Trip / Feature

金沢で美意識を磨く Part 2. クラシック編


Photo:Kanazawa City
Photo:Kanazawa City

コロナ禍で旅への意識にも変化が見られる今、機会が限られるからこそ、目的を持って内面を高める時間にしたいもの。「金沢で美意識を磨く」Part.2 クラシック編は、Part.1モダン編とは相反する伝統を主にした見どころをピックアップ。伝統と革新を融合し魅力的に発展する金沢で、新たな時代に感性を研ぎ澄ませてほしい。


“工芸のまち、金沢”に生まれた新美術館「国立工芸館」


42年間、東京・竹橋で親しまれてきた東京国立近代美術館工芸館が、昨年東京での活動を終了し、金沢に移転。2020年10月、伝統工芸に造詣の深い中田英寿氏を名誉館長に迎え、日本海側初となる国立の美術館、通称、国立工芸館として新たなスタートを切った。


陶芸家 金子 潤の2013年作品「Untitled (13-09-04)」が展示された国立工芸館 エントランス風景 Photo:Takumi  Ota
陶芸家 金子 潤の2013年作品「Untitled (13-09-04)」が展示された国立工芸館 エントランス風景 Photo:Takumi Ota

工芸は陶磁器、ガラス、漆工、木工、竹工、染織、人形、金工、工業デザイン、グラフィックデザインなどジャンルも多岐にわたるが、各分野から明治以降の作品を約3,900点も所蔵。ほかには類を見ない日本で唯一の工芸専門の美術館だ。なかでも重要無形文化財保持者(人間国宝)の作品が充実。工芸の歴史やテーマに沿った展覧会を年4〜5回開催している。



橋本真之「果樹園―果実の中の木もれ陽、木もれ陽の中の果実」1978-88年 Photo:Takumi Ota 
橋本真之「果樹園―果実の中の木もれ陽、木もれ陽の中の果実」1978-88年 Photo:Takumi Ota 

ロエベのジョナサン・アンダーソンによるクラフトプライズの創立などにより、身近な存在になりつつある工芸だが、2展目となる移転開館記念展「うちにこんなのあったら展 気になる工芸×工芸コレクション」(〜2021年4月15日)は、まだ工芸に馴染みがないという入門者にも親しみやすいテーマ。所蔵するルーシー・リーの作品12点に加え、インダストリアルデザイナーの先駆け、クリストファー・ドレッサーの作品など、生活を豊かにする工芸作品が並ぶ。

国立工芸館の場所は、緑豊かな「兼六園文化の森」ゾーン。国の登録有形文化財である明治期に建てられた旧陸軍の施設、第九師団司令部庁舎と金沢偕行社を解体移築、活用した建築で、レトロな雰囲気。“工芸のまち、金沢”の魅力に浸ることができる。


Photo:Kanazawa City
Photo:Kanazawa City

国立工芸館


住所/石川県金沢市出羽町3-2 

TEL/050-5541-8600(ハローダイヤル)

営/9:30〜17:30 ※入館は17:00まで オンライン予約推奨

休/月(祝休日の場合は翌平日 3月29日、4月5日、4月12日は開館)

URL/momat.go.jp/

「穂濤」で料亭文化を体験する

海も山も近くにあり食材に恵まれた金沢。藩政時代から関西、関東、双方の影響を融合し独自の食文化を育んできた。加賀藩の料理番を描いた映画『武士の献立』でも江戸の食文化を垣間見ることができるが、鯛の唐蒸しや治部煮といった伝統的な加賀料理も現代に継承されている。

金沢にはそのような豊かな食文化から花開いた老舗料亭が、今なお10軒以上も存在する。料理のみならず、伝統工芸の器、空間への気配り、美しい庭など、料亭とは美意識の結晶。美食家の魯山人もそんな金沢の料亭に魅了され、足繁く通ったというほど。

金沢へ訪れたなら、一度は料亭での時間を楽しんでみたい。犀川近くにある「穂濤(ほなみ)」は明治末期の建物で、歴史を踏まえた華やかさのなかに削ぎ落とした端正な美意識が感じられる料亭。その流儀を表現する料理人はもとより、建物を形作る大工や左官、また庭師など金沢の職人の技を大切にしている。ミシュランガイドでは2つ星、ゴ・エ・ミヨ2021では3トック獲得も納得の名店。


お部屋は全6室。二十四節気に合わせた床の間の掛け軸やお花、花器、美術品が設られ、手入れの行き届いた庭を眺めながら、五感すべてを研ぎ澄まして食事を楽しむことができる。

本格的なお座敷でのおもてなしを堪能するのはもちろん、少し気軽に離れのテーブル席でランチのみでいただける“くずし懐石料理”(¥5,000 税・サ込み)を楽しむのもおすすめ。デザートに供される本葛を使った作り立てのくずきりも人気の一品だ。

食事を楽しむという日常さえ、感性を刺激するときへと変える料亭文化を体感してみてほしい。


穂濤

住所/石川県金沢市清川町3-11
TEL/076-243-2288(要予約)

営/11:30〜13:00(L.O.)17:00〜19:00(L.O.)

休/不定休

URL/kanazawa-suginoi.co.jp

アートの街で陶芸体験が叶う「atelier & gallery creava」



加賀藩の武家屋敷、土塀と石畳で彩られた、金沢のなかでも歴史が薫る長町界隈。そこに隠れ家のように佇むのが「atelier & gallery creava(アトリエ&ギャラリー クリーヴァ)」。築100年以上の町家蔵を使用した空間で、陶芸工房、ギャラリー、ショップ&カフェを併設した複合型アート施設となっている。

Photo:Kanazawa City
Photo:Kanazawa City

興味はあるもののなかなか機会が少ない陶芸体験を、クリーヴァではスタッフに教わりながら楽しむことが可能。電動ろくろを使った器づくりでは、土を手にしながらお茶碗、お皿、ぐい呑みなどを自身で成型し着色まで行う。昨年からの新色トルコブルーも人気とか。


また金沢の九谷焼ならではの華やかなの九谷五彩体験と赤絵金彩体験もできる。九谷焼の特徴でもある赤、黄、紺青、青(緑)、紫の5色、もしくは伝統の赤と金で、既存の白い器に上絵付けしていく。


上記3種の陶芸体験コースは土曜、日曜、月曜の10:00、もしくは15:00からのスタートで所要時間は90分。器により価格は異なり¥3,600〜¥5,100(税込み)、要予約。いずれもスタッフが仕上げと焼成を行った器が約2ヶ月ほどで完成し、別途送料で配送してくれる。一人からでも参加可能なのも嬉しい仕組み。



さらに気軽に参加できるのは、ショップでの九谷焼アクセサリー体験。11:00〜16:00に予約不要でトライすることができる。アクセサリーの土台を決め、工房オリジナルの九谷焼ビーズを選んで作る楽しさに夢中に! 伝統的な素材をグラフィカルに仕上げているので、温かみがありながら仕上がりは甘くなりすぎない。こちらもスタッフがフィニッシュを行い、30分ほどで完成。1ピース(¥2,000) 2ピースのイヤリング(¥4,000)。

ギャラリーでは日本各地の工芸作家の企画展が開催され、ショップ&カフェではコーヒーでひと息つきながら、金沢の作家の作品を購入することもできる。


クリエイションを楽しむ時間は、街にアートが溢れる金沢旅を盛り上げる時間になりそう。


atelier & gallery creava

住所/石川県金沢市長町2-6-51

TEL/076-254-1668(陶芸体験) 
   
076-231-4756(ギャラリー、ショップ&カフェ) 

休/水、木(ギャラリー、ショップ&カフェ)

URL/creava-kanazawa.jp


「武家屋敷跡 野村家」の庭園でマインドフルネスなひとときを

1968年に全国に先駆けて伝統環境保全条例を制定した金沢市は、街が美しい自然に彩られていることも魅力の一つ。文化財指定庭園の兼六園以外にも、街の中心地に知る人ぞ知る名庭園がある。

そのなかでも土塀や石畳が当時の面影を残す長町に位置する「武家屋敷跡 野村家」は、ミシュラングリーンガイド日本版で二つ星を獲得。豪華な屋敷の濡れ縁から、大野用水から引いた曲水、落水、樹齢400年の山桃の木、椎の古木など庭園の調和を心静かに楽しめる。

野村伝兵衛信貞家は前田利家の直臣であり、その後、十一代にわたって各職を歴任した由緒ある家柄。現在の「武家屋敷跡 野村家」は、庭園の一部と土塀を残し、武家制度の解体後に、北前船で莫大な財をなした久保彦兵衛の豪邸の一部を移築したもの。その上段の間では、加賀藩のお抱え絵師で狩野派の佐々木泉景による山水画、謁見の間では山口梅園が描いた牡丹の襖も。

また2階にある織部床の茶室「不莫庵(ふばくあん)」では、庭園を眺めながら、ゆっくりとお抹茶とお菓子をいただくこともできる。数寄屋建築で、天井の桐板は長年土の中に埋まっていた神代杉の一枚板を配し、希少なみどり松で押さえた珍しい造り。

五感を刺激する金沢の庭園で、心を解きほぐすマインドフルネスなひとときを堪能したい。

武家屋敷跡 野村家
住所/石川県金沢市長町1−3−32 
TEL/076-221-3553

営/8:30〜17:30(4月〜9月)、〜16:30(10月〜3月)
※入館は閉館30分前まで

休/12月26、27日 1月1、2日

入場料/大人550円 抹茶・干菓子300円
URL/nomurake.com

歴史を学びながら過ごす町家宿「KENROKU旅音」

金沢は400年以上もの間、戦禍に見舞われることがなく、江戸時代に形作られた古き良き街並みが現在も多く残されている。歴史ある文化を継承していこうという動きも盛んで、価値が認められた建物は“金沢町家”として認定され、改修し手入れして店舗や宿泊施設として活用されている。クラシックな歴史に浸る旅ならば、あえて近代的なホテルではなく、金沢町家の宿に泊まってみる経験も新たな発見があるはずだ。


増えつつある金沢町家を生かした宿泊施設のなかでも、「KENROKU旅音」は日本三名園、兼六園近くの閑静な住宅街の豪奢な町家を改装した1日1組限定の宿。

ベッドルームに使われている群青色の壁は、伝統と革新を融合する金沢の象徴。その発祥はヨーロッパの文化に傾倒していた前田家の十三代が、当時貴重だったラピスラズリに注目。金よりも高価だったという、発明されたばかりのラピスラズリの合成顔料を長崎から買い付け、大胆にも壁の色に採用。その後、一般に広まっていったものだという。


対をなす朱壁は、芸妓の立ち居振る舞いを艶やかに見せる視覚効果を狙ったものという。その部屋には木を雪から守る伝統、雪吊りをグラフィカルに表現した金沢からかみを使うなど、歴史を現代的に昇華した空間となっている。


旅の疲れを癒すのは、庭を眺められるラグジュアリーなジャグジー付きお風呂。またキッチンも備えているので、開場300年を迎えた近江町市場で、日本海の新鮮な魚介や加賀野菜を購入して自身で料理をすることもできる。文化を享受しながら楽しむ、新たな時代のワーケーション、ステイケーションにもおすすめだ。


KENROKU旅音
住所/石川県金沢市小将町5-26

TEL/076-205-8092(旅音)

URL/tabi-ne.jp



愛らしい意匠に惹かれる「落雁 諸江屋」の和菓子



戦国の乱世を生き抜くための安らぎであると同時に、客人をもてなす場でもあったと伝えられ、武士の嗜みとされていた茶の湯。江戸時代、信長や秀吉の影響を受け、茶の湯に興味をもった加賀藩の前田利家は、千利休らに学び、茶道の文化を金沢に根付かせた。そういった歴史から、今なお金沢ではお茶を楽しむことが定着しており、和菓子の消費量は全国一と言われている。



そんな金沢で江戸時代後期に創業、170年以上にわたり、菓子作りを続けているのが「落雁 諸江屋」。百万石ゆかりの伝統的な菓子をはじめ、茶道と同じく金沢に定着している能楽の雅さを表現した加賀宝生、四季の彩りを感じさせる美しい落雁など、歴史を伝える和菓子の数々を生み出している老舗。


Photo:Kouki Hayashi
Photo:Kouki Hayashi

多彩なラインナップのなかで、金沢の風情を感じさせる和菓子のおみやげとしておすすめしたいのは、のれん菓子の菊花・妙蓮せんべい(20枚入り・各¥756 税込み)。美しい色合いやモチーフの可愛さはもちろん、控えめな甘さで味わいも奥深い。菊花せんべいは不老延命の伝説を持つ唐菊をモチーフに、軽焼のおせんべいに生姜が香る砂糖がけ。一方、妙蓮せんべいは加賀野菜の一つ、蓮根をおせんべいに練り込んでいる。このほか唐松をモチーフにした白味噌味のものも。いずれも裏面の意匠にもこだわっており、小さなお菓子のなかにも金沢の美意識が見て取れる。


 Photo:Kouki Hayashi
Photo:Kouki Hayashi

落雁 諸江屋 にし茶屋茶寮
住所/石川県金沢市野町2-26-1

TEL/076-244-2424

営/10:00~18:00

休/火、年末年始

URL/moroeya.co.jp



※コロナ禍は営業時間、休業日に変更の可能性があります。
詳しくは、各店のウェブサイトなどをご確認ください。


Edit & Text:Hiroko Koizumi
Cooperation:Tourism Policy Section City of Kanazawa、Kanazawa City Tourism Association

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