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イスラム初の漫画家マルジャン・サトラピによる映画「チキンとプラム」

 

 

今上映中の映画「チキンとプラム」を観にいきました。

原作はフランスの漫画で「鶏のプラム煮」

私の大好きな漫画家、マルジャン・サトラピの作品です。

マルジャン・サトラピはイスラム初の漫画家。フランスに亡命してしてからの、BD(フランスコミック)界でのデビューですが。。

マルジャンはシャー(王族)の末裔で文化レベルの高い家で育ってます。(シャーの末裔がどのくらいいるのかわからないので、どれくらい凄いかわかりませんが)写真は若い時のマルジャンで、とても美人!

デビュー作は「ペルセポリス」、イスラム革命以降の著者自身の体験談を書いたものでマルジャンの最高傑作!

この作品で一躍有名になります。

革命、戦争、叔父は投獄されて処刑、現代っ子があまり経験してない体験や、我々と異なる価値観が描かれているので、まるでSF作品みたいです。

 

ペルセポリスはアニメ化もされています。↑アニメ作品も素晴らしいです。

上画像は正しくヴェールを着用してない事を取り締まられてるところ。

パンクの服を怒られてますが、原作ではこういう服は着ておらず、パンクを知らない彼女らが何でもパンクだ、と言って言いがかりをつけてるシーンです。

(マルジャンが反抗的な行動をしていたのは間違いないのですが、この時代におけるパンク行為は前髪を出してる事だったりするわけですよ。服装が思想を表すサインなんですね。)

 

他にも「刺繍」という作品を出しています。イラン女性がお茶を飲みながら恋愛と結婚についてダベってる話。

女性らしくハンカチに刺繍、とかのイメージを連想すると思いますが女性器縫合の意です。

で、ここで「鶏のプラム煮」に戻ってくるわけですが。。

「鶏とプラム煮」はマルジャンの大おじがモデルのナーセル・アリが主人公で、イスラム革命以前のお話。なのでみんなヴェールをしてないのです。

この後に「ペルセポリス」の時代が来る、ということがわかってないと面白くもなんともない話なんですよ。

多分、マルジャンの一連の原作を読んでないで映画を観ると”ちょっと不思議な世界観のラブロマンス”くらいにしか見えないんじゃあないでしょうか。

ちなみに、映画ではこういった歴史的な背景は一切語ってませんでした。

 

しかもヴァイオリン弾きの話になってますが、本当はイランの伝統楽器タールの奏者です。

タールじゃないってのが残念です。決してオリエンタリズム的な意味ではなく、意味が大分変わってくるからです。

アリが恋した相手はイラーンという名なのですが多分イランの意でしょう。なので、彼が恋を失ってしまう事と時代の変動を全部かけてるんですね。

 

映画ではアリが新しい楽器を買う時、阿片を断って音色を聞きもせず買ってます。

原作では阿片を吸って朦朧とし、なんか凄くいい音色に錯覚してしまい買う、という詐欺にあってます。

なんで映画では阿片を断ってるのかがわからないです。(じゃないと阿片が出てくる意味ないです)

ちなみに原作では当たり前のようにみんな阿片を吸ってます。マルジャンのおばぁちゃんも阿片常用者で、おかげで目がトロンとして、それのおかげでモテモテ。3度も結婚してます。

他にもアリの奥さんが、こんなもの!的な感じでヴァイオリンを投げて壊すシーンがあるのですが、これも原作ではもっとインパクトのある壊し方をしています。「どうよ!」と言って膝でタールをへし折るんですよ?

なかなか思いつかない台詞と壊し方!かなりヒステリックです。ちなみに、本当の奥さんはタールを壊すような事はしなかったらしいので、マルジャンの創作話。つまり、マルジャンが奥さんだったらそうする、って事なのではないかと。。

 

 

監督は「ピノキオ」の人でマルジャンも一緒に監督してます。なのである程度納得済みで作られた作品だとは思うのですが。。

マルジャン・サトラピの大ファンとしては色々??と思うところがあったわけです。

けど、いい役者が沢山出ていて、映像もキレイで、ラストに向かうくだりの数分間は完璧で最後もいさぎのよい終わり方。

なので皆様、マルジャンの作品を読むと10倍くらい理解して映画を楽しめると思うので、予習して映画を観に行く事をお勧めしま~す!!

または映画を観てから原作を読むか。。

ちなみにマルジャンの作品は本屋では漫画コーナーにはなく、文学コーナーに置いてあるのでご注意を!!

 

予告編はこちら→http://www.youtube.com/watch?v=Hoyv2ohZZ4gwatch?

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サエボーグ(saeborg)はラテックス製の着ぐるみ(スーツ)を自作し、自ら装着するパフォーマンスを展開するアーティストです。これまでの全作品は、東京のフェティッシュパーティー「Department-H」で初演された後、国内外の国際展や美術館で発表されている。2014年に岡本太郎現代芸術賞にて岡本敏子賞を受賞。主な展覧会に『六本⽊アートナイト2016』(A/Dgallery、東京、2016)、『TAG: Proposals on Queer Play and the Ways Forward』(ICA/ペンシルバニア大学、アメリカ、2018) 、『第6回アテネ・ビエンナーレ』(Banakeios Library、ギリシャ、2018)、『DARK MOFO』(Avalon Theatre/MONA 、オーストラリア、2019)、 『あいちトリエンナーレ』(愛知芸術劇場、名古屋、2019)、 『Slaughterhouse17』(Match Gallery/MGML、 スロベニア、2019 )など。

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