渡辺篤個展「わたしの傷/あなたの傷 」六本​木ヒルズA/D GALLERY | Saeborg
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渡辺篤個展「わたしの傷/あなたの傷 」六本​木ヒルズA/D GALLERY

友人の渡辺篤さんが個展開催をします。昨年、私が同じ場所(A/D GALLERY)で個展をした時も搬入・搬出を手伝ってくれたのですが「来年自分も同じ場所で展示するから、下見がてら手伝うよ」と快く引き受けてくれました。ヒルズの搬入口はダンジョンのようでした、、あの時話していた展示が実現するのは感慨深いです。今週土曜日のオープニングには私も参上いたしますので皆様も是非~

 

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■展覧会概要■

展覧会タイトル:渡辺篤個展「わたしの傷/あなたの傷」

会期:2017年8月4日(金)ー8月27日(日)

時間:12:00ー20:00(会期中無休)

会場:六本木ヒルズ A/Dギャラリー

(106-6103 東京都港区六本木 6-10-1 六本木ヒルズ ウェストウォーク3F)

入場料:無料

お問合せ:03-6406-6875(六本木ヒルズ A/Dギャラリー)

オープニングパーティー:8月5日(土)18:00ー20:00(無料)

六本木ヒルズ A/Dギャラリー ウェブサイト

 

助成:アーツコミッション・ヨコハマ

 

 

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<展覧会解説>

当事者経験をもとにした個人的なテーマを、社会問題にも接合させながら渡辺篤は制作を続けてきました。近年は、自身が過去に深刻な「ひきこもり」だったことをきっかけに作品を展開させています。現在、「ひきこもり」は一説によると日本に150万人以上居るとも言われています。しかしながら当事者の居る状況自体が、いわばブラックボックス化していることもあって、どこででも起こりうる問題であるものの、すぐにはその特効薬の見つかることのない切実な社会問題となっています。また近年では日本の文化的・経済的等の事情を背負ったこの「ひきこもり」という社会現象は、海外でも”Hikikomori”として語られ、注目されはじめています。

 

渡辺の近作《止まった部屋 動き出した家》(2014年、写真:2, 3) では、一畳サイズのコンクリート製の家型造形物の中に、1週間自身の身体を密閉してこもり続け事実上の身体拘束をしたのち、カナヅチとタガネを使って自力で脱出をしました。コンクリートを素材としたインスタレーション内でのこの過酷なパフォーマンスでは、山岳修行における「擬死再生(一旦死んで生まれ変わること)」や仏教由来の「内観」(※)にも通じる”とらわれからの再生”を、自身のひきこもり経験に踏まえた形で表現しました。また、この際の個展開催に向け、実際にひきこもりを続けている当事者たちに向けて、インターネットを通じ、彼ら彼女らの暮らす部屋の写真を募集しました。その結果集まった約60枚を展示。会期中には渡辺自身も思いがけず、ひきこもり当事者が複数会場に訪れました。この展覧会はテレビ・雑誌・新聞など、メディアでも多数取り上げられました。今回は、この作品を再演した映像、インスタレーションを展示予定です(写真:6)。

※「内観」 : ここでいう内観は、僧侶の吉本伊信(1916-1988年)が浄土真宗系の信仰集団に伝わっていた自己反省法・「身調べ」から苦行色や宗教色を取り除いて、万人向けのものとした修養法を指します。両親をはじめとした身近な人に対する自分を、1週間こもって3つの観点に絞って深く反省をします。起床後は「半畳」、就寝時は「一畳」の場所にこもって行います。渡辺はひきこもりを終える経緯の中で2度、内観を経験しました。

 

また、《プロジェクト「あなたの傷を教えて下さい。」》 (2016年、写真:4)でも、渡辺は自身のウェブサイトを用いて募集を行いました。これは個人的な心の傷についてのストーリーを匿名募集するプロジェクトです。現在までに約700件の当事者性豊かな文章が、日本語のみならず様々な言語で送られてきています。制作方法は、投稿文を円形のコンクリート板に書き、それをあえて一旦ハンマーで割って、陶芸の伝統的な修復技法である「金継ぎ」を応用し、修復をするという形式です。 ”心の傷はいつか光り輝く”という願いを表すその制作工程は、一枚が修復される度に渡辺のSNSを通じ、リアルタイムに画像が発信され続けています。

 

本展「わたしの傷/あなたの傷」ではこれら近年の作品群を多数展示予定です。

 

さらに、自身の母親との合作も制作予定です。ひきこもりであったときの渡辺にとって、扉の「こちら(わたし)」側で持っていた傷は、同時に扉の「むこう(あなた)」側の傷でもありました。それに気づくことが渡辺がひきこもりを終えた理由でもあるのです。渡辺家の家屋のミニチュアを一旦壊し、当時を振り返る対話をしつつ、お互いで修復を試みます。

 

渡辺自身が過去に負った傷は、他者の傷に気づくことや、アートにおける発表活動と向き合うことで昇華されていきました。そうした自身の傷の修復の経緯をきっかけとして、「弱い自分・弱い誰か」が見殺しにされない社会を作るため、相互に寄り添う態度を、アートを通して社会に提案しています。

 

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渡辺篤のアート、その可能性

布施英利(美術批評家)

マルセル・デュシャンは、自身の作品『大ガラス』にヒビが入った時、それを良しとした。渡辺篤は、ひきこもりの体験を元に、コンクリートの空間を作ってこもり、一週間後にコンクリートを割って出てくるというパフォーマンスを行う。壁は割れ、ヒビができる。そしてそのヒビ割れの穴を、日本の金継ぎ手法のように補修する。

このような「ヒビ割れと金継ぎ」アートは、心の痛みを綴った文を書いた円板でも展開される。つまり円板をつくり、それをハンマーで叩き割り、さらにつなぎ合わせる。円板は増殖し、円の端と別の円の端で、ヒビ割れの線が接続されていく。水玉の女王・草間彌生や、ダミアン・ハーストのスポット・ペインティングのように、ミニマルアートを思わせる円の増殖がそこにみられる。しかし渡辺篤の円には、その中にヒビ割れがある。

日本の絵画は、大和絵でも浮世絵でも、「線」の美に全てをかけてきたようなところがある。陰影を活用せずに描く手法で、線と平面(=スーパー・フラット)の美と世界観を追究してきた。それは細い面相筆や、鋭い鑿(のみ)で版木を彫り出すことで現出した線であったが、もっとも美しく、自然で、生き生きとした線は、デュシャンが見出したような、意図せずに割れて現れたヒビ割れなのではないだろうか。それは私たちの生に、突然現れた事件、心の傷のような線でもある。しかも、渡辺篤は、その線を強調するように、そこに金の塗料をつかい、ヒビの線を浮かび上がらせる。ヒビは、光の輝く線となって、渡辺篤が選んだ、人々の心の傷を語る言葉を、あるいは彼自身のひきこもりの記憶を、美しく縫っていく。

人はなぜ、時に「ひきこもり」をするのだろうか? その心の奥にある理由は、当人にしか分からない。いや、当人にさえも分からないのだろう。だから渡辺篤は、自身のひきこもり体験の後に、あらためて、ひきこもりの空間を造形し、ひきこもり、そこからの脱出を試みる。しかも一度だけでなく、数年の間隔をおいて、再度、ひきこもり、そしてその空間の壁を割って、そこから脱出をする。それはまるで、洞窟の壁に向かって座禅を組んで悟りを求めた達磨大師の姿を思わせる。渡辺篤は、狭い空間にひきこもり、そこで何を考え、何を見ているのだろうか? そして卵の中の雛が殻を割って出るように、コンクリートの壁を割る感触に何を感じ、その割れ目をどんな思いで再び繋ぎ合わせているのだろうか?

禅の研究者・鈴木大拙は、『仏教の大意』という著作の中で、我々の世界は二つあり、一つは日常の「感性と知性の世界」で、それとは別に、もう一つ「霊性の世界」があると言っている。ふだんは見ることのできない、感じることのできない、永遠とでも呼べる何かが、この世界にはあるというのだ。渡辺篤がひきこもりをし、世界を叩き割り、ヒビ割れを作り、それを金色の線で修復する。その行為は、仏教の修行のようにも思え、渡辺はそれによって「永遠」に手を触れようとしているのかもしれない。

優れたアートというのは、実はどれも単純で力強いものである。クリストは「包む」という行為だけで自身のアートのスタイルを作った、河原温は日付だけを描いたし、草間彌生のトレードマークは水玉の増殖だ。渡辺篤の「ヒビ割れと修復」のアートにも、そういうシンプルさと力強さを感じる。クリストが包むように、渡辺篤は「割る」。河原温の「一日」のように渡辺篤は短い言葉を綴り、ヒビ割れという一瞬に賭ける。さらに草間彌生のように円を作り繋げる。渡辺篤は、現代アートのさまざまな試みを継承し、それを「ヒビ割れと修復」というシンプルなスタイルに集約していく。そこに渡辺篤のアートの達成と、さらに大きな可能性すらある。

 

qqwata  渡辺篤 /Atsushi Watanabe


1978年、神奈川生まれ。東京藝術大学在学中から自身の体験に基づく、傷やとらわれとの向き合いを根幹とし、かつ、社会批評性強き作品を発表してきた。表現媒体は絵画やインスタレーション、パフォーマンス等。テーマは新興宗教・経済格差・ホームレス・アニマルライツ・ひきこもり等多岐にわたる。卒業後に路上生活やひきこもりの経験を経て2013年に活動再開。以後精力的に発表を続けている。近年は「ブレイクスルー」(NHK Eテレ)等のテレビ出演や、雑誌・新聞掲載多数。また福祉媒体での執筆や、ひきこもり経験を活かしたスピーチも。展覧会は「黄金町バザール」(2016年、神奈川)、個展「止まった部屋 動き出した家」(2014年、NANJO HOUSE)等。

渡辺篤ウェブサイト    https://www.atsushi-watanabe.jp/

 

 

 

Profile

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サエボーグ(saeborg)はラテックス製の着ぐるみ(スーツ)を自作し、自ら装着するパフォーマンスを展開するアーティストです。これまでの全作品は、東京のフェティッシュパーティー「Department-H」で初演された後、国内外の国際展や美術館で発表されている。2014年に岡本太郎現代芸術賞にて岡本敏子賞を受賞。主な展覧会に『六本⽊アートナイト2016』(A/Dgallery、東京、2016)、『TAG: Proposals on Queer Play and the Ways Forward』(ICA/ペンシルバニア大学、アメリカ、2018) 、『第6回アテネ・ビエンナーレ』(Banakeios Library、ギリシャ、2018)、『DARK MOFO』(Avalon Theatre/MONA 、オーストラリア、2019)、 『あいちトリエンナーレ』(愛知芸術劇場、名古屋、2019)、 『Slaughterhouse17』(Match Gallery/MGML、 スロベニア、2019 )など。

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