金沢で美意識を磨く Part 1. モダン編
コロナ禍で旅への意識にも変化が見られるこの頃。機会が限られるからこそ、目的を持って内面を高める時間にしたいもの。そこで21世紀美術館に加え、新たな美術館が複数オープンし、アートラヴァーも注目する街、金沢を、モダン編とクラシック編の2回にわたり紹介する。伝統と革新を融合し魅力的に発展する金沢で、新たな時代に感性を研ぎ澄ませてほしい。
現代アートの私設美術館「KAMU kanazawa」
金沢の新たな名所として話題の私設美術館が「KAMU kanazawa(カム カナザワ)」。若手アートコレクター、林田堅太郎さんが代表と館長を務め、2020年6月に中核となるKAMU Centerの開設以来、すでに4スペースをオープンしている。アートが満ちるホテル「Hyatt Centric Kanazawa」
金沢駅金沢港口(西口)に2020年8月オープンしたのが金沢初のインターナショナルブランドのライフスタイルホテル「Hyatt Centric Kanazawa(ハイアット セントリック 金沢)」。BOND DESIGN STUDIOが空間デザインを担当し、これまでの金沢市内のホテルにないモダンな美意識が貫かれている。
特筆すべきは館内にちりばめられた金沢に縁のあるアーティストによる100点以上にも及ぶアート。エントランスでは、石川県で使われなくなった鉄の道具を叩き金箔押しした小沢敦志の「野鍛冶の門冠」と、犀川と浅野川、55の用水を描いた大森慶宣の「Blue Rhythm」のアートが出迎える。
しかも重鎮から若手までの作品を恭しく展示するのではなく、ミックス&マッチの感覚でまるで海外のアーティストが暮らす家のように、空間に馴染ませて魅せているところにセンスを感じる。古くから文化が根付き、工芸の街とも言われる金沢の現在の魅力を、このホテル全体で表現しているかのようだ。
部屋を印象付けるのはベッドのヘッドボードの群青。これは江戸時代から使われている金沢独自の壁色。和紙で街なかの路傍を型取り、この色に染め上げ、遊ぶ子どもの下駄の足跡を金箔で表現したのだという。部屋によっては対をなす伝統的壁色、弁柄色のバージョンも。
サカナクションとの交流でも知られ、九谷焼をユニークに表現する上出長右衛門窯 六代目、上出惠悟の「甘蕉 色絵木瓜紋」が飾られている部屋もある。
また各部屋には文豪 泉鏡花が向かい干支にあたるうさぎのグッズを集めていたという話をもとに、縁起物である加賀八幡起上りをアレンジした色とりどりの小さなうさぎが思いがけない場所に隠れている。
栗原由子による日本画「加賀野菜図」が飾られたオールデイダイニングの「FIVE – Grill & Lounge」では、能登牛、金沢中央市場から仕入れた魚介、加賀野菜などを使ったグリル料理など五感を刺激する食が提供される。
最上階14階には金沢には珍しいルーフトップバーも。季節ごとに趣のあるカクテルなどをいただける。
モダンな空間で美意識が磨かれ、新たな知的な発見に心躍る「ハイアット セントリック 金沢」で上質な滞在を。
hyattcentrickanazawa.jp
食で人と人を繋ぐカウンターフレンチ「FIL D’OR」
金沢の大きな魅力のひとつが食文化。海や山が近い自然豊かな土地ならではの、季節ごとの新鮮な食材を使い、空間、お皿、カトラリーに至るまで美意識を感じさせる料理を堪能できる。伝統的な加賀料理や鮨の印象が強いが、このところ海外で学んだ若手シェフによるイノベーティブな食のレベルの高さが話題だ。
そのなかでもおすすめは、金沢市の中心部でオーナーシェフの田川真澄さんが腕を振るうフレンチ「FIL D’OR(フィルドール)」。フランス、カナダ・モントリオール、NYで研鑽を積み、2017年に出身地である金沢に店を構えた。カウンターのみで6名しか入れない、ごく小さな店だが、洗練された味に魅了されるフーディーたちで連日賑わっている。
例えば、この「加賀丸いもと牡蠣のクネル風」は石川の海を感じる一皿。濃厚な粘り気が特徴の加賀丸いもと能登産の平目を使ってクネル生地にし、旬の能登牡蠣を封じ込めた。外はカリッ、中はもちっとした食感で、中から牡蠣の海の香りと旨味が溢れ出す。添えられたソースは平目の骨と牡蠣汁エキスを凝縮。仕上げにまぶされた生のアオサを乾燥させた香り高いパウダーが食欲をそそる。
またナチュールのワインはもちろん、普段はなかなか入手できないレアな日本酒なども取り揃えている。料理とのマリアージュでシェフにお任せすれば新しい発見があるはず。7〜8品の1コースのみ(¥7,000・税抜き)での提供だが、21:30以降は軽いおつまみとともにワインバーとして楽しめる。
味はもちろん、地元工芸の器やカトラリーとの調和も美意識を刺激する。フランス語で金の糸を意味する店名のとおり、偶然隣合わせた人と共通の話題で自然と交流できたり、単に食事をする役割以上のプライスレスな価値を持つ。
FIL D’OR
住所/石川県金沢市片町2-13-24
営業時間/18:00〜19:00(スタート時間/コース)、21:30〜(アラカルト)
定休日/日
TEL/090-9442-1324
Instagram/@fildor_kanazawa
金沢町家で「四知堂」の台湾式軽食を
大正時代に建てられた老舗の油問屋だった金沢町家を改装し、2020年にオープンしたのが台湾料理の「四知堂(スーチータン)」。近江町市場から東山へと抜ける通りに面した尾張町に位置し、散策途中に立ち寄るにもぴったりな立地だ。
この店は台北にある台湾客家(ハッカ)料理をベースにした創作料理レストラン「四知堂」のオーナーと、金沢でアンティークショップ「SKLO」や農業プロジェクトを手がける塚本美樹さんの交流からスタート。台湾の温かなおもしてなしや食文化と、金沢の豊かな食材を融合し、歴史ある空間の居心地の良さで単なる飲食店を超えたカルチャーとして発信している。
朝8時(2月中は9時)から16時まで提供される台湾屋台は、イートインもテイクアウトも可能なので、例えば近隣の町家にSTAYして、この店で朝食として豆乳スープ、鹹豆漿(シェントウジャン)や台湾粥、おやつに胡椒餅、豆花を楽しむのもおすすめ。
またランチには魯肉飯(ルーローハン)、鶏肉飯、牛肉麺にデザートとドリンクのセット、ディナーには紹興酒鍋、鷄白湯鍋などもラインナップされている。金沢の歴史をモダンにアップデートした空間で、異文化を味わうのも新鮮な体験だ。
四知堂
住所/石川県金沢市尾張町2-11-24
TEL/076-254-5505
営業時間/8:00(2月中は9:00)〜16:00、18:00〜22:00
休/水
URL/tua-kanazawa.jp
感性を頼りに選ぶ骨董「古道具・噐 きりゅう」
工芸の街として知られる金沢。陶芸、漆器、染物、金工、木工などジャンルも幅広く、鑑賞としての美術工芸から日常に取り入れられるものまで用途も幅広い。その多彩な工芸のなかでも、実際に生活で楽しめる陶器や漆器が気になるところ。金沢には目利きの間で一目置かれる器を中心に扱うショップ「古道具・噐 きりゅう」がある。
店内でまず目を引くのは、壁面に飾られた輪島塗の鮮烈な赤の器。その美しくも味のある発色に目を奪われる。所狭しと並べられているものは店主・桐生洋子さんの研ぎ澄まされた審美眼で集められた、年代を重ねた陶器や漆器。骨董といっても、格式や年代、由緒云々などの財産的な価値基準ではなく、あくまで日常の食卓を豊かにする洗練されたセンスを感じられるものを選び抜いている。
また別の棚には白の器が。金沢らしい器、九谷焼は華やかな極彩色のイメージがあるが、これは「九谷の白」と呼ばれるもの。製作過程でわずかな傷や気泡が入ってしまい流通が叶わなかった昭和30年代のデッドストック。普段使いに、和洋さまざまな料理が生えそうな一皿だ。
このほか、江戸や明治時代の伊万里焼や、大正時代のガラスなども並べられており、宝探し気分で器探しを楽しめる。本店の「古道具・噐 きりゅう」は中心地からやや離れるが、東山近くの「八百萬本舗」でも一部扱われている。また「ハナレきりゅう」というオンラインショップもあるので、いながらにして金沢の感性を手に入れることもできる。
古道具・噐 きりゅう
住所/石川県金沢市三口新町3−1−1
TEL/076-232-1682
URL/www.antique-kiryu.com
「Piso by respiracion」新名物チーズケーキ
金沢では世界各地で修行をしたシェフがその技術を生かし、地元食材をクリエイトしたローカル・ガストロノミーも人気。その流れを牽引するモダンスパニッシュの名店、レスピラシオンが、2020年より手掛けているのが絹のようにしっとりとなめらかな「Piso by respiracion(ピソ バイ レスピラシオン )」の“しあわせチーズ”(¥2,600)。
直径12cm、高さ5cmのホールサイズで、厳選食材を徹底した温度管理で仕上げた味わいは、すでに地元の食通の間でも人気。バスクチーズケーキを思わせる濃厚感とこんがりとした焼き色! 金沢駅の「あんと」内での期間限定ショップのほか、オンラインでの入手も可能。金沢土産の新名物としてチェックしたい。
Piso by respiracion
住所/金沢市木ノ新保町1-1 金沢駅 金沢百番街 あんと内
TEL/076-225-8681(レスピラシオン)
URL/piso-hife.stores.jp
※コロナ禍は営業時間、休業日に変更の可能性があります。
詳しくは、各店のウェブサイトなどをご確認ください。
Edit&Text:Hiroko Koizumi
Cooperation:Tourism Policy Section City of Kanazawa、Kanazawa City Tourism Association