Who is Yasumasa Yonehara? 稀代の編集者・米原康正に迫る! | Numero TOKYO
Culture / Feature

Who is Yasumasa Yonehara? 稀代の編集者・米原康正に迫る!

米原康正とは何者だろうか。伝説のギャル雑誌『egg』の全盛期を築き上げるなど、ガールズカルチャーを追いかけ、仕掛け、応援してきた第一人者。最近はSNSなどで次世代のアーティストを発掘、その才能を日本だけでなく世界に向けて送り出している。編集者、写真家、アーティスト、それだけの肩書きでは語り尽くせないその実像に迫る!(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2022年3月号掲載)

 

01. アウトサイダーの精神はパンクと熊本で育まれた

熊本県に生まれ、男性は酒を飲み女性が家事をする家父長制の中で育った。「小さい頃はルールに縛られる男の子の遊びより、女の子たちと遊ぶ方が好きでした」。10代でパンクに出合い、大学進学のため上京。学習院大学在学中にライターを始め編集の道へ。「メインカルチャーに対抗してマイナーを愛する精神はパンクに教わりました。パンクはモテると思ってたし、どうすればモテるのかを研究しているうちに、旧来型のおじさんの価値観ではダメ、僕自身もそれは面白くないと気付き、たどり着いたのがギャルや女の子の文化でした」。

 

米原のアトリエにて Photo:Kouki Hayashi
米原のアトリエにて Photo:Kouki Hayashi

02. 渋谷から生まれた「コギャル文化」を牽引

「渋谷の女子高生には93年頃から注目していたんですが、ギャル雑誌の創刊を持ちかけられて始まったのが、コギャルのための雑誌『egg』でした」。『egg』の95年0号から月刊化する97年までクリエイティブディレクターを務めるが、社会現象になりビジネスになったと同時に離脱し、読者投稿型雑誌『アウフォト(OUT OF PHOTOGRAPHERS)』を創刊。「当時、若者やギャルが使い捨てカメラ『写ルンです』で日常を撮ったり、ポラロイドで変顔を自撮りしてイラストを描いていることが面白くて」。『アウフォト』は97年から2000年まで13冊を出版した。

(左)読者から写真を投稿してもらい掲載していたインスタグラムの先駆け的雑誌『アウフォト(OUT OF PHOTOGRAPHERS)』(写真は1998年発行のvol.7)。
(右)伝説のギャル雑誌『egg』。1995年に発行された創刊号(vol.1)の表紙。

03. 女の子たちの表現の面白さがアートであることに気づく

一方、少女向けファッション雑誌『ニコラ』では、お悩み相談に回答する「ニコラにーさん」を22年間務めた。「読者は思春期の女の子なので編集部に寄せられる悩みには恋や性、生き方にまで及びました。そこに届く葉書に顔の3分の2が目という女の子のイラストが多くあった。それを見てすごく面白いしこれは彼女たちが表現するアートだなって思ったんです。そういう女の子たちが今のSNSにいっぱいいる。そういうニコラにーさんの経験が、今のデジタルアートのキュレーションにつながっています」

『ラヴ&ファイト―おしゃべりくらぶに届いた“ニコラたち”のホントの言葉 (nicola books)』(1999)小学校高学年から中学校までの女の子たちから雑誌『ニコラ』に寄せられた、恋愛、学校、友達、セックス、いじめ、コンプレックスなどに関する手紙を収録。
『ラヴ&ファイト―おしゃべりくらぶに届いた“ニコラたち”のホントの言葉 (nicola books)』(1999)小学校高学年から中学校までの女の子たちから雑誌『ニコラ』に寄せられた、恋愛、学校、友達、セックス、いじめ、コンプレックスなどに関する手紙を収録。

04. 女の子も支持! アートでおしゃれなヌードは海を渡る

00年代は女子に嫌がられない「エロ」を追求。編集者としてさまざまな雑誌や企画を立ち上げる。まずは内藤啓介の「ちんかめ」(メンズファッション誌『smart』の連載)写真集に協力。2002年プロデューサーとして『smart girls』を創刊する。ここで始めたチェキを機材として使った撮影で自らフォトグラファーとしてもデビュー。米原の表現する原宿にいるようなおしゃれな女の子のゆるエロ(ゆるいエロ)が男の子はもとより、女の子の間でも話題になる。2004年からギャル雑誌『S Cawaii』副編集長の故・國場氏が企画した「エロカワ(エロくてかわいい)」を共同布教。この時代の女子ファッションの基本をエロにした。同じ04年には空山基、KAWS、NIGO®️というアーティストたちも参加する『Naked Magazine』という雑誌をプロデュース。00年代、蒼井そらを中華圏に紹介したのも米原である。

右上から時計回りに/台湾の雑誌『FUNS WANT』2009年1月号。ムック『smart girls』1号(2001年)。雑誌『warp LOVERS』1号(2008年)。写真集『Tokyo Amour』(2008年)。著書『なま写心―THE PURE SOUL THROUGH PICTURES』(1999年)。雑誌『Naked Magazine』1号(2004年)。
右上から時計回りに/台湾の雑誌『FUNS WANT』2009年1月号。ムック『smart girls』1号(2001年)。雑誌『warp LOVERS』1号(2008年)。写真集『Tokyo Amour』(2008年)。著書『なま写心―THE PURE SOUL THROUGH PICTURES』(1999年)。雑誌『Naked Magazine』1号(2004年)。

05. 木村拓哉を上回るWeiboのフォロワー数

00年代後半から17年頃まで活動の拠点は中国に。「日本では、面白い文化も商業主義の大人に囲まれてつまらなくなる。その繰り返しだったので、次は中国で自分自身がフォトグラファー/アーティストとして発信することをやってみようと考えました」。彼のローファイセクシーな写真が人気となり、撮影とDJのイベントで中国15都市を周るなどタレント的な人気も得た。現在も新浪微博(Weibo)のフォロワー数は280万人で、木村拓哉の256万人を超える(22年1月現在)。メディアが取材に入るとどこからともなく女の子が集まったり、移動にボディガードがついたことも。

左上から時計回りに/中国のアートマガジン『BBART(Harper’s BAZZAR ART)』2020年6月号の表紙を担当。自身が編集長を務める上海吉祥航空の機内誌『逛逛日本』(写真は2016年春号)。イベントで女の子たちに囲まれて(2013年、上海)。盛り上がりすぎたイベントでの様子(2017年、瀋陽)。一方で移動中はボディガードに囲まれることも(2012年、済南)。
左上から時計回りに/中国のアートマガジン『BBART(Harper’s BAZZAR ART)』2020年6月号の表紙を担当。自身が編集長を務める上海吉祥航空の機内誌『逛逛日本』(写真は2016年春号)。イベントで女の子たちに囲まれて(2013年、上海)。盛り上がりすぎたイベントでの様子(2017年、瀋陽)。一方で移動中はボディガードに囲まれることも(2012年、済南)。

06. 「こことコラボするとみんなプラスだよね」


日本にも面白いアーティストたちがいっぱいいるのに、誰もキュレーションしないなんてもったいないと、中国から日本に戻り19年にスタートしたのがコラボレーションプロジェクト「+DA.YO.NE」。命名は、m-floのVERBAL。「ここではアート、音楽などあらゆるジャンルから、僕が気になった人たちを集めて、コラボレートすることにより、新たなイベントや企画、作品が生まれる場所です。情報発信は、Twitter、Instagram、noteなどのSNS。フィメールラッパーを集めた音楽レーベル(p.102)はYouTubeと配信を中心に展開します」


NFTアートのギャラリーも開設し、アートの可能性を追求中!
https://mybae.io/gallery/DYC
https://mybae.io/gallery/DYN

07. 権威的な美術界のカウンターをつくる

「僕が集めるアーティストは、美術教育を受けている人もいれば、自己流で絵を描いてSNSに上げる人もいます。手法も油絵やデジタルなどさまざまですが、声をかける基準は僕が見て面白いこと、僕と組むことでその子の可能性が広がるかどうか。写真家ののようにまだ若い作家のエキシビションを開催したり、X-girlに藝大生の友沢こたおを紹介してエキシビションを企画したこともありました。アニメーターとしてすでにキャリアのある米山舞の作品と『WEGO 放課後アート部』の受賞作を一緒に展示するなど、見せ方をエディットすると作品に新しい見方が生まれるんです」

2021年に手がけた展覧会の一部。右から/写真家、葵の個展「Aoi photo exhibition」。「WEGO 放課後アート部」の展覧会「米山舞展 “JOY”」。友沢こたおの個展「X-girl presents KOTAO TOMOZAWA exhibition “bébé”」

08. 作家活動と並行し、ガールズカルチャーを世界へ

Art Work:Yasumasa Yonehara
Art Work:Yasumasa Yonehara

撮った写真にペイントを施した作品やチェキなど自身もアーティストとして活動し、「いったい何者なのか?」と言われることもあるが、ベースにあるのは編集者としての視点。「対象から一歩離れて、自分が何をすれば誰に届けられるかを考えるのが本来の編集者の役割。いま自分がしているのは、受け皿のない子たちの活躍の場を作ること。SNSで世界はつながりやすくなっています。面白い子はSNSを通じて世界中から見つけることもできるし、日本のアーティストを世界に紹介することだって簡単なことなんです」

特集「ガールズカルチャー最前線」を読む

Interview & Text:Miho Matsuda Edit:Sayaka Ito, Mariko Kimbara, Shiori Kajiyama

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