一瞬も永遠も描く、映画の魔法
時間は往々にして映画の大事なキーワードになる。なかでも、時間だって登場人物であるといっても過言ではない作品をピックアップ。ほかでは味わうことのできない豊かな映画体験を私たちにもたらしてくれるはず。(『ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)』2020年7・8月合併号より抜粋)
1. キャラクターとともに人生を生きる
リチャード・リンクレイター監督は、出世作である恋愛ドラマ『ビフォア・サンライズ恋人までの距離』から9年後と18年後に、同じイーサン・ホークとジュディ・デルピーを起用し、主人公二人の再会とその後を描いた。映画では一人のキャラクターでも子ども時代には子役を使ったり、特殊メイクに頼ったりするものだが、リンクレイターは、実際に俳優たちが年月を経過することで生まれるリアリティを映し出した。
その手法を最大限に活用したのが『6才のボクが、大人になるまで。』だ。両親の離婚によって姉とともに母親の元で育つ6歳のメイソンJr.が18歳になって親元を離れ、大学に入るまでの12年間を描いているが、実際に俳優たちは12年間、この撮影に断続的に参加し続けた。あどけなさが残る少年が髭面の青年になっていき、母親役のロザンナ・アークエットは年々ぽっちゃりし、顔のシワも増えていく。12年後に同じ俳優たちが出演できる状況かどうかもわからない大きな賭けにも等しい撮り方だが、奇跡的ともいえる成功によって、そこにはまさに人生が映し出されている。
2. 半世紀を超えて出会う“永遠の婚約者”の最終幕
50年以上たった今も、フランシス・レイの名曲とともに色褪せない恋愛映画の金字塔『男と女』。その後もいくつもの愛を描き、恋愛映画の名匠の名を欲しいままにしたクロード・ルルーシュ監督が「『男と女』の50周年記念パーティでジャン=ルイ・トランティニャンとアヌーク・エーメが会話している姿を見て、スクリーンで二人を再会させたいと思った」と撮った作品が『男と女 人生最良の日々』である。彼らの20年後を描いた『男と女 II』に続く、続々編だ。一度は激しく求め合うも、それぞれ別の道を歩いてきた二人。今は高齢者施設で暮らし、思い出すのは最愛の女性という男を、彼女はどう受け止めるのか。“永遠の婚約者”のように時をさまよっていた二人の新しい愛の物語。その結末には胸が熱くなる。
3. 時間では埋められない女の業
“傷は時間が癒やしてくれるもの”というが、持って生まれた業は、そうはいかない。むしろ時間がたてばたつほど、本性が顔をもたげ、その運命には抗えないものだ。英国の女性作家ヴァージニア・ウルフの代表作『ダロウェイ夫人』をモチーフに、3つの違った場所、時代に生きた3人の女の業を描いた『めぐりあう時間たち』は、一見悲劇的な彼女たちの中に、自分らしく生きることを熱望する女たちの強さと希望が見える。フランスの大女優ジュリエット・ビノシュ主演の『アクトレス』は、新進女優とともに舞台に立つことになり、キャリアと引き換えに若さと美貌を失いつつあることを目の当たりにする大物女優の葛藤を描く。じっくり年を重ね、熟することとは、女性に何をもたらすのだろうか。
4. 風化する運命? 時に流されない愛とは
結婚して時間がたち、“家族”となった夫婦でも情熱は維持できるのだろうか? 永遠の命題でもあるテーマを扱った2本のフランス映画が公開される。『ラブ・セカンド・サイト』は、主人公がパラレルワールドへ迷い込んだことにより、社会的成功により傲慢になった自分を顧みて、妻と初めて出会った頃の想いを取り戻すという物語。
『今宵、212号室で』は、家庭外恋愛を繰り返すことで家庭とのバランスを保とうする女性が、過去を突きつけられることで愛の本質を見いだすというストーリー。20年前の夫や歴代の元カレが当時の姿で大集合してしまう。どちらもファンタジックな展開だ。愛を風化させない方法はあるのか、恋愛大国フランスならではのウィットに富んだ解釈が興味深い。
Text:Atsuko Tatsuta Edit:Sayaka Ito, Mariko Kimbara