Cafe Del Marとホセ・パディーヤ、そしてR.I.P. Sunsetを巡る2021年夏のある日 | Yuki Kawamura
Yuki Kawamura

Cafe Del Marとホセ・パディーヤ、そしてR.I.P. Sunsetを巡る2021年夏のある日

灼熱の東京、先週末、2021年7月23日金曜日に、Chakraとmallow blueに続く三部作のラストを飾る新曲「R.I.P. Sunset」が配信リリースとなりました。

この曲は、私の音楽への向き合い方を諭してくれた心の師匠であり、昨年に亡くなったIbiza島を代表するDJ&コンパイラーのJose Padilla氏に捧ぐ作品です。

選曲というもので圧倒的な世界観を表現するということ、それがDJとはいえ舞台にするのは暗闇のダンスフロアではなく、スペインはイビサ島のサンセットが美しいオープンエアのカフェ「Cafe Del Mar」にて。まだ見ぬパラダイスへの憧れと共に、Jose Padillaという音楽家、そしてDJ、コンパイラーという存在に心酔し始めたのは1998年頃でしょうか。

当時の私は毎日が仕事も遊びもパーティで、世紀末のハイテンションともリンクする形で、ユーロトランス、エピックトランス、プログレッシヴハウスなどが一部ではブームでした。そんな場所に身を置きながらも、段々と大人になってゆく自分、変わりゆく景色、そして巨大資本によって自分たちがプロモートしていた音楽たちは新しいラベルを纏って世へと出て行ってしまうのを傍観するしかなく、絡まる人間関係、現状との対話、大人になりかけたばかりの私には乗り越える術も見つからなくて、精神状態は圧迫されていたのを記憶しております。

そんな時の心の救いが、音楽のジャンルに拘らず、ただただ縦横無尽に気の向くままに聞き始めた小学校5年生の頃のように、あらゆる音楽をバレアリックというスタイルで選曲して、景色を作ってゆくDJの存在でした。ハイテンションな大型ダンスフロアに隣接する形で、クールダウン、もしくはチルアウトというテンションの状態を定義してくれて、一般にも認知され始めたことは、私もそういう自分の中にあるサイレントでボーッとする部分みたいなものを肯定してもらえたかのようで、新たな居場所を見つけた気持ちになりました。

そしてそこにはエレガンスを感じたのです。

2000年頃より友人の誘いでDJをする時は、チルアウトからバレアリックを軸に自分の選曲感を表現するようになり、とはいえ大きなメインフロアでやるという感じではなく、自分にとってのDJブースとの接し方はこんな感じでリラックスしたものとなりました。

そして、Jose padillaという存在は、孤高で、彼が見つけ出した場づくり、独自の活動スタンスを確立していて、あんな風になりたいなぁという目標へとなっていきました。

2002年のプロモーション来日時に、Warner Music Japanにて撮影と取材でご対面させて頂き、持参したCD全てにサインをしてくれて、連絡先を教えてくれて、その後にIbiza島を訪ねてゆくと、本当に色々なところに連れてってくれて、素敵な友達も紹介してくださり、たくさんお世話になりました。思い出は語れば無限に出てきてしまうので、それはまた別の機会に。

もうこの世にいないなんて、何を指針にしてゆけば良いのかと悩んだ時もありましたが、先ずは一歩を踏み出せたような気がします。

R.I.P…

毎週金曜20時〜21時O.A中、blockfm – shibuya OIRAN warmup Radio 最新回では、R.I.P. Sunsetのリリースを記念して、Ibiza島のサンセットをイメージして選曲とトークをしております。ぜひ聞いてくださいね。

Artwork

そして、Additional Production、MixとMasteringを手がけてくださった恩人、HouseViolenceさんから、貴重な制作ノートをご提供頂きました!

今回も本当にお世話になりまして、細かく確認しながら作業を進めてくださいました。この後も近日中にまたニュースがある予定なので、そちらもぜひ楽しみにしておいて欲しいです。

ちなみにR.I.P. Sunsetはサブスクに加えて、Bandcampでも配信中。宜しくです。

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●アナログ機材で風合いをプラス

ソフトウェア・シンセサイザーで作ったコントラバス/チェロ/ヴィオラの「機械っぽさ」を和らげ、人間が演奏しているような質感にすることが最初の課題でした。そのためにシンセの音の立ち上がり方~減衰の仕方を入念に調整し、最後に「アナログ出し」を行っています。

ヴィオラをTASCAMのテープ・デッキのアンプ部、チェロをMACKIE.製ミキサーのアンプ部に通してからソフトに戻すという作業で、音が前に張り付いたような圧迫感が無くなり、立体的に聴こえるようになりました。また、TASCAMはヴィオラに倍音(高音部)の輝きを、MACKIE.はチェロにさらなる重心の低さを与えています。

ベースもRUPERT NEVE DESIGNSの機材に通しているので、独自のオーロラ・エフェクトに通したギターを含めると、曲素材の大半がアナログ経由のサウンド。これは現代のDTMにおいて、なかなか贅沢なやり方のはずです。少なくともソフトのみでのミックスとは異なるキャラになっていると思います。

●バイノーラル・プラグインでのギミック

あと面白いのが、カワムラさんの声のディレイ成分(03:20および04:50周辺)に使った「Natasha」というバイノーラル・プラグイン。ヘッドフォンやイアフォンで聴いたときに効果を発揮し、頭の周囲360°にディレイ音がちらばっていくように感じられると思います。

こうしたバイノーラル・プラグインは、ポップ・ミュージックではまだあまり使われていない気がするので、「R.I.P. Sunset」で使用できて嬉しいです。最近はApple Musicでもバイノーラル再生(=空間オーディオ)が始まりましたが、この曲の当該部分ならSpotifyでもBandcampでもどこでも、バイノーラルの立体的な音場を楽しんでいただけます。

Profile

venus kawamura yuki
TOKYO
DJ, lyricist, OIRAN MUSIC producer

渋谷を拠点に活動中のDJ&プロデューサー。98年よりフリーランスのプロデューサーとして、ヨーロッパのダンス・ミュージックのプロモートや、企業のプロモーション企画、イベント制作を担当。2000年から、DJ及びライターとしての活動をスタートする。2003年頃より「Love Parade Mexico」IBIZA島「amnesia」パリ「Batofar」にDJ出演。その後は、ファッション・ショーの音楽演出や「inner Resort」コンピレーションCDシリーズの監修など、バレアリックやチルアウトを軸に独自の選曲感を展開。近年は作詞家として、「バクマン。」「NARUTO」などのアニメ主題歌や、Sam Smithのグラミー賞受賞曲「ステイ・ウィズ・ミー」日本語詞など多くの作品を手掛ける。2014年にはミュージック・ブランド「OIRAN MUSIC」を設立。Sakiko Osawaやナマコプリなど、新たな才能を輩出する。現在は音楽エッセイ連載「渋谷で君を待つ間に」をスタート。毎週第一月曜16時〜渋谷のラジオ「道玄坂爆音部」、毎週金曜20時〜block.fm「shibuya OIRAN warm up radio」にて、選曲とナビゲーターを担当中。

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