ジェンダートークvol.3 女性ならではのリーダー像とは? | Numero TOKYO
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ジェンダートークvol.3 女性ならではのリーダー像とは?

小誌エディトリアル・ディレクター軍地彩弓が、各界のエキスパートとともに、現代のジェンダー問題について語り合う対談シリーズ。第 3弾は、ジュエリーブランド「HASUNA」の代表、白木夏子さん。

11_LEAN-IN(リーン・イン) 女性、仕事、リーダーへの意欲
11_LEAN-IN(リーン・イン) 女性、仕事、リーダーへの意欲

『LEAN IN 女性、仕事、リーダーへの意欲』 シェリル・サンドバーグ/著(日本経済新聞出版社)

男性経営者の成功例は、女性には当てはまらない?

軍地彩弓(以下、軍地)「今回は、フェイスブックのCOO、シェリル・サンドバーグの著書から女性の生き方を探ってみようと思うんですが、まず『LEAN IN』では、著書の冒頭にも最後にも夫への感謝が述べられていて、夫にサポートされながら前に進む決断をする彼女らしい生き方を感じました。彼があって自分がある。それが突然、夫が不慮の事故で亡くなった。その経験を経て書かれたのが『Option B』です。この2冊を読んでいかがでしたか?」

白木夏子(以下、白木)「2013年にスイスの世界経済会議(ダボス会議)に参加したとき、そこに登壇されていたシェリルさんが、女性の生き方についてスピーチされていました。それから『LEAN IN』を読み、女性が組織の上に駆け上がることの困難さは、日本もアメリカもそれほど変わらないんだと認識しました」

軍地「ダボス会議に参加した女性の割合は?」

白木「ヤフーのCEOであるマリッサ・メイヤー、IMF専務理事のクリスティーヌ・ラガルドなど、ダボス会議に出席した女性リーダーは少数派でおそらく20%以下。世界を見ても、彼女たちが男性社会の中で生き抜くのは簡単なことではない。これは世界共通の課題なんだと感じました」

軍地 シェリルの『LEAN IN』では、どのポイントが印象的でした?」

白木「まず、恐れを取り払うこと。男性は『何者にもなれないかもしれない」という恐れ、女性は「与えられたことが達成できないかもしれない』と不安になる。これまで男性が書いたリーダーシップ論を読んでもしっくりこなかったんですが、男性と女性の意識に違いがあるとすれば、それも納得できます。さらに女性の場合、役職を与えられても、自ら一歩引いた位置に収まろうという傾向があるという点ですね」

『女性の多くは本能的に、自分の実績を控えめに言うようになる』(『LEAN IN』P.63)

また、いいづらい真実を相手に伝えることをためらう傾向があり、それが問題を長引かせる要因でもあると説いています。

『多くの人が真実を口にするのをためらう。それは自分を守るためだったり、他人を傷つけないためだったりするのだが、こうした遠慮や用心がさまざまな問題を引き起こし、長引かせている』(『LEAN IN』P.110より)

空気を読むことが日本人の美徳のように語られているけれど、アメリカでも同じなんですね」

論破したい男性、井戸端会議が得意な女性

軍地「『忖度』という言葉が流行りましたが、外国人記者クラブでは英語に翻訳するのに困ったそうです。空気を読むことが日本の風土的な問題であると同時に、世界でも同じことが起きていたということですね。私が利用している『Newspicks』というニュースアプリでも、議論に参加する女性が少ないんです。男性は議論することに対し『俺が言ってやった』感があるけれど、女性は横を見て、空気を読みながら意見を言う。男女で議論形成に違いがあるなと思います。女性は『読売小町』のような井戸端会議的メディアのほうが盛り上がります。そのほかには『LEAN IN』から得たものとは何でしょう?」

白木「自分らしくあれ、ということですね。起業する前に在籍した投資ファンドは基本的に男性ばかりで、男性社会型のリーダーシップを見てきました。ですから起業後、私も全ての会議に入って意見したり、たまに怒ってみたりと試行錯誤したんですよ。でも、もともと力強く引っ張っていくタイプでもないし、どこか無理を感じていた時に、出産のタイミングを迎えました。時間的な制限もできたこともあり、ミーティングには入らず、目標設定のみして最終形だけ見せてもらうようにしたんですね。そうしたら、私には想像もつかないような新しいアイデアがどんどん出てくるようになったんです。私自身も社外の活動や、アドバイザーとして起業家のサポートに力を入れる時間が増え、それがポジティブな形で会社に影響を及ぼすようになりました。何より自分自身の学びに繋がりモチベーションも上がりました」

軍地「かつて男性たちが作り上げたリーダー像を一旦横に置いて、自分なりの組織マネジメントを考えたわけですね。今、社会の流れとして、企業の意思決定ポジションに女性を増やそうとしています。新しいリーダー像が模索されるべき時期がきていると思います」

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『OPTION B 逆境、レジリエンス、そして喜び』シェリル・サンドバーグ、アダム・グラント/著(日本経済新聞出版社)

感情が作りだす柔らかな組織

白木「『OPTION B』を読むと、夫を亡くしたシェリルが、そこから立ち直るために、どれだけ心に向き合ったかが書かれています。自分の心に真正面から見つめ、いかに苦難を乗り越えたのか、精神学者、カウンセラーの話を交えて、1冊にまとめてみんなにシェアしてくれました。女性のリーダーとしての覚悟を感じました。私も子供を持つ親として、どうやって子供を向き合うか、涙なくして読めなかった。力強く生きる姿に励まされました」

軍地「女性が苦難にあったときどう対処するか、悲しみの行方をシェリルは自ら分析しました。感情的であることが女性の特徴と言われますが、パブリックな立場にいる人間も、それを押さえ込まないで正面から向き合うほうが、組織にもいい影響があるということでしょうか」

白木「ここ1、2年でそのことについてよく考えます。数年前、親友からもいつも淡々としていると言われ、その頃の写真を見ても表情が固かったです。リーダーたるもの冷静であらねばならないと、どこか我慢していたんでしょうね。自分の中のネガティブな感情を認識して、泣きたい時は泣き、怒りたいなら怒るようにしたら、だいぶ楽になりました。シェリルさんは、それを『見えない象』と表現して、『象の存在を認めなければいつまでもつきまとってくる』と書いています。女性は共感する生き物と言われますが、人の心、自分の心に寄り添うことも女性リーダーに求められていることなのかもしれません。そういう女性経営者が多い企業は、健全な組織になるかもしれません」

軍地「低成長社会で必要なのは競争よりも協調。仕事のやり方も、もっとオプション=別の選択肢を考えられる方が破綻しないのではないでしょうか。本来、女性が楽に生きられる社会は、男性も楽なはずなんです。だからこそフリージェンダーが叫ばれているのですが、日本で女性が力を発揮するのはまだまだ厳しい状態です。日本の『ガラスの天井』の厚さはアメリカの比じゃない。意思決定の場にいるのは、今でもほとんどが男性です。そこに、白木さんはいいタイミングで現れてくれたと思います」

白木「小さい組織だから、参考になるかわかりませんが、シェリルさんの本を読んで、私も発言していかなくてはと思いました」

軍地「今は、男性社会で女性が活躍しても疲弊していくだけだから、女性が意思決定のポジションを与えられても引き受けない人が多いそうです。でも、それではいつまでも政府の数値目標『女性の管理職30%』は達成できません。男性側にももっとフリージェンダーという考えを理解してもらって、女性側も女性ならではのリーダー像があり、それがどう社会を巻き込んでいけるか考えていくべきですね。シェリル・サンドバーグの生き方は、私たちに大きなヒントを与えてくれます」

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「新・女子力」って何ですか? を読む

Interview:Sayumi Gunji
Text:Miho Matsuda
Edit:Etsuko Soeda

Profile

白木夏子(Natsuko Shiraki) エシカルジュエリーブランド「HASUNA」CEO。ロンドン大学卒業後、金融業界を経て2009年HASUNAを設立。日本の若手リーダーとして2013年の世界経済フォーラム(ダボス会議)など国際会議にも出席。
軍地彩弓Sayumi Gunji エディトリアル・アドバイザー。大学在学中よりフリーランスライターとしてキャリアをスタート。卒業後は雑誌『ViVi』でファッションライターとして活躍し、創刊から在籍していた『GLAMOROUS』のファッションディレクターに就任。2008年に現コンデナスト・ジャパンにて新雑誌創刊に尽力した後、『VOGUE girl』の創刊と運営に携わる。2014年、株式会社gumi-gumiを設立し同年7月より『Numero TOKYO』に参加。ドラマ「ファーストクラス」のファッション監修など幅広く活躍。

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