「境界」を描き続けた画家アンドリュー・ワイエス、待望の回顧展が上野で開催中

ひたすら自分の身近な人々と風景を描き続けた、20世紀アメリカ具象絵画を代表する画家アンドリュー・ワイエス(1917-2009)。窓やドアなど、ある種の境界を示すモティーフが数多く描かれるが、その作品は眼前にある情景の単なる再現描写にとどまるものではなく、作家自身の精神世界を反映している。没後、日本で初めての回顧展となる「東京都美術館開館100周年記念 アンドリュー・ワイエス展」をアートライターの青野尚子がレポートする。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2026年6月号掲載)

“境界”を行き来するワイエスの風と光
「東京都美術館開館100周年記念 アンドリュー·ワイエス展」のテーマの一つは「境界」だ。窓やドアなど、内外を隔てる境界が多く登場する。
多くのワイエス作品のモデルとなったクリスティーナが暮らしていたオルソン家は、彼が繰り返し描いたモチーフの一つだ。その家や納屋の窓から差し込む光と、そこに浮かび上がる道具や人物はフェルメールの絵画を思わせる。窓から飛び込んできた鳥を描いた絵もある。一際印象的なのは風を描いた作品だ。窓際ではためくカーテンは見えない風の姿をあらわにする。窓辺に座るクリスティーナを描いた《クリスティーナ·オルソン》では彼女の髪が風になびく様子が描写される。興味深いのはこの絵の習作では彼女の髪はなびいておらず、きっちりとまとめられていることだ。ワイエスにとって風の存在がこの絵の鍵になっていたことがわかる。

風も光も鳥も境界を自由に行き来し、一瞬たりとも止まっていることはない。ワイエスは若いころ家族や自身の死に直面し、死について考えることが多かったようだ。風や光は生を想像させると同時に、永続しないものでもある。私たちは生と死の境界を超えてこの世にやってきて、また向こう側に帰っていく。そんなことも感じさせて、幾度も彼の画面に吸い寄せられてしまうのだ。



「東京都美術館開館100周年記念 アンドリュー・ワイエス展」
会期/2026年4月28日(火)~7月5日(日)
会場/東京都美術館
住所/東京都台東区上野公園8-36
開館時間/9:30~17:30(金曜は20:00まで)※入館は閉館の30分前まで
休館日/月曜 ※6月29日(月)は開室
TEL/050-5541-8600(ハローダイヤル)
https://wyeth2026.jp/
Text:Naoko Aono Edit:Sayaka Ito
Profile

