して家族であることや生活者であることも感じさせなければなりませんでした。姉妹たちは各々の色が決められました。実は母親はそのすべての色を着ているのですが、つまり、姉妹たちが作中で身につけたものはその一部なのです」

(左から)グレタ・ガーウィグ監督、フローレンス・ピュー(エイミー・マーチ)、エマ・ワトソン(メグ・マーチ) 、シアーシャ・ローナン(ジョー・マーチ)
(左から)グレタ・ガーウィグ監督、フローレンス・ピュー(エイミー・マーチ)、エマ・ワトソン(メグ・マーチ) 、シアーシャ・ローナン(ジョー・マーチ)

──女性軽視問題が叫ばれ続けているハリウッドで、第一線で映画プロデューサーとして働く原動力となっているものは何でしょうか。

「原動力となっているのは、映画、特にストーリーテリングが大好きだということ。それから人間について興味があり、ストーリーが展開する方法やキャラクターの振る舞いについて常に頭の中を巡らせています。私が手がける映画は、常に人々に関するものです。人々に魅了され、それが私をやる気にさせます。作品によって人が自分自身を認識できるということも、モチベーションになっています」

──Time誌が選ぶ影響力がある100人に選出されたと伺っています。今後、映画を通してどのようなことを伝えていきたいですか。

「映画業界で働き始めて以来、常に強い女性キャラクターに興味を持っていました。私には常にテレビや映画のロールモデルがいて、自分が何でもできるように感じていました。今の若い女の子たちにも当てはまることではないでしょうか。また、物語を伝えることができるさまざまな方法を探求したいと思い続けていました。その方法は、時代によって常に変化しています。映画で興味深いことのひとつに、伝えるべきストーリーがほんの少ししかないことがあります。一方で、人々はあらゆる種類のストーリーを伝えるさまざまな方法を見つけており、それは魅力的なことだと感じています。偉大な映画製作者と仕事を続けたいのは、それらが常に私を動機付けてきたからですね」

エイミー・パスカル(一番左)と監督、出演者たち。2019年12月4日、ボストンにて。
エイミー・パスカル(一番左)と監督、出演者たち。2019年12月4日、ボストンにて。

──ご自身が最も影響を受けた映画作品と、Numero.jpの読者に、3月8日の国際女性デーにちなんだオススメの映画作品を教えてください。

「大好きな作品がたくさんありすぎて、選ぶのが難しいわ。その中でも、まず挙げたいのは、ジョーゼフ・L・マンキーウィッツ監督の『イヴの総て』(米1950年)。完璧なスクリーンプレイを見せてくれる傑作で、率直に女性について描いていると思います。それから、子供時に影響を受けた作品は『メリー・ポピンズ』(米1960年)でした。お気に入りの一本で、登場人物たちに愛情を感じています。それから『シャンプー』(米1975年)や『天国と地獄』(日1963年)のような黒澤作品も…たくさん好きな映画がありすぎる。近年のものだと、フランスの歴史を描いた『Portrait of a Lady on Fire』(2019年日本未公開)ですね。女性の愛と内に秘めたパワーについて描いていて、完璧で美しい映像描写も際立っていました。それから『ジョジョ・ラビット』(米2019年)。この作品の巧妙さには驚きました。作品を通して、すべての境界を打ち破ったことはとても勇敢なことだと思っています」


エマ・ワトソン、シアーシャ・ローナン、ティモシー・シャラメらが、世界中で愛され続ける「若草物語」への想いを語った、特別動画を公開中!

『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』
監督・脚本/グレタ・ガーウィグ(『レディ・バード』)
原作/ルイーザ・メイ・オルコット
製作/エイミー・パスカル、デニーズ・ディ・ノヴィ、ロビン・スウィコード
音楽/アレクサンドル・デスプラ
出演/シアーシャ・ローナン、ティモシー・シャラメ、フローレンス・ピュー、エリザ・スカンレン、エマ・ワトソン、ローラ・ダーン、メリル・ストリープ
配給/ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
2020年初夏全国ロードショー
storyofmylife.jp

Interview & Text:Aika Kawada Edit:Chiho Inoue

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