マーティン・パーを知るためのアレコレ Vol.1 写真集 | Numero TOKYO
Culture / Feature

マーティン・パーを知るためのアレコレ Vol.1 写真集

皮肉なユーモアを効かせたユニークな写真、独特のセンスと直感で“今”を撮り続けているイギリス随一の写真家、マーティン・パー。キュレーターやコレクターとしても知られるマーティンの偉業を一挙公開。Vol.1は、写真集。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2020年1・2月合併号掲載)

photo books by Martin Parr

マーティン・パーの写真集

100冊以上もの写真集を刊行し、デビューから今年刊行された作品まで、厳選した13冊をご紹介。

black & white
貴重なデビュー作、モノクロ写真

『Bad Weather』(1982/A.Zwemmer Ltd) ニューカラーの旗手と評されているマーティンだが、モノクロ写真が初の写真集となった。「悪天候」と題され、UKとアイルランドの典型的な移ろう天気にフォーカスし、土砂降りや霧雨、吹雪などの悪天候の写真56枚で構成されている。 『A Fair Day』(1984/Promenade Press) 自費出版した3作目は、80年代のアイルランドの生活を捉えている。80年代半ばに閉業した自動車メーカー、モーリス社の破棄された車や、田舎のダンスホール、新しく建てられたバンガローなどを記録。1作目と同じくモノクロ写真で撮影された、貴重な作品。

resort & beach
“マーティン・パースタイル”が確立した作品

『The Last Resort』(1986/Promenade Press, 1998/Dewi Lewis)
さまざまな論争を巻き起こし話題になった、初のカラー写真集。リゾート地として栄えたリバプール近郊の街、ニュー・ブライトンを舞台に撮影。過去の賑やかな街とは一変、廃れた街と未来を担う子どもたちとその家族が鮮明に写し出され、強いメッセージが込められている。

『Life’s a Beach』(2013/Aperture)
何十年も世界中のビーチを訪れ、撮りためた写真をまとめた。「ビーチに残る古き良き伝統を記録した。ビーチに行くだけで、その国の事情が見えてくる。文化を超えて、たわいない日常や国民性に気づくことができる稀有な公共空間、それがビーチである」。

collaboration
クリエイションの融合。話題のコラボレーション

『ToiletMartin PaperParr』(2018/Damiani)
イタリアの現代アーティスト、マウリツィオ・カテラン(Maurizio Cattelan)と、写真家ピエールパオロ・フェラーリ(Pierpaolo Ferrar)が共同で発行するアートマガジン『Toiletpaper』とのスペシャル・コラボイシュー。マーティンとピエールの強烈な色と挑発的な写真が交互に配された、インパクトあるヴィジュアル集。

『World (The Price of Love)』(2018/Gucci)
注目されたグッチ(Gucci)との1000部限定の写真集。フランス・カンヌでグッチの18年クルーズコレクションを纏ったモデルや観光客、日光浴をする人々を独特のアイロニックな視点で表現。グッチのラグジュアリーで奇抜な世界観とマーティンの社会的思想が見事に融合した。

food
社会や人が見えてくる「食べ物」にフォーカス

『British Food』(1995/Galerie du Jour, agnes b)
イギリスの食べ物にクローズアップした作品。医療用で使われていたリングフラッシュとマクロレンズを使用し、伝統的な料理から、カラフルなカップケーキやアイス、パン、ソーセージなどを鮮明に写している。食べ物を通して社会や英国人のアイデンティティを追求している。

『Real Food』(2016/Phaidon)
90年代初旬から写真集発売まで、お気に入りの被写体として撮り続けていた「食」をまとめた一冊。世界各国のさまざまな食べ物を、人工的に見えるほどヴィヴィッドに捉え、人と食べ物の関係性を示している。ポップな写真集の表紙にも注目してほしい。

autoportrait
セルフポートレートではなく、撮ってもらった自画像

『Autoportrait』(2000/Dewi Lewis)
自身のセルフポートレートではなく、すべて「撮ってもらった」ポートレートシリーズ。世界各地の観光地にある記念写真サービスや写真ブース、プリクラ、現地の路上カメラマンに撮影してもらった肖像。自身のアイデンティティや多面性を考察している。

『Autoportrait』(2015/Dewi Lewis & Xavier Barral)
『Autoportrait』(00年)に新しい自画像を加えた作品。「何十年も撮られ続けている間に世界がアナログからデジタルへ移行していき、自分も歳を取った」。時代とともに変化することを身をもって体験している。表紙にはラビリンスゲームが用いられ、遊び心満載。

collection
写真集コレクターとしても有名

『The Photobook: A History volume』(2004/Phaidon)
世界屈指の写真集コレクターとしても知られ、世界中から何万冊という膨大な写真集を収集。日本人作家も多く収集しており、絶版の貴重な作品を含め、写真集の歴史シリーズとして200冊以上を紹介。06年にvol.2、14年にVol.3を発売。

England
色濃く写し出された英国社会とアイデンティティ

『Think of England』(2000 & 2004/Phaidon)
90年代後半、撮影プロジェクトの対象であったイギリスのリゾート街ウェスト・ベイや食べ物、花などにフォーカスした一冊。紅茶やカップケーキ、ビーチ、公園、クリケットなどイギリスを象徴するものと人を、コミカルかつシニカルに写し出している。

『Only Human』(2019/National Portrait Gallery)
19年、ロンドンのナショナル・ポートレート・ギャラリーで開催された個展と同時に刊行。イギリスのEU離脱発表と同時期に開催され、社会政治的な観点だけでなく、英国人のアイデンティティにも注目し、変化する国民を捉えている。新作や未公開写真も掲載。

Edit & Text : Maki Saito

Profile

Martin Parrマーティン・パー 1952年、イギリス・ロンドン生まれ。88年より世界的な写真家集団マグナムに所属。社会を見つめる独自のセンスをカラーフィルムに焼き込み、ニューカラーの旗手と評される。写真集も数多く出版し、『Common Sense』(99年)は、東京のアニエス・bギャラリーで写真展が行われ、その後日本各地のショップを巡回。2007年、東京都写真美術館にて日本初の大規模な個展「FASHION MAG A ZIN E」を開催し、話題に。17年、ブリストルにてギャラリーやイベント会場を併設したマーティン・パー財団をオープン。

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