写真家、マーティン・パーの独占インタビュー【前編】「写真は一種の収集の形」
皮肉なユーモアを効かせたユニークな写真、独特のセンスと直感で“今”を撮り続けているイギリス随一の写真家、マーティン・パー(Martin Parr)を独占インタビュー。彼を少し知ることができる、真面目な写真の話とは? ロングインタビューの前編を公開。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2020年1・2月合併号掲載)
マーティンを少し知ることができる、真面目な写真の話。【前編】
──あなたは鉄道オタクでしたよね?
「鳥マニアだった父譲りの執着心で、作品を見出しています。確かに私は鉄道オタクでした。あなたのいうような意味で考えたことはありませんでしたが、もし何かに情熱を持っていたら、それが写真であろうと何かを収集することであろうと、正しい方法でやらなくてはいけません。もし何かに執着しているなら、真剣に取り込むのが自然な姿勢というもの。私のDNAには執着心の遺伝子が組み込まれているんでしょうね。本やソビエトの宇宙犬などと同じように、写真は一種の収集の形です」
──写真集というフォーマットにも非常に執着があるように見えます。『The Photobook: A HistoryVolume』を含め、100冊以上も出版しています。
「そのとおり。私はあらゆる写真集が大好きです。展覧会は終わりがありますが、本は捨てない限り永遠です。写真集は間違いのないもので、集まった写真に対する最高の伝達方式。まとまっていて持ち運びができ、アナログで、完璧な媒体。本にしたくないフォトグラファーがいますか? 誰もいません。皆、写真集を愛していますから」
──はがきやトレイ、壁紙などのコレクターでもありますが、伝統的であるか商業的かにはこだわらないのですね。
「私が集めているソビエト宇宙犬でさえ商業的ですし私が普段探している商業的な場、ebayではどんなものでも見つかって最高です。ただ多くのものを収集するというのはかなり馬鹿げたことで、常により広いスペースを探すか、モノを減らす作業が必要です。
──以前「商業的取引こそが物事を実現するのであり、どうしてそれを拒絶したいのかわかりません。写真は民主的で垣根がなく、理解しやすくする力がある」と語っていましたね。
「まったく覚えていませんが、その話には賛成です。私の作品はギャラリーの壁にもあり、ビスケットの缶にもプリントされる、そういう何でもアリなところが気に入っています。私は商業的なフォトグラファーであり、財団を運営するには収入が必要ですし、お金を稼ぐためにいるんです。今日も撮影が終わったら家に帰ることもできますが、作品を撮るために自分をふるいたたせるんです」
──人々の消費行動について学ぶことは、生活の本質を学ぶことですよね?
「『本質』という言葉が好きではありません。誰にでも人それぞれの本質が備わっており、それ以上でもない。物事とはすべてがとても主観的で、写真も主観的でなくては意味がない。それが、本質を映していたマグナムの創業者たちの古い人文主義的な考え方です。私は単なる写真家ですが、主観的な写真家で、主観性はとても大事なことだと思っています」
ワクワクする色を見つけた
──食べ物の写真は印象的です。日本でも撮影されていましたね。
「私は日本食が大好きです。日本人はクレイジーなほど食べ物に執着心があり、私が知っている限り世界でいちばん関心の高い国。どんなものについてもFacebookのグループがあるほどです。食について幅広く長い間撮影していますが、面白いことに今や素敵なレストランに行っても、誰もが写真を撮っています。数年前まではこんなことはありませんでした」
──食の写真は、おいしそうに見えるから撮っているのですか?
「いや、多分その反対ですね。ひどい食べ物ほど良い写真が撮れるんです。ジャンクフードほどいい写真になります。おしゃれな食べ物の写真は、単なる雑誌の中の一枚にしか見えません」
──BBCのドキュメンタリー“Imagine”の中では、流行のサイケデリックな格好をした古い写真がいくつも出てきます。若い頃実は、ファッションに興味があったとか?
「いやいや、違います。単に、ファッションの仕事が目立っているだけじゃないでしょうか。私はある意味ヒッピーで長髪でしたがエクストリームではなく、普通のヒッピーだったんです。私の写真集『The Non-Conformists』もコミュニティへの賛歌であり、特にヒッピーを撮影したわけではありません」
──『The Non-Conformists』の素朴な作品の後、代表作とも言える、リバプール郊外の衰退しゆく海辺のリゾート、ニュー・ブライトンを記録した『The Last Resort』を作り上げました。モノクロ撮影がアート写真のしきたりであることに対する、ある種の反逆のように。
「それは反逆ではなく、単なる自然な展開でした。そこまで過激なものではなかったし、色やフラッシュなどを使ったのは私だけではないので、私の専売特許だなどと言うつもりもありません。『The Non-Conformists』が賞賛を受けたのに比べると、『The Last Resort』はさまざまな批評を受けました。カラーで撮影するほかのフォトグラファーが出てきたあと、けばけばしい色のポストカードなど、商業的な写真のパレットを発見したんです。私は誰にでもアクセスしやすい写真が欲しかったので、商業写真のそういった色彩を使わない理由はなかった。色にワクワクしたんです」
(後編へ続く……)
Photo : Martin Parr Interview : Daryoush Haj-Najafi Translation : Mamiko Izutsu Edit : Maki Saito