『風立ちぬ』と合わせて見たい! 八谷和彦 個展『OpenSky 3.0』 | Numero TOKYO - Part 3
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『風立ちぬ』と合わせて見たい! 八谷和彦 個展『OpenSky 3.0』


展示中の『M-02映像シミュレータ』実演風景。パイロット視点の記録映像が映し出され、実際の飛行の追体験が可能だ。(※体重制限あり/映像シミュレータは着衣で60kg、フライトシミュレータは着衣で50kgまで)
 
 とはいえ、展覧会の看板をはじめ、チラシや公式サイトにも、“これはアートです”という主張は見受けられない。
 つまり、新しいプロダクトや発明に興味がある人、日本のものづくり関係者やメイカームーブメントの信奉者、三度の飯より飛行機が好きなヒコオタ各位、さらに「がんばってる君が好き♡」系女子、自由研究ネタに行き詰まった小学生(涙目)……などなど、どちら様でも楽しむことができる展示になっているのだ。
 
 「それでも、これが“アート”である理由を挙げるなら、そのひとつは形へのこだわりです。
 あの映画で見た美しい機体に乗ってみたい、実現したいという気持ち、それがこのプロジェクトの原動力になっている。
 同じく飛行機を作る話である『風立ちぬ』の主人公・堀越二郎もそうですが、ただ飛べばいいのではなく、自分の理想とする“美しい飛行機”を追い求める気持ちが、大きな原動力になっている。
 じつは、堀越二郎の九試単座戦闘機は翼が折れ曲がった逆ガル翼が特徴的ですが、『M-02』はガル翼です。劇中に出てくる“サバの骨”と、今回展示した機体の翼の内部構造など、『風立ちぬ』とあわせてご覧になっても、いろいろと楽しんでいただける展覧会だと思います」(八谷氏)
 


併設展示を行っている、「なつのロケット団」のメンバーたち。八谷和彦もその一員。 
 
 さらにこの展覧会では、『すすめ!なつのロケット団』と題して、「なつのロケット団」によるこれまでの活動の軌跡を併設展示。
 堀江貴文をはじめ、あさりよしとおの漫画『なつのロケット』に触発されて集まった人々が、自らの手でロケットエンジンを開発し、地球周回軌道への投入を目指して実験を重ねている……のだが、無残に焼け焦げたエンジンの残骸や、発射時の炎で燃え尽きたカメラ、打ち上げの瞬間や生々しい爆発の映像などに、たぶん誰もが絶句。
 これが文字通り“命がけ”の活動であることを痛感させられる。
 
 そしてもちろん、OpenSkyの試みもまた、極めてパーソナルな試みに発しながら、八谷自身の命を賭けつつ、多くの人々の献身や想いを集めながら、自らの存在を証明するかのごとくあの大空を目指すプロジェクトなのだった。
 なぜそうまでして、“あの機体”で、自らの体で、空を飛びたいと願うのかーー。
 絵や彫刻といった個人的表現を超え、人々を巻き込むアクションや社会的行為に挑み続ける、現代のアーティスト――その“ひこうき雲”を思わせる軌跡、そして何より“男のロマン”が、そこにはあった。
 


関連展示『momoko×203gow 〜coming soon もうすぐ来る世界〜』展示風景。
八谷和彦が共同設立した(株)ペットワークスが展開するファッションドール『momoko』と、天才編み師203gowによるコラボレーション企画だ。

 
八谷和彦 個展『OpenSky 3.0 —欲しかった飛行機、作ってみたー』
期間/開催中〜9月16日(月・祝)(※毎週火曜、8/13~16は休)
場所/3331 Arts Chiyoda メインギャラリー 東京都千代田区外神田6-11-14
  
information
03-6803-2441
HP/http://hachiya.3331.jp

 

profile

深沢慶太(ふかさわ・けいた)
 
フリー編集者/ライター/『Numéro TOKYO』コントリビューティング・エディター。『STUDIO VOICE』編集部を経てフリーに。『Numéro TOKYO』創刊より編集に参加。雑誌や書籍、Webマガジンなどの編集・執筆、企業企画のコピーライティングやブランディングにも携わる。編集を手がけた書籍に、田名網敬一、篠原有司男ほかアーティストの作品集や、編集者9人のインタビュー集『記憶に残るブック&マガジン』(BNN新社)など。

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