伊藤健太郎インタビュー「人でも仕事でも、大事なのは愛」 | Numero TOKYO
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伊藤健太郎インタビュー「人でも仕事でも、大事なのは愛」

旬な俳優、女優、アーティストやクリエイターが登場し、「ONとOFF」をテーマに自身のクリエイションについて語る連載「Talks」。vol.64は俳優の伊藤健太郎にインタビュー。

普通の高校生から、ツッパリ、若き武将など幅広い役柄を演じ、バラエティやラジオでは、自然体の姿に男女問わずファンが多い、俳優・伊藤健太郎。押見修造原作・井口昇監督による最新作『惡の華』では、玉城ティナ演じる同級生から、あることをきっかけに契約関係を迫られる中学2年生を演じる。そこで、撮影のエピソードや思春期の思い出、その頃に影響を受けた人物について話を聞いた。

「カッコよくあれ」と導いてくれた、先輩の背中

──今年、舞台『春のめざめ』で14歳のメルヒオールを演じて、『惡の華』の春日は2度目の14歳になります。14歳の役が続きますが、いかがでしょうか。 「撮影自体は『惡の華』が去年の冬で、この春『春のめざめ』でも14歳を演じました。『春のめざめ』は1891年のドイツの戯曲だったんですが、思春期の少年少女が抱える悩みや葛藤、心情っていうのは、どれだけ時代や社会が変わっても、根本の部分は一緒なんだなと感じました」 ──春日はボードレールの詩集『惡の華』を心の拠り所に、なんとか毎日を過ごしている文学少年です。ご自身の思春期と共通するところはありましたか? 「タイプとしては正反対でしたが、大人に反抗したくなる気持ちはすごくわかります。多感な14、15歳の頃って、出会いによって自分が変わる時期でもありますよね。春日にとっては仲村さん(玉城ティナ)だったけど、自分の場合は地元の先輩でした」

──その先輩から教えてもらったことは?

「大げさなものじゃないですが、『男として生まれてきたからには、いつもカッコよくあれ』とか、女性との接し方、自分に嘘をつくなとか、ファッションも生き方も影響を受けました。やっぱりどんなことがあっても、男としての重要な部分、核はしっかり持っていなくてはいけない。それが『昭和っぽい』と言われることもあるけど、僕はカッコいいことだと思っています」

──『今日から俺は!!』の伊藤を思い出しました。

「近いかもしれないですね。何かを判断するときも、シンプルにカッコいいか、そうじゃないのかで考えていいと思うんです。『カッコいい』にもいろいろな意味があるし、なぜそう感じるのか自分で考えること、そして理想に近づく努力が大事なのかなと」

「繊維の一本まで!」井口監督の嗅ぎ方指導

──撮影前、春日は「わからない」存在だったそうですが、クランクアップでは、春日と別れることが名残惜しかったとか。役にフィットした瞬間はどこだったんでしょうか。

「クランクインの最初のカットが、佐伯さん(秋田汐梨)のブルマを嗅ぐシーンだったんです。それまでは、春日という存在が点でしかなかったのに、そこで線でつながったという感じがありました。この物語で、ブルマはすごく大事なアイテムとして登場するんですが、そのシーンを最初に撮れたことが大きかったです」

──井口昇監督と、ブルマについてはお話しされたんですか。

「嗅ぎ方指導がありました(笑)。監督に『繊維のすべてを嗅ぎ取ってください』と言われて、最初は『監督は何を言っているんだろう』と思ったんですけど、とにかくやってみるしかなくて。それで、スーーーと吸ったら、吸った息をあまり吐きたくなかった。これか、と。それで春日が掴めました」

──なるほど(笑)。映画の中では、「変態」という言葉がキーワードになっています。いろんな意味が含まれる言葉ですが、春日にとって「変態」とはなんだと思いますか?

「ありのままの自分、何も包み隠さない裸の自分が、春日にとっての変態ということなんじゃないかなと思います。やっぱり他人に隠したい部分はありますよね。14、15歳の思春期だからこそ、春日はそこをさらけ出すことができたのだろうし、自分の思春期を振り返って、その気持ちはわかります。同じことはしないですけど」

──伊藤さんは14歳で仕事を始めましたよね。

「そうですね。仕事を始めて、大人に接して、徐々に自分も大人にならざるを得なかった。それまでは、学校と地元だけだったけど、新しい世界で吸収することも考えることも多くなりました。そうしているうちに、思春期の悩みからは自然と抜け出せていました」

──パーソナリティを務める『伊藤健太郎のオールナイトニッポン0』でも、10代からのメールも多いですが、もし思春期の暗闇にいる人にアドバイスするとしたら?

「無理に抜け出そうとしなくていいし、彷徨っていい。暗闇の中でしか考えられないこと、感じられないことが絶対あるから、それを大事にしたほうがいいと思います。絶対にいつかは晴れる日が来ます。今の瞬間を大事にすると、大人になっていい影響があるんじゃないかなと思います」

──『Numéro TOKYO』読者に、この映画の見どころを教えてください。

『「クソムシが!」とか「僕は変態なんかじゃない!」とか強い言葉もあって、それも作品の中で重要な部分ですが、思春期の少年少女が抱えているものが普遍的に描かれていて、誰もが共感できる部分があると思います。思春期のお子さんをもつ、大人の女性にも観て欲しいです。自分の当時のことを思い出して、子どもたちに寄り添いやすくなるんじゃないかな。ぜひ、気楽に観てください』

「生きる上で、一番大事なのはやっぱり愛」

──かなり多忙ですが、気分転換には何をしていますか?

「気心が知れている地元の仲間とごはんを食べたり、お酒を飲みに行ったり。その時間がすごく好きです。ストレス発散になりますね」

——先ほどお話に出てきた先輩とは?

「よく会っています。この間も一緒に買い物に行きました。先輩は30代ですけど、全然ブレてなくて、今もすごくカッコいいんですよ」

──先輩から、男のカッコよさを学んだという伊藤さんですが、一番大事にしていることは?

「……。今、すっごくカッコつけたこと言いそうなった。あっぶねぇ(笑)」

──それ、教えてください!

「(笑)。作品を作っていく上で、愛は大事だと思うんです。愛がなかったら映画は作れないし、それは、全てのことにおいても言えることですよね。チャリティ活動で児童養護施設にお邪魔したとき、職員のみなさんに愛があって、だからこそみんなも慕っていて。無償の愛はすごく大事なんだと実感しました。だから、仕事においても、人に対しても、大事にしているのは愛です。うわー。誰かに『あいつ何言ってんだよ』って言われそう(笑)」

──話は変わって、今ハマっているものは?

「これから、家庭菜園をやってみようかと思っています。何かを育てたくて、動物を飼おうかとも考えたんですが、自分が仕事でずっと家にいないからかわいそうで。トマトにめちゃくちゃ愛を注いでみたいです(笑)」

 

Photos: Yuki Watanabe Hair & Makeup: Seiji Kamikawa(Crollar) Styling: Tsuyoshi Takahashi(Decoration) Interview & Text: Miho Matsuda Edit: Yukiko Shinto

Profile

伊藤健太郎Kentaro Ito 1997年6月30日生まれ、東京都出身。モデルを経て、ドラマ『昼顔〜平日午後3時の恋人たち〜』(CX)で俳優デビュー。その後、数多くのドラマに出演し、映画『デメキン』(17)で映画初主演。『ういらぶ。』『犬猿』『ルームロンダリング』『コーヒーが冷めないうちに』(すべて18)など多数の話題作に出演。2019年第42回日本アカデミー賞新人俳優賞・話題賞 俳優部門を受賞。『今日から俺は!!』の伊東真司役、『アシガール』の若君役などユニークな役柄でも注目を集める。



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