ノルウェーからやって来たベッドルーム・ポップの新たな旗手、オケイ・カヤ | Numero TOKYO
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ノルウェーからやって来たベッドルーム・ポップの新たな旗手、オケイ・カヤ

最新リリースの中から、ヌメロ・トウキョウおすすめの音楽をピックアップ。今回は、Okay Kaya(オケイ・カヤ)の『WATCH THIS LIQUID POUR ITSELF(ウォッチ・ディス・リキッド・ポア・イットセルフ)』をレビュー。

photo by Coco Capitán
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北欧の生活が投影されたような、室内楽的なベッドルーム・ポップ

ノルウェーと聞いて思い浮かべるものといえばなんだろうか。サーモン、白夜、オーロラあたりが定番だろうが、音楽でいうとなかなか耳馴染みのあるアーティストも少ないかもしれない。Okay Kayaはそんなノルウェーからやって来たベッドルーム・ポップの新たな旗手だ。プロデューサーには昨年のSolangeのアルバムに参加しそのシームレスでアンビエントな作風にも寄与したであろうJohn Carroll Kirbyが名を連ねている。そのことにも頷けるような今作の洗練された滑らかなサウンド・メイク、そして水底で揺蕩うようなたおやかな歌声が、心地よいまどろみに誘うかのようだ。

photo by Coco Capitán
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デビューアルバムである前作は柔らかなR&Bといった趣きの作品だったが、今作にはストレートなポップソングが並んでいる。ただ、アレンジにはフルートやパーカッションなど室内楽的な楽器が使われていて、前作のひそやかな親密さを保ちながらもより広がりを感じさせる音の空間づくりのバランス感覚が絶妙だ。それはもしかすると日が短く部屋の中で過ごす時間の長い北欧の生活を、彼女の身体が覚えているからなのかもしれない。ちなみに、Kayaはモデル、女優としても活動していて、現在はNYブルックリンを拠点にしているそうだが、シンプルなギターの弾き語りをもとに室内楽的なアレンジを施すセンスには、北欧的な生活観とともに、Dirty ProjectorsやGrizzly Bearらを生んだ2000年代のブルックリンの実験精神あふれる空気感にも確かにどこか通じる部分があるように思えてくる。アートの前線・NYの空気に触れた故郷の記憶がオリジナリティに昇華している今作は、ただ一言にベッドルーム・ポップと片付けることのできない、奥深さのある1枚だ。


Okay Kaya (オケイ・カヤ) 『WATCH THIS LIQUID POUR ITSELF』 (ウォッチ・ディス・リキッド・ポア・イットセルフ)
国内盤(Kaya Wilkins⾃⾝による楽曲解説の対訳を封⼊) ¥2,300(ビッグ・ナッシング/ウルトラ・ヴァイヴ)
2020年1月24日発売

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Text:Nami Igusa Edit:Chiho Inoue

Profile

井草七海Nami Igusa 東京都出身、ライター。主に音楽関連のコラムやディスクレビュー、ライナーノーツなどの執筆を手がけている。現在は音楽メディア《TURN》にてレギュラーライターおよび編集も担当。

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