フランソワ・オゾン インタビュー「現実にない喜びを得られるということ」
──あなたも以前、女装に興味を持ったことがあると、フランスの雑誌のインタビューで読んだのですが。
「え、僕がそんなことを言っていたの(笑)? いや、それは幼少時代の遊びのことだよ。ふざけて少女の格好をしたという。本気で女装に憧れたことはない。僕は少年でいることに満足していた。女装をするのは大変そうだったしね(笑)。でもダヴィッドを演じたロマン(・デュリス)は、女装をするのが好きだったと言っていたよ(笑)」
──彼の演じるヴィルジニアは、とても説得力があり魅力的です。女装を楽しんでいたということも、ロマンをこの役に選んだ秘訣でしたか。
「まさに。彼はまるで幼少時代に戻って遊ぶような感じで女装を楽しんでくれた。子どもの頃、お姉さんと一緒に女装して遊んでいたそうだ。ロマンは彼の中にあるフェミニティに対して居心地の悪さを感じていないし、それを恐れていないと思う。彼の演技をみていると、楽しんでいるのが明らかだ。僕にとって俳優が楽しんで演じられるのは大事なことだった。多くの男優の場合、そうはいかない」
──男優が女性的な役を演じるのを嫌がるというクリシェは、いまも存在するのでしょうか。
「いや、最近は俳優も、そういう役をやる方が賞を取りやすいとわかってきたみたいだから(笑)、それはないと思う。ただ、自分自身が楽しめるかどうかというのは、別の問題だ」
──ところで、クレール(アナイス・ドゥムースティエ)が着ている白いカラーに黒のセーターという装いは、イヴ・サンローランの衣装を着た『昼顔』のカトリーヌ・ドヌーヴを彷佛させました。あの役も昼と夜の顔が異なる二面性がありましたが、ちょっとした目配せ的な意味合いがありましたか。
「うん、まさに。それと厳格な感じを出したかった。クレールはこの映画のなかで徐々に変化する。最初は洒落っ気がないけれど、ヴィルジニアに影響されてどんどん女らしく、お洒落になっていく」