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People Interview

ジェンダートークvol.1
女性が社会で活躍するために、まずは声を上げよう

小誌エディトリアル・ディレクター軍地彩弓が、各界のエキスパートとともに、現代のジェンダー問題について語り合う対談シリーズ。第1弾はジェンダー・国際協力の専門家、大崎麻子さん。

FILE PHOTO: People gather for the Women's March in Washington
FILE PHOTO: People gather for the Women's March in Washington

女性が活躍できない国は、世界から見向きもされない?

軍地彩弓(以下、軍地)「ファッション界では、ディオールやプラダ、ミッソーニを始め、各ブランドが一斉にフェミニズムのメッセージを掲げています。ウィメンズマーチが世界中に拡大し、フェミニズムの気運が高まる一方で、日本はジェンダーギャップ指数が世界111位と世界から遅れをとっています。その原因はなんだと思いますか?」

大崎麻子(以下、大崎)「まず、ジェンダー平等を語るときに、人権という普遍的な観点と、経済的合理性から考える場合と2通りあります。2012年の第二次安倍政権が掲げた〈女性活躍〉は、いわゆる〈アベノミクス 3本の矢〉のひとつでした。女性や若者にもっと働いてもらって労働力を確保し、税収もGDPもアップしようという経済戦略です」

軍地「2006〜07年の第一次安倍内閣では、当時の厚生労働大臣から『女性は子どもを産む機械』という発言がありました。まだまだ世界では女性蔑視発言もある中、なぜいきなり2012年に女性に輝いてもらおうと変わったのでしょうか」

大崎「その背景は、世界的な経済の潮流があるんです。1990年代から国際機関が途上国の開発支援の効果を調査し、女性が教育を受け、経済力をつけると、獲得したお金をまずは家族のために使う傾向があるとわかったんです。つまり、女性のエンパワーメントを支援すると、子どもたちの健康・教育水準も上がる。、次世代への投資になるということで、世界銀行は、〈Gender Equality as Smart Economics(ジェンダー平等は賢い経済)〉という方針を打ち出しました。その後、OECDやIMFなど国際的な経済・金融機関が、先進国でも調査を行い、男女が等しく権利、責任、機会を持てるようなジェンダー平等社会の方が、経済成長の伸びしろが大きいと結論づけ始めたのです」

軍地「というと、家計を夫が担い、家事労働は妻が請け負う日本は、ジェンダー平等を実現していない?」

大崎「そうですね。未だにそのような性別役割分業を前提とした仕組みやカルチャーが根強い。妻と夫で家計責任と家庭責任を分ち合える社会ではないから、子どもも産みにくい。今後、重要になってくるサービス業・ITなどの知的産業に女性の発想が取り入れられれば、商品が多様化し国際的な競争力が増すわけですが、妻と夫で家計責任と家庭責任を分かち合えるようなジェンダー平等社会に移行していかないと、女性活躍は絵に描いた餅です」

軍地「多様性はイノベーションにも繋がりますよね」

大崎「世界経済フォーラムは、2006年からジェンダーギャップ指数を発表しています。それは、世界中の投資家やグローバル企業が、ジェンダー平等の状況を、投資の判断材料のひとつとして考慮しはじめたから。第二次安倍政権が発足した2012年は、経済再生が最優先課題でした。超少子高齢化の日本は、今後経済が縮小することは必至。男性中心の社会で、サービスやイノベーションは限定的。そんな国は誰も投資しません。安倍さんは就任後、国際社会に向けた初のスピーチは世界経済フォーラムの年次会議(ダボス会議)でした。世界の投資家に向けて日本を売り込まなくてはいけないわけですから、〈女性活躍〉を掲げ日本への投資を呼びかけたのです」

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ジェンダー・国際協力の専門家、大崎麻子さん。

女性は経済のための道具じゃない

軍地「安倍首相が始めた〈女性活躍〉によって、女性たちは労働・家事・育児の全てを期待され、負担ばかりが増えました。疲弊しきっている子育て世代を見て『私たちには無理』と女子学生たちの専業主婦願望が増えたことも話題になりました」

大崎「安倍首相の〈女性活躍〉は、経済政策です。最初は「女性活用」いう言葉を使っていましたよね。『がんばって働いてGDPアップに貢献してね、でも家事・育児も今までどおりタダでやってね』と。女性を経済成長に活用したい。そこには人権や社会的な観点は感じられませんでした。国際的な政策議論では、社会政策も同時に見ています。男女間の賃金格差といった性差別にも切り込んでいるのです。ただ、グローバル化と少子高齢化が進む日本で、専業主婦はリスクの高い職業です。ITの技術革新によって、自分らしい働き方を選べるようになっているので、がんばって模索して道を見つけ出して欲しいです」

軍地「とはいえ結局、安倍首相が掲げる〈女性活躍〉もそれほど進んでいません。客観的に見ると、日本は世界に比べてどのくらい遅れているのでしょうか」

大崎「日本は2020年までに女性の管理職割合を30%まで引き上げようとしていますが、現在は12.5%。達成できるか微妙なところです。実は世界的な流れで言うと、女性の管理職割合30%は1990年代のゴールで、今はCEOの女性の割合を40%以上に引き上げることを目標にしています。だから、日本は20年遅れているんですよ。日本の女性CEOはまだ4%程度ですからね。「働き続けられる環境」が社会政策によって整備されていないことの証左です」

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「就業者及び管理的職業従事者に占める女性の割合(国際比較)」 内閣府・男女共同参画推進連携会議「男女共同参画社会の実現を目指して 平成28年度データ」より

軍地「それでもやっぱり、安倍首相の〈女性活躍〉の効果はあったのでしょうか」

大崎「私はそう思っています。2012年以前は永田町や霞ヶ関において、ジェンダー平等なんて話題にも上らなかった。メディアに女性記者が増えても、ジェンダー問題を取材しても、意思決定ポジションにある男性に握りつぶされるという話をよく聞きました。国の男性リーダーである安倍首相が〈女性活躍〉を掲げることは、男性社会の経済・政治・メディアに対してインパクトがあったし、ジェンダー問題が日本の優先課題なんだとみんなの意識に根付かせたことは大きいことだと思いますよ」

Madonna speaks during the Women's March on Washington, Saturday, Jan. 21, 2017, in Washington. (AP Photo/Jose Luis Magana)
Madonna speaks during the Women's March on Washington, Saturday, Jan. 21, 2017, in Washington. (AP Photo/Jose Luis Magana)

トランプ米大統領就任翌日の今年1月21日、ワシントンD.C.で開催されたウィメンズ・マーチでスピーチするマドンナ

中絶すると逮捕される!? ニッポンの今

軍地「アメリカではトランプ大統領の就任以降、危機感を持つ女性たちがウィメンズマーチに参加し戦っています」

大崎「それはトランプ大統領が、「妊娠中絶した女は牢屋にぶちこめ」などという暴言を吐き、女性の人権の根幹にある〈リプロダクティブ・ヘルス&ライツ(性と生殖に関する自己決定権)〉を否定したから。この権利は、女性たちが数百年も戦って戦って、勝ち取った権利です。1994年に初めて、自分の身体やパートナーとのセックス、避妊、妊娠、出産などに関する選択は女性の権利だということが国際社会で明文化されたんですよ(カイロ宣言)。それを、影響力の強いアメリカの大統領が否定したものだから、世界中の女性が声を上げているんです」

軍地「その一方で、ジャーナリストの詩織さんが告発したレイプ事件は不起訴になり、セクハラ問題も山積みの日本なのに、女性たちが抑圧されていることに無自覚なような気がします。日本の女性が意識すべきポイントとは?」

大崎「日本は、今でも刑法に堕胎罪があります(刑法第2編第29章)。中絶すれば逮捕される法律があるんですよ。でも実際にそうならないのは、母体保護法によって、母体に危険があるときや経済的な理由で妊娠継続が困難なときは中絶しても許されるからなんです。みなさんに知って欲しいのは、日本には〈性と生殖に関する自己決定権〉を否定する法律が今でも存在します。そういう国で生きていることに、気がつかなくちゃいけない。それに連動して女性を性的な対象のものとして見ていいという社会意識の問題もあります」

軍地「根本的な女性の権利が守られていないけれど、現実世界はあまりにも平和で、自分や身近な人が性的な被害に遭わない限り意識することはほとんどありません。女性たちが自ら問題意識を持つためにはどうしたらいいでしょうか」

Actress Emma Watson, U.N. Women's Goodwill Ambassador, speaks at a press conference during the meeting of the 71st session of the General Assembly, Tuesday Sept. 20, 2016 at U.N. headquarters. (AP Photo/Bebeto Matthews)
Actress Emma Watson, U.N. Women's Goodwill Ambassador, speaks at a press conference during the meeting of the 71st session of the General Assembly, Tuesday Sept. 20, 2016 at U.N. headquarters. (AP Photo/Bebeto Matthews)

国連親善大使のエマ・ワトソン

まずは声を上げること。そこから社会は変わる

大崎「我慢していることを良しとしないで、まずは声を上げること。問題提起しない限り、社会は変わりませんから。ファッションからそういう流れがあるのはすごいことだと思います。エマ・ワトソンが国連の親善大使としてジェンダー平等を男性と女性の問題として捉えようという〈HeForShe〉キャンペーンを推進し、ワン・ダイレクションのハリー・スタイルズが賛同しています。日本では、安倍首相も。カナダのトルドー首相、フランスのマクロン大統領など若い政治家や、オバマ前アメリカ大統領、テニスプレイヤーのアンディ・マレーも折に触れて「自分はフェミニストだ」と表明している。フェミニストとは、男女の権利は平等だと信じている人のことなんですよね。女性だけの問題じゃない」

軍地「男性も女性も、持続可能な社会を作るためには、女性の地位が向上して少子化が改善されることが、理想的だと意識するべきなんですね。女性たちも、我慢していないで、男女平等は当たり前のこと、日本が遅れているんだと意識することが必要ですね。私たち『Numero TOKYO』もできることからアクションを起こしていこうと思います」

「新・女子力」って何ですか? を読む

Profile

大崎麻子(Asako Osaki) コロンビア大学で修士号取得後、国連開発計画(UNDP)NY本部にて途上国のジェンダー平等と女性のエンパワメント推進を担当。現在はジェンダー・開発政策の専門家として、国際機関、省庁、開発援助機関などで活躍。(Photo:Wataru Fukaya)

Profile

軍地彩弓(Sayumi Gunji)エディトリアル・ディレクター。大学在学中よりフリーランスライターとしてキャリアをスタート。卒業後は雑誌『ViVi』でファッションライターとして活躍し、創刊から在籍していた『GLAMOROUS』のファッションディレクターに就任。2008年に現コンデナスト・ジャパンにて新雑誌創刊に尽力した後、『VOGUE girl』の創刊と運営に携わる。2014年、株式会社gumi-gumiを設立し同年7月より『Numero TOKYO』に参加。ドラマ「ファーストクラス」のファッション監修など幅広く活躍。

Interview:Sayumi Gunji Text:Miho Matsuda Edit:Etsuko Soeda

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