ジェンダートークvol.2 広告業界を動かす「ジェンダーイコール」の風
小誌エディトリアル・ディレクター軍地彩弓が、各界のエキスパートとともに、現代のジェンダー問題について語り合う対談シリーズ。第2弾は、「ブルーカレント・ジャパン」CEOで「カンヌライオンズ2017 」PR部門の審査員を務めた本田哲也さん。

クリエイティブで性差別や偏見を打ち破ろう
軍地「カンヌにはグラスライオンという部門がありますが、それはいつから?」
本田「2015年に設置されました。世界が抱えている問題には、クリエイティブの力で解決できることも多い。なかでも性差別や偏見を打ち破るようなクリエイティブに贈られるのがグラスライオンです」
軍地「『フィアレス・ガール』はグラスライオンのカテゴリーでもグランプリを獲得しましたね」
本田「もともと、世界の広告・PR業界は女性が多く、業界自体にジェンダーイコールの視点があります。自分たちがひっぱるべきだという意識もあるのかもしれません。『フィアレス・ガール』は、まだ男性社会が根強い米国の金融業界に一石を投じた作品です。ニューヨークのウォール街にある荒々しい雄牛の銅像チャージング・ブルは、株式市場のエネルギーやパワーの象徴でもあります。そこに真っ向から立ち向かう構図で、小さな少女の銅像を配置しました。スポンサーは投資会社ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ。女性幹部の起用を指標にしたSHEファンドのPRでもあったのですが、12時間でツイッターの10億リーチを達成し、ファンドの売り上げは4倍近く跳ね上がりました」
軍地「”ストロング”より”フィアレス”。これまでの強い女性を表すイメージは”スーパーウーマン””マイティウーマン”などでしたが、女性が男性社会に対峙する、恐れのない自由と勇気というのは現代的ですよね。カンヌではどんな評価だったんでしょうか。
本田「特に北米からの前評判が高かったんです。最近の傾向として、企業が社会に問題提起してこそブランドの価値があるという発想があります。金融業界という、アメリカの中でも特に保守的な業界に対して、こういったアプローチをすること自体、企業として勇気があるという評価もありました」
──話は変わりますが、日本ではたびたび女性を扱ったCMが炎上騒ぎを起こしています。女性をホステス的に扱ったもの、ワンオペ育児の推奨と捉えられたものなどありますが、世界的に見るとどうでしょうか。
本田「NGでしょうね。日本企業の上層部は、まだまだ圧倒的に男性が占めています。今後、企業の意思決定ポジションに女性が増えれば、広告表現なども変わるでしょうね。とはいえ、現時点での企業の優先は広告表現チェックよりも女性管理職の割合を増やすこと。今はクリエイティブに反映できる前段階かもしれません。3年後は、今の欧米のようなジェンダーイコール・キャンペーンも出てくるでしょう」
軍地「今、日本では男性社会の中で活躍しようと頑張る女性ほど疲弊し、その状況を見ている若い女性たちの専業主婦願望が強まっていると言われています」
本田「マイナスのキャンペーンが働いているわけですからね。日本は、保育園の待機児童問題やワンオペ育児など、まずはインフラを整え”マイナスからゼロに”する必要があります。アメリカにも、前回の米大統領選でヒラリー・クリントン氏が敗退したときに語っていたように、社会でより向上しようとする女性を押さえつけている”ガラスの天井”問題があります。でも、日本よりは社会インフラが整っているから、ゼロからプラスに移行する段階に来ている。だから、ジェンダーイコールの広告キャンペーンが有効だし、評価もされる。日本と欧米とでは、レイヤーが違う議論がなされているんです。この領域で今後優れたクリエイティブが生まれるかどうかは、これから日本がどう変化できるかにかかっているのではないでしょうか」
ジェンダートーク vol.1を読む
「新・女子力」って何ですか? を読む
Interview:Sayumi Gunji
Text:Miho Matsuda
Edit:Etsuko Soeda
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