髪との関係は新時代へ vol.5 いまさら聞けない ヘアドネーションのすべて | Numero TOKYO
Beauty / Feature

髪との関係は新時代へ vol.5 いまさら聞けない ヘアドネーションのすべて

昨今、ヘアの世界では新しいムーブメントが巻き起こっている。時代の最先端をいくヘアサロンの紹介からヘアドネーションの方法、ヘアケアアイテムまで自分らしいヘアとの付き合い方を探してみよう。vol.5はいまさら聞けない ヘアドネーションのすべて。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2023年3月号掲載)

ヘアドネーションはどうあるべき?

昨今、伸ばした髪を寄付する「ヘアドネーション」が注目ワードに。ドネーションを多く受け入れている二つの団体、Ribinetの戸塚貴博さんとNPO法人JHD&Cの今西由利子さんが、初心者の素朴な疑問に快く答えてくれた。

「もともとは、今まで“事業用ゴミ”として捨てられていたヘアをアップサイクルする活動でした。一人での作業には限界がありますが、なんとか業界をより良くしていきたい」と戸塚さん。各団体の根気強い取り組みが功を奏し、今では切った髪を“資材”として活用することがようやく社会に浸透してきた。どちらの団体にも、もともとは一人の美容師がサロンワークの合間を縫って立ち上げたという経緯が。ウィッグのニーズは途切れることがないといい、ドネーションしすぎるということは今のところなさそうだ。ただ今西さんは「ヘアドネーションはあくまで個人の自由意思による活動です。民間の自助の取り組みがいつまでも必要とされているというのも、また違う」と話す。「ウィッグを着けても着けなくても、誰も見とがめず自由に自分らしくいられることこそが理想なはず。当事者の選択肢が受容される社会の実現のために、これからも尽力したいです」

JHD&C|ジャーダック

頭髪に悩みを抱える18歳以下の子どもたちにウィッグを無償提供する活動を始めた、日本初のNPO法人。大阪を本拠地としており、その活動に賛同を表明しているサロンは全国2,500店以上、またこれまでの累計ウィッグ提供数は600個以上にのぼる。
jhdac.org

Ribinet|リビネット

ヘアドネーションの受け入れとウィッグの提供をはじめ、美容室に来られない人へ向けた在宅訪問による施術の普及活動やサロンでできるボランティア、リサイクル活動の実施に取り組む任意団体。川崎が本拠地で、美容師が立ち上げ、運営までを行う。
ribinet.com

ドネーションした髪がウィッグになるまで

▶︎step1|ドネーションカット

規定の31cm以上までヘアを伸ばしたら、ドネーションしたい長さより下をゴムで留め、結び目から1cm以上離してカット。カビや雑菌の繁殖を防ぐため、必ずドライで行うこと。受け入れ団体の設けた条件を満たしていれば、サロンで切ってもセルフカットでもOK。

▶︎step2|髪を送る

切った毛束をひとつにまとめ、受け入れ団体へ発送を。サロンからではなく、ドネーションする本人が送るのが条件のところもあるので、事前に確認して。過剰梱包は避け、仕分けしやすい形で送ることを心がけよう。迷ったら受け入れ団体のHPをチェック。

▶︎step3|ウィッグを作る

届いたヘアは長さごとに仕分けされ、髪の加工処理を行う工場へ搬送。その後、いよいよ製作工場に送られ、職人の手によってウィッグへと姿を変える。各受け入れ団体にそれぞれ異なる工程や流通経路があるけれど、製作依頼から納品まではおよそ2~4カ月ほど。

▶︎step4|ウィッグを届ける

完成から検品を経て、ウィッグはヘアドネーションの受け入れ団体から利用希望者のもとに送られる。使い方やお手入れ方法の指南まで、長く快適に使うためのサポートも充実。フィッティングやカットなどもこの段階で行い、晴れてヘアがウィッグへと生まれ変わる。

ヘアドネーションQ&A

【Q1】髪をドネーションするための条件は?

長さが31cm以上あれば、くせ毛やパーマ、ブリーチヘア、白髪を問わずドネーションできる。レングスの基準は、医療用の全頭ショートヘアウィッグを作るために必要最低限な12インチという数字。これ以上長い場合でも短くカットされてしまうことはなく、資材が不足しがちなロングスタイルのウィッグ製作に役立てることができる。

【Q2】届いた髪はどのようにしてウィッグになる?

まずは長さ別に仕分けされ、髪質やカラーを薬剤で均一化する作業を行う工場へ。その後、ヘアスタイルや頭型の指示書などとともにウィッグ製作業者へ送られる。業者は現在海外にしかおらず、時間とコストがかかることは不可避。完成したウィッグはノーカットの状態で納品され、必要に応じてフィッティングやカットが施される。

【Q3】完成したウィッグは誰のもとへ?

各団体により基準は異なるものの、個人の希望者が大半。既製品のサイズやスタイルの選択肢が少なく、成長に応じて買い替えが必要になってしまう20歳以下の若年層が中心だ。利用者として一般によく知られているのは小児がんの子どもたちだが、脱毛症の子どもたちに対するサポートも実際は多く行われている。

【Q4】髪を送る以外にも、できることはある?

JHD&Cでは、寄付金額に応じてオリジナルシャンプーなどの返礼品が贈られる「チャリティファンディング」を実施。ウィッグ提供費用の一部に役立てている。またRibinetは、比較的短いヘアでも行える漆刷毛の素材用のドネーションも受け付け。ヘアカラー剤のアルミチューブをリサイクルし、ウィッグ製作費の足しにする試みも。

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Illustration:Manami Abe Text:Misaki Yamashita Edit:Sayaka Ito, Mariko Kimbara

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