【祝!カンヌ受賞】『急に具合が悪くなる』濱口竜介監督インタビュー「人間的な部分を大切に」 | Numero TOKYO
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【祝!カンヌ受賞】『急に具合が悪くなる』濱口竜介監督インタビュー「人間を人間として扱うことの難しさに向き合った」

2026年5月23日に開催された第79回カンヌ国際映画祭の授賞式で、映画『急に具合が悪くなる』のヴィルジニー・エフィラ、岡本多緒が女優賞をW受賞! 

5月28日発売予定の『ヌメロ・トウキョウ(Numéro TOKYO)2026年7・8月合併号)』の特集「ボーダーが交わるところ」では、この二人を主演に据え、二人の女性の魂が接近する奇跡のような瞬間を収めた濱口竜介監督にインタビューした。受賞を記念して、その一部を先行公開。

──原作の哲学者・宮野真生子さんと人類学者・磯野真穂さんの往復書簡『急に具合が悪くなる』が、パリ郊外の介護施設の施設長マリー=ルーと演出家の真理の出会いと別れという、同じ魂を持つ全く異なる物語になっています。大きく飛躍しようとした理由をお聞きしたいです。

「原作で展開されている会話は、一文一文に明確な論理的・感情的意味があって、ダイジェスト的にやっても原作と同じ強度は得られないということは企画立ち上げの当初から思っていました。加えて、例えば実在する人物や関係性と同一視されないことは、シンプルに大事なことだと考えました。物語である以上、どうしても何らかの単純化は必要になります。明確な悪役がいないとしても性格上の欠点などを描く必要が出てくるときに、現実の世界と切り離されていたほうが、物語の要請に従いやすいので」

──原作の魂の部分を言葉にするとしたらどんなものになりますか?

「ものすごくシンプルな表現になりますが「魂の交流」というか、二人の関係が深まっていくプロセス、そのダイナミズムみたいなものです。それが、原作と同じような深度、強度で映画でも感じ取れるかどうか、ということを考えていたと思います」

──本作では、ユマニチュード(*)という介護のアプローチが物語の核となります。ユマニチュードと出合ったきっかけは?

「ちゃんとは覚えていないのですが、ユマニチュードの創設者であるイヴ・ジネストさん、ロゼット・マレスコッティさん、そして日本にユマニチュードを導入した本田美和子さんが書いた本を、十年ほど前に読んだことが大きかったと思います。そのとき感じたのは、遠い問題ではないということです。特に俳優、あるいはスタッフに対して、『人間を人間として扱うこと』が撮影現場でも難しい。簡単にハラスメントに発展してしまう構造が映画づくりにもあります。それが、介護施設で認知症の入居者をモノのように扱ってしまうという問題と、非常に近しいと思いました。ユマニチュードが問うているのは、どうやって認知症者たちの弱った認知能力にアクセス可能なコミュニケーションをするかということですが、その原理的な部分を見つめる考え方に惹かれました」

*ユマニチュード……フランス発の介護技法。見る・話す・触れる・立つを軸に、相手の尊厳と自立を支えながら、ケアを行う。

──限られた時間や予算、パワーバランスといった構造的な問題からそうなってしまうのでしょうか?

「そうだと思います。人間というのは本当に面倒なもので、その日の気分や体調があるわけですよね。でも、組織の中では役割に限定された形でしか能力を発揮することを求められない。お金も時間もない状況だと優先順位をつけなければならなくて、仕事の役割からはみ出るいわば『人間的な』部分はないものとされたりする。そのことはもはや産業や国の境を越えた問題になっていると感じます。じゃあ、どうすればいいのか。今も考えています」

『急に具合が悪くなる』

フランス·パリ郊外の介護施設「自由の庭」で施設長を務めるマリー=ルー·フォンテーヌ(ヴィルジニー·エフィラ)は、入居者を人間らしくケアすることを理想としながらも、人手不足やスタッフとの価値観の違いに悩まされていた。あるとき、日本人の舞台演出家·森崎真理(岡本多緒)と出会い、彼女の演劇に心を動かされたことをきっかけに交流を始める。ところが、がん闘病中の真理はあるとき急に具合が悪くなって……。第79回カンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品作品。

監督/濱口竜介
出演/ヴィルジニー·エフィラ、岡本多緒、長塚京三、黒崎煌代
原作/宮野真生子、磯野真穂/著『急に具合が悪くなる』(晶文社)
6月19日(金)全国ロードショー
© 2026 Cinéfrance Studios – Arte France Cinéma – Office Shirous – Bitters End – Heimatfilm – Tarantula – Gapbusters – Same Player – Soudain JPN Partners
URL/www.bitters.co.jp/soudain

濱口竜介監督へのインタビューの続きは、2026年5月28日発売予定の『ヌメロ・トウキョウ(Numéro TOKYO)2026年7・8月合併号)』の特集「ボーダーが交わるところ」に掲載。

本特集では、世界中で対立と分断が深まり、混迷を極めるいま、私たちは、価値観の異なる他者とわかり合うことはできるのかーー。カルチャーの最前線から、国境、言語、ジャンルといったさまざまな“ボーダー”を見つめる。

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Interview & Text:Tomoko Ogawa Edit:Mariko Kimbara

Profile

濱口竜介 Ryusuke Hamaguchi 映画監督。1978年、神奈川県生まれ。2008年、東京藝術大学大学院映像研究科の修了制作『PASSION』で注目を集め、15年の『ハッピーアワー』で国際的評価を獲得。18年、『寝ても覚めても』で商業映画デビュー。21年には『偶然と想像』でベルリン国際映画祭銀熊賞を、『ドライブ·マイ·カー』で米アカデミー賞国際長編映画賞とカンヌ国際映画祭脚本賞を、23年に『悪は存在しない』でヴェネチア国際映画祭で銀獅子賞を受賞した。
 

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