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ジュリエット・ビノシュ「仕事と家族が、人生に意味を与えてくれた」

是枝裕和監督の最新作『真実』に、カトリーヌ・ドヌーヴ演じるファビエンヌの娘、リュミールとして出演するジュリエット・ビノシュ。『汚れた血』『存在の耐えられない軽さ』『ポンヌフの恋人』『トリコロール/青の愛』など、数多くの代表作をもつ世界的な女優であり、プライベートでは2人の子どもを育てた母でもある。そんな彼女に、『真実』で描かれたような、こじれた母娘関係の修復方法や、仕事と子育ての両立について聞いた。

Photo: L.Champoussin ©3B-Bunbuku-MiMovies-FR3
Photo: L.Champoussin ©3B-Bunbuku-MiMovies-FR3

長い時間をかけて変化していく、母娘の関係

——映画『真実』は、アメリカで脚本家として活躍するリュミール(ジュリエット・ビノシュ)が、母でありフランスの大女優・ファビエンヌ(カトリーヌ・ドヌーヴ)の元に帰省するところから始まります。リュミールは、母に複雑な感情を抱いていましたが。

「まず、一般的に全ての子どもは、母親に対して自分に目を向けてほしい、話を聞いてほしいと思っていますよね。それはリュミールも同じだけど、母親のファビエンヌは国民的な女優で、しかも不安を抱えていました。彼女は歳とともに、もっと注目してほしい、もっと愛されたいと渇望していた。子どもからしたら、母親には歳を重ねるにつれて、余計な欲望は捨て、賢く理性的になってほしいと願うもの。でも、そう上手くはいかないですよね。母親が年老いて、わがままな子どもに戻ってしまったようで、リュミールは心を痛めるのです」

——作品では、行きがかり上、リュミールがファビエンヌの付き人のような形で撮影現場に同行します。その中で、母娘の関係も変化していきますね。

「撮影現場では、新進女優のマノンが、母のポジションに近づきつつあります。とくにファビエンヌはナルシスティックな面もあるわけですから、マノンに嫉妬やらいろんな感情を持つけれど、娘はそんな母の様子や周囲の人間関係を観察して、結局、母は変わらないんだと悟るわけです。歳をとっても落ち着くことはない、このままの母を愛するしかない。それをポジティブに捉えることを学んだのだと思います」

——母が女優でなくても、母と娘の関係は難しいものですね。年々そう感じます。

「とくに母と娘の場合は、いかに競合する関係を変えるかでしょうね。子どもが小さな頃は、母が権力をもって子どもを守る立場でした。しかし母が年老いて、子どもが大人になると形勢が逆転します。でも、そこで子どもが権力を持つのではなく、お互いが協力し共存していく関係にすること。長い時間、一緒に過ごしてきたのだから、築いてきた愛を信頼して、相手をジャッジせず、話に耳を傾ける。難しいかもしれないけれど、そうすればいい関係にシフトできるはずです」

——お互いをひとりの人間として扱うということですね。

「もちろん。親に対しては、産んでくれたことに感謝の気持ちを忘れないでくださいね。命を産み落とし育てることは、母親だけでなく父親にとっても大変なこと。親も子どもへの理解と思いやりをもち、お互いがその気持ちを、きちんと言葉にして表現することが重要ですよ」

「今を100%で生きれば、若さに嫉妬することはない」

——先ほど、新進女優のマノンと大女優ファビエンヌの話が出ましたが、女優同士の複雑な関係は経験したことがありますか?

「ファビエンヌの側でいうと、同世代でない限り、年下の女性に競争心を抱くことはありません。彼女たちに、この先なにが待ち受けているのかを知っているから。女優の道は長くて険しいのです」

——先輩だからこそ優しくなれるんですね。

「そういえば、娘が14歳のとき『ママは私が若いから嫉妬しているんだわ』と言ったことがありました。どこかで聞きかじった言葉なんでしょうけど、私は『14歳も20歳も40歳も100%全力で生きてきたから、過去に戻りたいとは思わない』と言ったんです。マスコミはいつも『若さこそ素晴らしい』『若返るにはどうしたらいいか』と報道して、若さへの強迫観念を植え付けるけれど、『今を100%で生きればそれは振り切れるはず。人が成熟すると精神的によりよいゾーンに入るから、固定観念や恐れから自由になれるのよ』。娘とそう話して、母と娘の嫉妬、競合の関係が解消されたということがありました」

「子育てと仕事、どちらも私の人生に意味を与えてくれた」

——仕事をしながら子育てをしていると、子育てがおろそかになっているのではと不安になることがあります。それでも、子どもより仕事を優先してしまうファビエンヌの気持ちもよくわかります。ジュリエットさんは2人の子どもを育てた母でもありますが、仕事と子育てをどのように両立していましたか?

「これは女優の特権なのかもしれないけれど、撮影現場に子どもを連れていくことができたし、制作側がベビーシッターを雇ってくれたりもしたから、恵まれた環境だったかもしれません。それでも、深夜まで撮影が延びたり、映画のプロモーションで海外に行ったりと、仕事との両立は大変でした。どうしても仕事より家庭を優先しなくてはいけない場面もありましたよ」

——それでも仕事を続けた理由は?

「私がこの世に存在する意義を考える上でも、社会に参加することは重要です。仕事は私の人生に、意味を与えてくれました。そして、仕事と同じくらい、子どもをもつことも重要でした。小さな頃から人形でおままごとをしては、自分は絶対にお母さんになるんだと決めていたし、大人になってパートナーができると、妊娠したら子どもは産むと宣言していました。子どもを育てることは大変だし、仕事と両立する悩みは尽きないけれど、忘れてはいけないのは、子どもが必要とすることは一人ひとり違うということ。留守番が得意な子と、大人になってもその寂しさを忘れられない子がいます。でも、例え間違いを犯しても、後から修復することは可能ですから」

shinjitsu_sub02_L.Champoussin ©3B-Bunbuku-MiMovies-FR3
shinjitsu_sub02_L.Champoussin ©3B-Bunbuku-MiMovies-FR3

『真実』

国民的大女優・ファビエンヌ(カトリーヌ・ドヌーヴ)が、自伝本を出版することになった。タイトルは『真実』。そこで、アメリカで脚本家として活躍する娘のリュミール(ジュリエット・ビノシュ)、彼女の夫ハンク(イーサン・ホーク)と二人の娘シャルロット、ファビエンヌの現在のパートナー、元夫、秘書が集まる。

監督・脚本・編集/是枝裕和
出演/カトリーヌ・ドヌーヴ、ジュリエット・ビノシュ、イーサン・ホーク ほか
原題/La Vérité/2019年/日仏合作/108分
配給/GAGA
©2019 3D-分福-MI MOVIES-FRANCE 3 CINEMA
10月11日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか、全国ロードショー
gaga.ne.jp/shinjitsu/

Photos:Ayumu Yoshida Interview & Text:Miho Matsuda Edit:Chiho Inoue

Profile

ジュリエット・ビノシュJuliette Binoche 1964年3月9日、フランス・パリ生まれ。巨匠ジャン=リュック・ゴダール監督の『ゴダールのマリア』(84)で注目され、アンドレ・テシネ監督の『ランデヴー』(85)でセザール賞にノミネートされる。続くレオス・カラックス監督の『汚れた血』(86)で日本でも高い人気を獲得し、フィリップ・カウフマン監督の『存在の耐えられない軽さ』(88)でアメリカに進出し、その後も国際的に活躍。主な受賞作に『トリコロール/青の愛』(93)『イングリッシュ・ペイシェント』(96)『ショコラ』(00)『トスカーナの贋作』(10)『アクトレス〜女たちの舞台』(14)など。

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