女性を輝かせ続けるシャネルとミューズ。小松菜奈にインタビュー
アフリカ大陸のセネガル・ダカールで開催されたシャネルの2022-23年 メティエダール コレクション。ショーにも出席した、メゾンのアンバサダーであるモデル・女優の小松菜奈が、現地の人々によるエネルギッシュなパフォーマンスで構成されたショーを回想して、コレクションのルックを軽やかに逞しく、そしてしなやかに纏った。( 『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2023年7・8月合併号掲載)
小松菜奈とシャネルの出会い
シャネルとの出会いは18歳。「映画『渇き。』で俳優としてスタートしたばかりのタイミングで、何者でもない私に声をかけていただいて、そこから気がつけばこんなにも長い月日がたちました。パリ近郊のアーカイブ施設でメゾンの歴史を学び、アトリエに伺って職人さんたちの手仕事を目で見て、クリエイションの原点に触れさせてもらった経験も。作り手には熟練の年配の方もいれば、私よりも年下の方もいて、一人ひとりが自分にできることに注力している。やること、できることを分配して一つの作品を作り上げていくので、互いに対話をしながら、思いを込めていく姿に何度も心を動かされてきました。
華やかな表舞台だけではなく、その裏側まで共有した上でシャネルを纏うことによって、私自身も背中を押される。背景には美学があり、多くの方の思いが込められているからこそ、私もふさわしい人にならなければと背筋がしゃんとする」
アンバサダーとして共に歩んできた道筋を、彼女は“旅”と表現する。「出会いからもう少しで10年になりますが、私はずっとシャネルと共に“旅”をしてきたんだと思っている。チームはもはや家族のような存在で、刺激的でありながら体温の宿るような温かなムードに包まれる。そのチームが世界のさまざまな場所に連れていってくれて、一緒に歩み、一緒に学び、たくさんの気づきを与えてくれました」
鮮烈な記憶の一つとして挙げたのは、昨年12月にセネガルの首都ダカールで開催された2022/23年メティエダール コレクション。
「ショーの前に、アフリカ、ダカールのカルチャーについて学ぶと同時に、心がえぐられるような悲しい歴史を現地の方に教えていただく機会もありました。それはとても勇気が必要なことだったはず。その背景を知った上で見る現地のクリエイターによる伝統的な舞踊や音楽のパフォーマンスには、人間が持つ生きるエネルギーが満ちあふれていて、気がつけば私も一緒になって手を叩いたり、音楽に合わせて自然と体が動き出した。国や人種を超えたあの一体感はただただ美しい光景でした。単純にきれいだった、素敵だったという言葉ではとても追いつかない貴重な体験をして、ダカールは私にとってまた一つ特別な場所になりました」
「思いがけずジワっと涙となって込み上げる瞬間が何度も訪れるんです」
続いて、今年6月に日本で再演される2022/23年メティエダール コレクションでは、彼女も主要ホストとしての重要な役割を担う一員となる。
「まず、フランスのチームが東京に来ることをすごく楽しみにしてくれていて、彼らと一緒にまた新しいものを生み出せると思うと本当に幸せです。ダカールをインスピレーションとして生まれたコレクションが、東京と混ざり合ったときにどんなコラボレーションになるのか?今から待ち遠しい気持ちでいっぱい。ショーのホスト側になるのは大役ではありますが、緊張はあるけれどプレッシャーはありません。それは折に触れて『一緒に楽しもう。菜奈、ノープレッシャーだよ』と何度となく励まされてきたから。」
「シャネルチームとのクリエイションは、どんなに忙しい最中だとしても、自由で朗らかな雰囲気があるんですよね。私の気持ちも自然と引っ張られていきます。よりいいものを目指して作り上げる気概に触れると、自分の中にある感覚を呼び起こしてチャレンジをしたくなる。一員として輪の中に入って、誰もが平等に意見を交わし合っていると、さらに高い場所まで一緒に上っていける!と勇気さえ湧いてくるんです。信頼とリスペクトがあって、チームとして成熟しているからこそ、まずは自由にやってみることからスタートする。誰かが萎縮したり、硬くなったりせず、でもいいものができるまではしっかり粘る。現場にいると、自分がこうしたい、私はこう思うといった意思表示が求められるので、自分の心がどこにあるのかを理解していることがすごく大事になります。意見が通るか通らないかは二の次で、伝えることを諦めちゃいけないという大切な気づきもある。そういったモノづくりとして本来あるべき原風景に触れると、うまく言えないけど愛おしさや感動で、思いがけずジワっと涙となって込み上げる瞬間が何度も訪れるんです。この経験は紛れもなく一生モノ」
「常に自分がイキイキとできる選択をしていきたい。妻だからとか、俳優だからではなく、人として」
3月に行われたパリでのコレクション(23ー24年AW)では、シャネルの世界観を体現するヒロインとして抜擢され、日本はもちろん世界でも大きな話題となった。
「日本人の私には手の届かないことだと思っていたので、会場に自分の顔があんなに大きく映し出されたときは、完成したものを届けられた安堵と感動がありました。ムービーの撮影を振り返ると、モデルと並行して俳優をやってきたからこそつながった表現も。それは、それぞれの場所で培った経験が循環していくような感覚でした。モデルと俳優を行き来すること、その両方があることが今の私にとって最適なバランス」モデルとして俳優としてはもちろん、一人の女性としても取り巻く環境は大きく変化した。
「例えば、結婚にしても覚悟を決めたというよりは、流れの中で今がタイミングだという直感に突き動かされたというのが合っている気がします。本来は考え込んでしまうタイプだけど、そんな自分を知っているからこそ考えずに動く。挑戦や変化は、いつしか自信になったり、サプライズのような出来事を人生にもたらしてくれると思うんです。また、その先には新たな目標が見つかる。あと、同じところにとどまっているのはすごくつまらないし、常に自分がイキイキとできる選択をしていきたい。自分に飽きたくないんですよね。だから仕事にしても、楽しくて得るものがあるから続けられている。好きじゃないことをやり続けていたら、きっと心が死んじゃうじゃないですか。だから家族ともよく話すんです『私はこういう生き方をしていきたいんだよね』って。生き方はその時々によって変わり続けるだろうけど、妻だからとか、俳優だからではなく、人として。そうやって夫婦で考えや感情をいつも共有し合っています。もちろん今日あったしょうもない出来事もめっちゃ話します」
最後に、彼女が今、何に喜びを見いだしているかを聞いてみた。「自分を通して誰かの心を動かすことができることは喜びであり、やりがい。これはずっと変わらない。人生が変わるかもしれない、そういったきっかけや動機になれているとしたら幸せですね」
[Fashion]Photos:Syuya Aoki Styling:Tomoko Kojima Hair:Yusuke Morioka at Eight Peace Makeup:Masayo Tsuda at Mod’s Hair Edit & Text:midori at W[Interview]Interview&text : Hazuki Nagamine Edit : Michie Mito
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