『男と女』の53年後を描く最新作が公開。クロード・ルルーシュ監督が語る、恋愛と映画のリアル | Numero TOKYO
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『男と女』の53年後を描く最新作が公開。クロード・ルルーシュ監督が語る、恋愛と映画のリアル

フランスを代表する恋愛映画の金字塔として知られる、『男と女』。クロード・ルルーシュ監督がメガホンを取り、53年後を舞台に同キャストで、ジャン・ルイとアンヌの愛の物語が紡がれた。本作は主演俳優の2人はもちろん、監督も83歳を迎えていたため、体力的にも10日間で撮影を終える必要があったという。1966年にカンヌ映画祭でパルムドールを受賞した『男と女』、1986(日本公開は1987)年に公開された続編『男と女 II』、そして最新作となる『男と女 人生最良の日々』。この三部作を通して、恋愛と映画についてクロード・ルルーシュ監督に話を聞いた。

“愛の伝道師”クロード・ルルーシュ監督の揺るぎなき流儀

──女優アヌーク・エーメ扮するアンヌのファッションですが、印象的なのが1966年版『男と女』では胸の開いたタイトなドレス、最新版の『男と女 人生最良の日々』でも、ジャン・ルイとの再会に黒いドレスを着ていること。重要なシーンで、黒を着用している理由を聞かせてください。 「確かに、個人的に女性が黒い服と白い服を着ている姿が好きです。しかし、実を言うと、黒を好んでいるのはアヌーク・エーメ本人です。女優と仕事をするときに注意を払っているのは、彼女たちがどんな洋服を作中で着たいかということです。どの洋服を着たいかを聞き、その理由まで説明してもらいます。それは、現実の世界で誰かとランデブーをしてデートをすることと同じ。改めて思い返すと、アヌーク・エーメの選択は正しかったと思いますよ。俳優が役を理解していれば、自然とどんな衣装が必要か分かると考えています」

──報道カメラマンとしてキャリアをスタートし、映画の世界で監督として成功されました。最新作では、ジャン・ルイとアンヌがスマートフォンを使って写真撮影を楽しむシーンがあります。昨今のカメラの進化について、どのようにお考えですか。

「カメラは映画の主演俳優のような存在だと考えています。映画のすべてのシーンに出演していますから。なので、映画監督は、俳優に演技指導をする前に、まずカメラの使い方を学ぶ必要があります。私も、若いときにカメラと恋に落ち、熱中したものです。いまは、カメラが発達し地球にいるほとんどの人間が小さなカメラを手にしている状態になりました。携帯電話こそが未来のカメラと言っても過言ではないでしょう」

──50作目となる次作の撮影を終えたばかりだと伺っています。

「実を言うと、記念すべき50本目の映画をすべてスマートフォンのカメラで撮影した作品をちょうど撮り終えたところなんですよ。カメラが劇的に軽くなったことを実感しました。こうして映画の歴史も変わっていくことでしょう。大事件が起きても人々がカメラを所有することで、レポーターが来る前に普通の生活している誰かが撮影してしまいますよね。生活者たちが撮影した動画をテレビなどで目にしますが、彼らはもっと撮影をうまくならないと(笑)。そんな想いもあって、パリでは一般の方に向けた動画撮影のワークショップも行っているんですよ」

──66年の『男と女』では、最後の主演2人によるパリ北駅でのシーンは、観るものに強烈な心象として残ります。このシーンの撮影秘話があれば聞かせてください。

「アヌーク・エーメに伝えた脚本には、北駅にジャン・ルイがいるとは伝えていませんでした。なので、彼女の表情は彼女自身から湧き出たものです。映画で役者は登場人物としてではなく、1人の人間に立ち戻る必要があると考えています。そのような人間らしい自発性を大切にしたいと考えています」

──最新作では、どのシーンでそういった演出をされましたか。

「本編に残したすべてのシーンで、俳優たちは自発的に表現を行っています。そうでない姿が撮れていたら、すべてカットすることになるでしょう。俳優たちは自発的な表現として、馬鹿げたことをしたり際どい発言をすることもできるわけです。しかし不思議なことに、俳優自ら行動すると不思議と下品に見えない。それは、子供の自由な言動を許してしまうことと似通ったものでしょう。そこには、何の悪知恵も働いていません。俳優たちが演技をしているのか自発的な表現を行っているか見抜けますが、撮影ではあえて両方を撮ります。本番よりもリハーサルが良い場合もありますから、現場ではずっとカメラを回すようにしています」

──撮影することが好きな設定、シーンはありますか。

「人の眼を撮影することが重要だと考えています。口は言葉を操っていくらでも嘘をつくことができますが、眼だけが身体の器官で唯一嘘をつくことができないのです。若いときにこのことに気づき、眼の中の真実を読み取る術を身につけました。映画が演劇よりも優れているのは、眼を近くで撮影できることだと思っていますよ。カメラは、素晴らしい顕微鏡のようなものです」

──監督にとって映画を撮影することとは。

「映画を撮ることは生きることと同じ。なので、撮影中は結末を決めず毎晩のように脚本を書き換えて物語の順を追って撮るようにしています」

──幸福な恋愛において、重要なことは何だと思いますか。

「過去でもなく未来でもなく、現在を生きることが大事だと考えています。いつまでも過去を引きずるのは、死人を抱きしめているようなもの。現在だけが幸福と繋がっています。現在を十分に味わい尽くさないと、幸福を手に入れることはできないでしょう」

『男と女 人生最良の日々』

監督/クロード・ルルーシュ
出演/アヌーク・エーメ、ジャン=ルイ・トランティニャン、スアド・アミドゥ、アントワーヌ・シレ
音楽/カロジェロ、フランシス・レイ
2019年/フランス/90分/フランス語
©︎2019 Les Films 13 – Davis Films – France 2 Cinéma
http://otokotoonna.jp/
2020年1月31日(金) TOHOシネマズ シャンテ、Bunkamuraル・シネマほか全国ロードショー

Photos:Ayumu Yoshida Interview & Text:Aika Kawada Edit:Chiho Inoue

Profile

クロード・ルルーシュClaude Lelouch 1937年10月30日、フランス・パリ生まれ。ユダヤ系アルジェリア人の家庭に育ち、幼い頃から映画に興味を持つ。報道カメラマンとしてキャリアをスタート。1960年にはプロダクション会社Les Films 13を設立し、初の長編となる「Le propre de l'homme」を監督。その後、いくつかの作品を発表するが、いずれも興行的に失敗に終わり、破産状態に追い込まれる。そんななか、最後の作品と決断し製作した『男と女』が世界的に大ヒット。カンヌ国際映画祭のパルムドール、アカデミー賞®外国語映画賞など40以上の賞を獲得した。以後、作曲家のフランシス・レイと組み、映像と音楽によるスタイリッシュな大人の恋愛映画を発表し続ける。主な監督作に『パリのめぐり逢い』、『白い恋人たち』、『流れ者』、『恋人たちのメロディー』、『続・男と女』、『愛と哀しみのボレロ』、『男と女 II』、『レ・ミゼラブル』、『アンナとアントワーヌ 愛の前奏曲』など。本作が49作目。

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