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アーティストがパンデミックの日本でできること。松山智一が日本初の作品集に込めたメッセージ

《River To The Bank》2021
《River To The Bank》2021

NYを拠点に、世界で活躍する日本人アーティスト・松山智一が、日本で初となる作品集『TOMOKAZU MATSUYAMA IN AND OUT』を発売。新宿駅東口のパブリックアートや明治神宮で行われた野外彫刻展『天空海闊』への参加など、日本でも話題の彼が、今回の作品集に込めたメッセージとは?

《Blind Critical Mass》 2021
《Blind Critical Mass》 2021

NYで実感した、アートのもつ機能を日本に届けたいという想い

今回の作品集発売に合わせて来日した松山智一。昨年から、新型コロナウィルスの世界的パンデミックにアーティストができることは作品を届けることだ、と長い隔離期間を覚悟しながら何度も太平洋を往復した。今回もNYを発つ直前に、東京で緊急事態宣言が発令された。

「コロナ禍にアーティストは何ができるか。世界中が未曾有の事態に直面していますが、僕らアーティストは、パンデミック下だからこそ創造できるカルチャーがあると思うんです。今回、日本で発売する作品集もそのひとつ。これまで世界各国で作品集を出版したのですが、今回日本で初めての作品集を発表することで、日本にアートの持つ可能性を示したいと考えました」

松山は日本で経済学を学び、25歳で単身渡米。独学で独自の表現方法を確立し、パブリックアートの名所として有名なNYのバワリー・ミューラルでの壁画制作や、上海の龍美術館で個展を開催するなど、現在では世界で注目されるアーティストのひとりに。

「僕は独学でアートを始めたので、活動の機会も自分で創出しなくてはいけなかった。独自のキャリアパスを歩むなかで、新しい形で表現できないかと挑んだのがパブリックアートでした」

今回の作品集は、NY、LA、東京など各都市で展開するパブリックアートを収録した屋外作品編と、ペインティングや彫刻などを収録した屋内作品編の2冊組。過去の代表作から、最新作までを網羅する内容となっている。

「日本でもアートが盛り上がりつつありますが、投資の対象であったり、アートと暮らすこと以外にも、アートの持つ機能はたくさんあるんです。約20年暮らすアメリカで実感したのは、例えば、倉庫街だったソーホーにアーティストが住みつき、街の文化力が上がった結果、地価が上がり、レストランやファッションが参入し、最終的には安全なレジデンスエリアになるというように、人の動線や街を変える力もあります。日本にも世界的に活躍するアーティストはたくさんいますが、NYに暮らす自分だから見える景色があり、アートの捉え方があるのではないか。今回の作品集を通して、それを届けたいと思っています」

パンデミック中だからこそ、生み出せるカルチャーがある

そんな彼にとって、日本のアート・カルチャーシーンはどう映っているのだろうか。

「日本に帰国すると、大型古書店に足を運びます。あらゆる情報が並列に並び、自由に選択できる。僕はコンセプトを練るときにいろんなものをレイヤードするんですが、この情報の集積はとても参考になるし、日本の情報感度の高さは非常に魅力的です。今、コロナ禍によって街が活気を失っているけれど、それを再び活気づけるのが文化の役割です」

昨年からの新型コロナウィルスの感染拡大。新宿東口のパブリックアートも新宿に感染が広がるなかで設営した。世界で活動する彼にとって、移動するたび長期の隔離期間を余儀なくされる。しかし、これは逆風ではないという。

「このコロナ禍は、世界中が同時に経験している未曾有の事態です。しかし、自分にとって、NYに暮らす20年はずっと逆境との戦いでした。そもそもNYのアートシーンに、アジア人は組み込まれていません。つまり、何を作っても相手にされないわけです。その中で、自分で表現の場を切り開き、逆境を打破しながら、自分のエネルギーや葛藤を作品に落とし込み、理解されるまでコミュニケーションを図る。アジアンヘイト、価値観の違い、経済格差など、ネガティブな状況はいくらでもある環境で、モチベーションを維持し続けるのはエネルギーのいることです。それを考えると、コロナがもたらした逆境は、自分にとっては移動の制限くらいのもの。これまで、アーティストとして戦ってきた経験をもとに、この状況を多くの人と共有できるプラットフォームを作り、ネガティブな状況を転化することがアーティストがすべきことなんじゃないかと思います」

『TOMOKAZU MATSUYAMA IN AND OUT』通常版
『TOMOKAZU MATSUYAMA IN AND OUT』通常版

『TOMOKAZU MATSUYAMA IN AND OUT』

アーティスト/松山智一
テキスト/秋元雄史、山本浩貴
アートディレクション/groovisions
発行/カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社
発売/美術出版社
価格/¥13,200(税込)
仕様/A4変形、上製、2冊組。ボックスケース入。屋内編 188p、屋外編112p
URL/inandout.oil.bijutsutecho.com

合計150部エディション限定の特装版は、直筆サインとエディションの証明書、日本初の版画作品がセット。
50部限定 版画作品「Blind Critical Mass」付特装版
価格/¥880,000(税込)
100部限定 版画作品「River To The Bank」付特装版
価格/¥385,000(税込)
※希望者には額装オプションあり
特装版抽選申込期間/2021年5月31日(月)まで

Interview & Text:Miho Matsuda Edit:Sayaka Ito

Profile

松山智一Tomokazu Matsuyama 1976 年生まれ、岐阜県出身。NY・ブルックリン在住。上智大学卒業後 2002 年渡米。NY Pratt Instituteを首席で卒業。ペインティングを中心に彫刻やインスタレーションも手がける。作品には、東洋と西洋、古代と現代、具象と抽象といった両極の要素が見られ、これは日本とアメリカの両国で育った松山自身の経験や情報化のなかで移ろいゆく現代社会が反映されている。これまでに全米主要都市および世界各地にて展覧会を多数開催。またロサンゼルス・カウンティ美術館、サンフランシスコアジア美術館、龍美術館、Microsoft コレクション、ドバイ首長国の王室コレクション等に作品が収蔵されている。2012〜17年までの 5 年間、School of Visual Arts(SVA)の非常勤教授を勤めた。2020年、新宿駅東口広場のアートスペースを監修、巨大彫刻を制作する。2021年にはNHK『日曜美術館』で特集が組まれ、グローバルな活動と重層的な制作が高く評価される。現在はブルックリン・グリーンポイントにスタジオを構える。

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