ブレイク間違いなしのいち押しアーティストたち【1】友沢こたお | Numero TOKYO
Culture / Feature

ブレイク間違いなしのいち押しアーティストたち【1】友沢こたお

米原康正が太鼓判を押す7人のアーティストにインタビュー。 いま最も勢いのある彼女たちの作品とともにそこに込めた想いや、これからの展望について聞いた。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』3月号掲載)

「彼女の絵をTwitterで見つけたとき、素直にやられたっていうか、すごいなあって感覚だった。特異でありながらメジャー性があるというところが、すごく僕が惹かれた部分ですね」by 米原康正

原始に宿る、生きるノイズ感を油絵に託す

「slime L」2021
「slime L」2021

「私は生きている」その証

──子どもの頃はどんな子でしたか。

「赤ちゃんの頃から絵を描いていました。母が家でずっと絵を描いていたので、すごく自然な流れで」

──本格的に絵を描きたいと思ったきっかけは?

「母の影響で子どもの頃から『ガロ』の漫画を読んだりしていたので、昔は漫画家になりたかったんです。だけどそう簡単にはなれないなって中学生の頃に気づいて、ちゃんとデッサンを勉強して、油絵を描きたくて美術の高校へ進学しました。それでみっちり美術の先生に教えてもらったんですけど、その3年間が自分の基盤になっていますね」

──ご自身のアートのスタイルはどのような感じだと思いますか。

「『私は生きているよ』っていうのを示しているだけです。今はたまたまスライムの作品を作っていて、ハイパーリアリズム的といわれることが多いんですが、それは違う。スライムを実際に自分の顔にかぶっているということが重要で、絵はたまたま描いただけというか。描き方も、私と油絵のすごい密な関係なんです。実際にキャンバスで見ていただくとわかると思いますが、ただの“うまい絵”ではなく……変な絵なんです(笑)」

──スライムをモチーフにした作品の誕生秘話を教えてください。

「この世のことはグルグルと渦巻きのように、神話のように、昔から仕組まれていたという考え方なんです。だから偶然ではなく、なんらかの形でこういう絵を描いていたと思います。スライムを描き出したきっかけは、私のベビーシッターだったアンディ・ボリュスです。アンディはevil moistureという名前でノイズミュージシャンもやっているアーティストで、私の脳内師匠みたいな人なんですね。その師匠が来日したときに一緒に『ガングロ牧場』という絵の展覧会をしたんですが、アンディが日本のお土産を買いすぎて、帰りの飛行機で重量オーバーになるからと荷物を置いていったんです。その中に黒いスライムがあって、気づいたら私はそれをかぶっていて(笑)。顔にバ~ッとかぶったときに、すごく安心したんです。『これが生きている俺だ!』って(笑)。私は芸能活動をしていた時期があったんですけど、自分は他者の理性でつくられていて、皆が見ている自分は本当の自分じゃないということを感じていた時期があったんです。私の何をみんな見ているのかなと、どんどん何も信じられなくなる。だけどスライムをかぶったときに、息ができないスライムの中から見えている景色は私だけの景色だなと思って、「私は生きている」と感じることができたんです」

「slime XCI」2021
「slime XCI」2021

肉体に深く響くヌルヌル感

──スライムに人生を助けられたと。

「はい。それが藝大に入学をしてすぐだったんですけど、入学してから夏まで絵を描いていなくて、でも藝祭というのが毎年夏にあるので、そこでもう一度油絵を描いてみようと思ったんです。そのときに『ゆきゆきて、神軍』というドキュメンタリー映画をあらためて観直して、それが肉体にズンと響くような内容だったんですね。その頃は肉体に響くような絵を描きたいと思っていたので、ありのままを描くという原点にもう一度戻ってみようと思って。そのときに『私、フィジカルにスライムかぶったじゃん』って。自分はこれまでうまく油絵を描けなかった理由の一つに、どうしてもヌルヌルした質感になってしまうという問題があって、たぶん私の人間性がヌルヌルしているからだと思うんですけど、だけどスライムをかぶった自分を描いてみたら、その感じが良い方向に活きたというか」

──社会に対するテーマ的なことはありますか。

「原始的に生きる、みたいな。生の部分ですね。なんか肉体に語りかけたいんですよね、思わず息が止まってしまうような。その中に暴力性とか凶暴性とかいろいろ秘められているし、ただの『スライムどん!』に見えるかもしれないですけど、全ての作品に長いメッセージが入っています。私は描くのがすごく速いんですが、どれも生きてきた22年を懸けて描いたと思っています」

──米原さんとの出会いは?

「2020年の10月くらいにTwitterでメッセージをいただいて、そのときに米ちゃんがshiki♡ちゃんというアーティストの個展をキューレーションしていたので見に行ったら、めちゃくちゃやられてしまいまして。そこで初めて米ちゃんと会って一緒にご飯に行きました。その頃は不安な時期だったんですけど、米ちゃんの話がすごく励みになりました」

──どんな画家になりたいですか?

「作品を描いているときは、視野1センチで生きているので、何年後に何をしているのか私が知りたい!って感じなんですけど、いろいろな絵を描いてみたいし、海外へ出て刺激を受けてみたいですね」

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Interview & Text:Kana Yoshioka

Profile

友沢こたおKotao Tomozawa 1999年生まれ。フランス・ボルドー出身。5歳までパリで過ごす。2018年、東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻入学。同年、アンディ・ボリュスとの二人展「ガングロ牧場」を開催。19年に漫画家である母、友沢ミミヨとアートユニット「とろろ園」を結成。20年には初の個展「Pomme d'amour」を開催。
Twitter:@KKKOTAO1
Instagram:@tkotao

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