日本の国民的キャラクターは、 なぜリボンを纏う?
人気キャラクターから漫画アニメの主人公まで、愛され続ける理由は「リボン」にあり⁉︎ 現代アートのインスパイア源にもなっている日本の国民的キャラクターがリボンを纏う理由を、ファンシーカルチャーに精通する編集者の竹村真奈さんとともに考察!(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2021年11月号掲載)
わたしたちが憧れ続ける、リボンの持つ強さ
「まず、可愛さ。それから、男の子キャラクターと分けるための表現として使われることもあるし、幅の太さによっても女性らしさが出たり、元気なイメージになったりしますよね。プレゼントのリボンやご祝儀袋の水引もそうですが、大事なものを贈るときの特別感もあります」と、リボンの持つイメージを話してくれた竹村さん。アニメキャラクター、企業のイメージマスコットなど、リボンがアイコニックなキャラクターは実に多様だ。「なかでも特別なのはやっぱりハローキティ。ご当地キティはもとより、いろいろなコラボレーションをしてもイメージが崩れないんですよね。それはリボンがあれば、顔がなくてもわかるっていう強さがあるんです」。そう、リボンはキャラクターの個性を表す重要なアイデンティティでもあるのだ。 ところでリボンに物語を感じるのは、「結ぶ」行為にあるのではないだろうか。ほどけないようにぎゅっとリボンを結ぶしぐさに「強い決意のようなものも感じる」という、竹村さん。両性の心を持ちながら勇敢に戦う『リボンの騎士』の主人公・サファイアのリボンは、“強さ”の象徴といえるだろう。起源を遡ると、男性のための実用的な結び紐としてリボンの歴史は始まった。近代以降は蝶ネクタイやオペラパンプスなど男装に取り入れられ、日本もまた洋装化とともに日常に入ってきたとされている。現代ではレディースファッション、または少女キャラクターとともにリボンはあり、女性に紐づいたイメージが強いといえるだろう。とはいえ多様性を重視する現代において、今後リボンのあり方も変わってくるのではないか、と竹村さんは話す。「keisukekandaさんの『りぼんの戦士』っていう、リボンの形をしたプラモデルがあるんです。今でこそ女の子のものっていうイメージのリボンを、男の子のおもちゃとされてきたプラモデルにしたのが新しい」。将来は性別を固持しない、リボンが象徴的なキャラクターが新たに登場するかもしれない。 竹村真奈 Mana Takemura 編集プロダクション・タイムマシンラボ代表。残すべきカルチャーを本にする仕事や企画・プロデュースを中心に活動中。著書に『あたらしい暮らしを作る。』(翔泳社)『、'80sガールズファッションブック』(グラフィック社)や、ムック『お笑いブロス』や『サンリオ展』図録の編集など。手掛けた本は200冊以上。奈良美智×ドラミちゃん
くるりとカールしたまつ毛、黄色いボディに真っ赤なリボン。兄のドラえもんと異なり、女性らしいパーツを身に纏う「ドラミ」。誰もが思い浮かべる彼女の特徴はおそらくこの3つだろう。ところがこの絵画では、奈良美智らしい作風とともに、あえてトレンドマークの一つであるリボンを外してしまったという実験的な作品だ。リボンがなくなると途端に印象が変わり、新たなストーリーを想像してしまうのが不思議である。そんな本作のタイトルは『依然としてジャイアンにリボンをとられたままのドラミちゃん@真夜中』。涙を浮かべながら静かにこちらを見つめるドラミの姿は、まるで映画のワンシーンのようにドラマティックだ。
奈良美智 Yoshitomo Nara
1959年青森県生まれ。90年代より世界各地で作品を展示し、日本の現代アート界を代表する一人。見つめ返すような瞳の人物像が印象的な絵画やドローイング、彫刻、インスタレーションなど多様な作品を発表している。※本作は「THEドラえもん展FUKUSHIMA2021」(〜11月23日)で展示中。
吉田ユニ×ハローキティ
ユニクロ「UT」× サンリオキャラクターズ×吉田ユニによる夢のコラボ『ハローキティTマーケットBY吉田ユニ』。ビニール袋をハローキティに見立て、一見シュールレアリスムのようなダークさと、サンリオらしい愛らしさが混在するのが魅力的な作品だ。袋からのぞくリボンは、お菓子らしきもののパッケージ。色やリボンの位置など、キティの独特なバランスを捉え、見立ててしまう吉田ユニのセンスに脱帽だ。同時に、半世紀以上も世界中で愛されるキャラクターは、細部にまで行き渡らせた巧みなデザインによる賜物だと、実感することだろう。
吉田ユニ Yuni Yoshida
アートディレクター/グラフィックデザイナー。広告やCDジャケット、映像、装丁など幅広い分野で活躍中。星野源のCDジャケットのアートワークなど、見るものに想像を促す独特な世界観で多くのファンを魅了する。※関連製品は現在販売終了
木原千春×ペコちゃん
何世代にもわたり時代を歩んできた不二家のペコちゃん。画家・木原千春が描いた本作は『ペコ16歳。』。「永遠の6歳」として知られるペコちゃんを成長させた、ペコちゃん史上革命的でユーモラスな作品だ。オーバーオールから着物へとドレスアップしても、おさげを結ぶリボンは健在。リボンをはためかせ、浮世絵美人画を彷彿とさせる振り返る仕草には、16歳という少女らしいあどけなさと大人の女性らしい魅力が相まってドキドキする。……とはいえペロリと出した舌は、大人になっても変わらないんだけど!
木原千春 Chiharu Kihara
1979年山口県生まれ。画家。独学で身につけたという、道具だけでなく肘や足を使ったダイナミックな描き方が特徴。2021年12月~2022年1月にロイドワークスギャラリー(東京・文京区湯島)で個展予定。
水元かよこ×リボンの騎士
伝統工芸品である九谷焼と、手塚治虫の名作『リボンの騎士』の融合。こんな思いもよらない掛け合わせが実現したのは、革新的な造形と絵付けで焼きものに挑む、水元かよこならではだ。両性の心を持つ主人公・サファイアのありさまを、茶碗の内側は青、外側は赤で表現しているという。複雑に絡み合う性をイメージし、赤黒2色の釉薬が溶け合った口縁(こうえん)からは、大きくはみ出したリボン。溢れんばかりのサファイアのエネルギーが描かれている。リボンを結って、いざ戦いに――そんな勇ましい姿がありありと浮かんでくるようだ。
水元かよこ Kayoko Mizumoto
1971年石川県生まれ。加賀友禅工房に弟子入りしたのち、九谷焼の窯元で絵付けを始める。伝統的な九谷焼のイメー ジを覆すような造形やモチーフを描き、国内外のアート業界でも注目を集めている。
Text:Akane Naniwa Edit:Hiroko Koizumi、Shiori Kajiyama