フランソワ・オゾン インタビュー「現実にない喜びを得られるということ」
──ルース・ランデルの短編をもとに、女装をする主人公を描いた『彼は秘密の女ともだち』は、構想20年だそうですね。なぜそれほどまでに時間がかかったのですか。
「当時短編映画として撮ろうと試みたのだけど、結局お金も俳優も見つけられなかった。でもその後もずっとこの話が頭から離れなくてね。2013年にフランスで同性愛者の結婚が法律で認められた際、反対派の人々の過激な暴力が話題になった。あの出来事をきっかけに、今こそこのストーリーを政治的なメッセージを込めて描くべきだと思ったんだ。つまり、ハッピーエンドとして主人公に生きるチャンスを与えること。原作は、クレールがダヴィッドことヴィルジニアを殺すところで終わる。でも僕は、ふたりが惹かれ合い、カップルとして生きられるようにしたかった」
──その点で、観客に共感を持ってもらうことは大切でしたか。
「もちろん。それでいろいろと考えて、友人であるクレールの視点から物語を描くことにした。冒頭では、ダヴィッドが妻ローラを失う。愛する妻を失ったとき、残された夫はどうやってその喪失とともに生きるだろうと考えたとき、アイディアが閃いた。ちょっと『まぼろし』(2000年の監督作)の話と似ているね。ここでは、ダヴィッドはローラを懐かしむあまり、自身がローラの服を着て女性に変化し、子どもの母親となることで悲しみを克服する。それがきっかけで彼は新しい人生を踏み出す。これは喪失と再生、そして自由についての普遍的なテーマを描いているんだ。社会や家族の枠組みから逃れて、自由に生きることへの希求を」
──ダヴィッドの妻ローラと、彼女の幼なじみのクレールの関係はレズビアンの雰囲気も漂いますが、同性愛というテーマを強調したかったのでしょうか。
「いや、僕にとって彼女たちの関係はレズビアンとは異なる。女性が好きというわけじゃない。たとえば子どものときは親友のことが好きになったりするように、それは身体の関係ではなく、精神的な愛の物語だ」