アーティストがパンデミックの日本でできること。松山智一が日本初の作品集に込めたメッセージ
NYを拠点に、世界で活躍する日本人アーティスト・松山智一が、日本で初となる作品集『TOMOKAZU MATSUYAMA IN AND OUT』を発売。新宿駅東口のパブリックアートや明治神宮で行われた野外彫刻展『天空海闊』への参加など、日本でも話題の彼が、今回の作品集に込めたメッセージとは?
NYで実感した、アートのもつ機能を日本に届けたいという想い
今回の作品集発売に合わせて来日した松山智一。昨年から、新型コロナウィルスの世界的パンデミックにアーティストができることは作品を届けることだ、と長い隔離期間を覚悟しながら何度も太平洋を往復した。今回もNYを発つ直前に、東京で緊急事態宣言が発令された。
「コロナ禍にアーティストは何ができるか。世界中が未曾有の事態に直面していますが、僕らアーティストは、パンデミック下だからこそ創造できるカルチャーがあると思うんです。今回、日本で発売する作品集もそのひとつ。これまで世界各国で作品集を出版したのですが、今回日本で初めての作品集を発表することで、日本にアートの持つ可能性を示したいと考えました」
松山は日本で経済学を学び、25歳で単身渡米。独学で独自の表現方法を確立し、パブリックアートの名所として有名なNYのバワリー・ミューラルでの壁画制作や、上海の龍美術館で個展を開催するなど、現在では世界で注目されるアーティストのひとりに。
「僕は独学でアートを始めたので、活動の機会も自分で創出しなくてはいけなかった。独自のキャリアパスを歩むなかで、新しい形で表現できないかと挑んだのがパブリックアートでした」
今回の作品集は、NY、LA、東京など各都市で展開するパブリックアートを収録した屋外作品編と、ペインティングや彫刻などを収録した屋内作品編の2冊組。過去の代表作から、最新作までを網羅する内容となっている。
「日本でもアートが盛り上がりつつありますが、投資の対象であったり、アートと暮らすこと以外にも、アートの持つ機能はたくさんあるんです。約20年暮らすアメリカで実感したのは、例えば、倉庫街だったソーホーにアーティストが住みつき、街の文化力が上がった結果、地価が上がり、レストランやファッションが参入し、最終的には安全なレジデンスエリアになるというように、人の動線や街を変える力もあります。日本にも世界的に活躍するアーティストはたくさんいますが、NYに暮らす自分だから見える景色があり、アートの捉え方があるのではないか。今回の作品集を通して、それを届けたいと思っています」
パンデミック中だからこそ、生み出せるカルチャーがある
そんな彼にとって、日本のアート・カルチャーシーンはどう映っているのだろうか。
「日本に帰国すると、大型古書店に足を運びます。あらゆる情報が並列に並び、自由に選択できる。僕はコンセプトを練るときにいろんなものをレイヤードするんですが、この情報の集積はとても参考になるし、日本の情報感度の高さは非常に魅力的です。今、コロナ禍によって街が活気を失っているけれど、それを再び活気づけるのが文化の役割です」
昨年からの新型コロナウィルスの感染拡大。新宿東口のパブリックアートも新宿に感染が広がるなかで設営した。世界で活動する彼にとって、移動するたび長期の隔離期間を余儀なくされる。しかし、これは逆風ではないという。
「このコロナ禍は、世界中が同時に経験している未曾有の事態です。しかし、自分にとって、NYに暮らす20年はずっと逆境との戦いでした。そもそもNYのアートシーンに、アジア人は組み込まれていません。つまり、何を作っても相手にされないわけです。その中で、自分で表現の場を切り開き、逆境を打破しながら、自分のエネルギーや葛藤を作品に落とし込み、理解されるまでコミュニケーションを図る。アジアンヘイト、価値観の違い、経済格差など、ネガティブな状況はいくらでもある環境で、モチベーションを維持し続けるのはエネルギーのいることです。それを考えると、コロナがもたらした逆境は、自分にとっては移動の制限くらいのもの。これまで、アーティストとして戦ってきた経験をもとに、この状況を多くの人と共有できるプラットフォームを作り、ネガティブな状況を転化することがアーティストがすべきことなんじゃないかと思います」
『TOMOKAZU MATSUYAMA IN AND OUT』
アーティスト/松山智一
テキスト/秋元雄史、山本浩貴
アートディレクション/groovisions
発行/カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社
発売/美術出版社
価格/¥13,200(税込)
仕様/A4変形、上製、2冊組。ボックスケース入。屋内編 188p、屋外編112p
URL/inandout.oil.bijutsutecho.com
合計150部エディション限定の特装版は、直筆サインとエディションの証明書、日本初の版画作品がセット。
50部限定 版画作品「Blind Critical Mass」付特装版
価格/¥880,000(税込)
100部限定 版画作品「River To The Bank」付特装版
価格/¥385,000(税込)
※希望者には額装オプションあり
特装版抽選申込期間/2021年5月31日(月)まで
Interview & Text:Miho Matsuda Edit:Sayaka Ito