Culture / Feature

写真家、マーティン・パーの独占インタビュー【後編】「私の仕事は、プロパガンダに穴をあけること」

皮肉なユーモアを効かせたユニークな写真、独特のセンスと直感で“今”を撮り続けているイギリス随一の写真家、マーティン・パー(Martin Parr)を独占インタビュー。彼を少し知ることができる、真面目な写真の話とは? ロングインタビューの後編を公開。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2020年1・2月合併号掲載)

(前編はこちら

マーティンを少し知ることができる、真面目な写真の話。【後編】

──美の哲学は何ですか?

「ご存じのとおり、写真の中では『退廃』は常に美しく見えるものです。最近私が撮影したグッチ(Gucci)のビューティキャンペーンでは、すべての人々が不揃いの歯をしており、ビューティにおいてはかなり異例ですが、最終的にはとてもいいものになりました。どこかに少し妙なものがあることは、古典的なビューティの手段でもあるのだと思います。退廃はとてもフォトジェニックなもの。廃工場や古い家の本がどれだけあるかを見ればわかるでしょう」

──ファッションの人々と仕事をする際、その人たちを観察しますか?

「ファッションの人たちはとてもフォトジェニックです。そういった意味では、私はファッションショーを楽しんでいます。でも私はファッションとは真逆だし、グッチみたいなところが私を招待するのは、アナーキーな部分がアレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)にはあるからなだけ。そうでなければ、大企業にとって私はリスキーすぎるでしょう」

──イタリアのファッションブランドの多くはアナーキーともいえます。

「そうですね。ミケーレがインスタグラムのキャンペーンをしてほしいと私のところにやってきたのですが、その時のグッチと彼の心理は、私が常にしていたことに近づいたということなんです。自慢するわけでも、自分の位置づけをしようと思っているわけでもなく、グッチにおいては自分の役目が補助的な撮影者であり、グレン・ルチフォード(Glen Luchford)がメインの撮影者であることも理解しています。B面の、ささいな撮影者の1人だということを」

──ウィキペディアには「エンターテインメントのようなフリをした、シリアスな写真を作成していることを忘れずに」と引用されています。

「私が挑戦していることは、見ている人を引きつけて興味を持ってもらうこと。その表面下にはメッセージがあるのですが、無理強いしているつもりはありません。中産階級を調べてみてください、世界では過剰消費が行われています。人が本当に欲しいものも過剰です。真剣な意図を持って行っていますが、最も大事なのは、アクセス可能なものにすることです」

──観衆の規模が重要なんですね。

「もちろん。私は大衆向けでありたいですから。人からよく尋ねられますが、私は商品を作ることも好きなんです。今は日本で、エストネーションのためのプロジェクトを進めています。スウェットやスケートボードを作っていますが、なかなか面白いですよ」

──私はあなたを人類学者と見ています。1999年に撮影した映画『Think of England』では、人々に英国について尋ねると、皆その答えを出すのに悪戦苦闘していました。英国の現在の状況が、いかに国粋主義であるかを明らかにしています。

「人類学者と呼ばれても構いません。人の行動というものは決して予知できないので、常に興味深く、決して飽きない面白さがあります。ナショナリズムが台頭してきたのはブレグジットのせいですが、もし同じ映画を今作ったとしたら、人はよりクリアな考えを持っていると思います。我々の生きる時代の記録を作ることがすべての原動力だと言えますし、偽りには聞こえないでしょう。私ができる真の追求です。もし私がアーティストだと言ったら、それは自分が素晴らしいと言っているようなものなので、私はドキュメンタリーフォトグラファーだというほうが楽ですね」

──写真はセラピーのようなものだとも話していましたね。

「私は典型的な不満を抱えるタイプで、私の出身国がEUから離脱する可能性がある現状を見るとストレスを感じて怒りが湧いてきます。自分でできることはあまりないのですが、そういう意味でセラピーだと言っているのです。私は人が好きですし、うまくやっていけるほうだとも思います。この仕事は人が好きでないと務まりませんからね」

67歳。休む暇なく撮り続ける

──休暇に出ることがないとか。

「人は、休暇のために働くのだと言いますよね。私は人の休暇について行って、乱入するんです。人が余暇を過ごす間、彼らの『自由な時間』に、何をしたいかを明確にするので、記録が撮りやすい。もちろんビーチでの撮影は好きです。ビーチでは暑い中に放り込まれて、人はオープンになりますから」

自撮りが世界で最も盛んな国と言われるインドでは、自撮りによる死亡者数も多く、その現象を『Death by Selfie」にまとめている。(19年、Super Labo)
自撮りが世界で最も盛んな国と言われるインドでは、自撮りによる死亡者数も多く、その現象を『Death by Selfie」にまとめている。(19年、Super Labo)
 

──今のセルフィー文化は、あなたにとって驚くべきことでしょうね。

「素晴らしいと思っています。スマートフォンが大きな影響を及ぼしました。『Death by Selfie』という、セルフィーを撮る人々についての本を日本のスーパーラボから出したばかりなのですが、セルフィーを撮る際、自分の顔と、アイコンとなる建物や風景などを同時に撮影しますよね。この本を『Death by Selfie』と名付けたのは、インドではほかのどこよりも、セルフィー中に亡くなっている人が多いからなんです。セルフィーというのは幸せな生活やパーソナルな業績を記録するもので、文字通り行き着くところに行き着いた感じです」

──中国写真の発展の歴史についてひも解いた『The Chinese Photobook』は大きな仕事でした。美学のあるプロパガンダと、それを台無しにすることはあなたにとって大きなテーマですね。

「私の仕事は、プロパガンダに穴をあけること。なぜなら、我々の周囲はプロパガンダに囲まれているからです。雑誌は、物事を魅力的に見せることが仕事なので、宣伝だらけです。それをしているのは私だけではないですよ。物事を取り巻く決まり文句やプロパガンダよりも、撮影されるものすべての主観的な性質を、より個人的に捉えようとしているんです」

──あなたの作品が、プロパガンダの形に定義されてしまうことを恐れたことはないですか?

「私がブランドとなったことは認めますが、それがプロパガンダになるかといったらそうではないし、そこには違いがあると思います。 過去の栄光に胡座をかくのは簡単だけれど、私にはほかにも見なくてはいけないものがありますし、25歳のときと同じだけのエネルギーは持ち合わせていません。もう67歳ですし、次の撮影を楽しみにベッドから出られるだけでもラッキーだと思っています。もちろん私について、あなたの好きなように書いてくれて構いません! バカバカしいことやウソでも、好きなだけ書いていいですよ!」

──今は何に興味がありますか?

「人々がどのように働くのかというのはとても興味深いです。2020年に出版予定の、ハイテク企業に関する本を進めているんですが、伝統的な仕事を撮影するのは簡単でも、ハイテクな仕事をフォトジェニックに撮るというのはチャレンジですね」

──知的な内容やキッチュな要素にフォーカスを当てたものなどさまざまですが、本当のマーティン・パーはどちらですか?

「私はそういった古典的なジャーナリストの質問には騙されませんよ。すべて本物ですから! もう終わって仕事に戻ってもいいですか? 引きとめないで!」



Photo : Martin Parr Interview : Daryoush Haj-Najafi Translation : Mamiko Izutsu Edit : Maki Saito

Profile

Martin Parrマーティン・パー 1952年、イギリス・ロンドン生まれ。88年より世界的な写真家集団マグナムに所属。社会を見つめる独自のセンスをカラーフィルムに焼き込み、ニューカラーの旗手と評される。写真集も数多く出版し、『Common Sense』(99年)は、東京のアニエス・bギャラリーで写真展が行われ、その後日本各地のショップを巡回。2007年、東京都写真美術館にて日本初の大規模な個展「FASHION MAG A ZIN E」を開催し、話題に。17年、ブリストルにてギャラリーやイベント会場を併設したマーティン・パー財団をオープン。

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