戦前と戦後でエンターテインメントはこんなに違う[後編]/菊地成孔×伊藤俊治 対談連載 vol.12
K「AKB48のCDが売れているのは、投票できたり握手会に参加できるという特典があるからでしょう。会えるアイドルとして売り始めたわけですからね。今はどんどん会えなくなっていって「会いたかったー」って状態ですが(笑)。このAKB的な方法にはジャニーズも流れていて、CDよりも公演の時代ということです。公演がメインで、CDを作るのはおまけのような感じ。スマップの『GIFT』っていうアルバムがあって、薬師丸えつこさんとか、椎名林檎さんとかが提供した楽曲が収録されているんですね。それって、スマップがいろんな作家さんからギフトをもらった、というコンセプトに見えるのですが、木村拓哉さんがそれを覆すコメントをしたんです。このCDのプロモーション期間中に「ギフトってどういう意味ですか?」というメディアからの質問に対して、木村さんは「ギフトは僕らが貰うものではなくて、お客さまにあげるものです」と答える。続けて「それは何ですか?」と返されると、「このCDです」と言うのかと思いきや、「我々とお客さまが触れ合う時間です」って言ったんです。これは!と思いましたね。ジャニーズが、CDの販売促進の場で、ファンミーティングとコンサートを宣伝したんです。「コンサートで共に過ごしましょう」ということを全面的に投げかけたことに対して、衝撃を受けたんですよね。ファンにとっては当たり前なのでしょうが、韓流が打ち出してきた「ファンミーティング」という方法が、日本のエンターテインメントにも流れてきている」
I「アーティストとファンが密着した関係になってきているんですね。音楽の聴取の仕方もチャンス・オペーレーション的になってしまっているし。目的を持って買ったり、ダウンロードしたりしにくい状況がある」
K「そういう時代。山下達郎さんもユーミンも、今年はツアーをされますからね。韓国ではずいぶん早い段階からCD屋がなくなってきていて、もうほとんど配信型です。音源を配信してファンミーティングを頻繁にやるというやり方。韓国のファンミーティングを見ていると、ファンとの距離感がかなり近いですよね。ファンからしたら、一緒に旅行して遊んでいるような感覚じゃないですか」
I「CDという物質的なものを買うよりも、一緒に過ごすかけがえのない時間だったり、お金に変えられないモノが求められているってことなんですね」
K「これって戦前の芸能だと思いますよ。第二次世界大戦前、マスメディアが発達する前の芸能というと、旅芸人の一座があったり、パッケージショウとか、日劇みたいなもの。近くで見たり握手したり、出待ちしていれば会えって話せるようなものばかり。戦前、芸能人はもっと一般人にすり寄っていました。それが戦後、マスメディアによって芸能界と一般人との絶対的な距離がつくられます。スターというのが、手が届かない存在に位置づけられる。スターが普段何しているかは知ることができいし、一般人は一生しゃべることはない、会えることもない。だから、明星などアイドル雑誌のインタビューもしくは記者会見でしか生の声は聞けない。そのくらい遠い存在だったんです。それが現代になって、戦前の芸能に戻ってきている。戻ってこなきゃ、やっていけない。テレビに出てもYouTubeに流されて、CDを出してもコピーされる。マスメディアがつくってきた壁はなくなってきているから、これは、直接会って握手しなければやっていけなくなってきている。まさに、芸者化ですよね」
I「健康センターでビッグネームがやったりしているでしょ、1万円くらい取って。そっちのほうが効率がいい」
K「これは我が事でもあるんですよ。僕も最近「ファンミやろうかな」みたいなこと考えちゃいますよね。戦後、ジャズ界初のファンミ(笑)」
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