異なるイメージを組み合わせ、換骨奪胎するフォトモンタージュの技法で社会における女性の姿を再構成するアーティスト、リンダー・スターリング。鋭くも鮮やかな作品群が、シャネル・ネクサス・ホールにてメッセージを放つ。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2026年7・8月合併号掲載)









インタビュー:制約を打ち砕くイメージの光
UKパンクシーンを皮切りに、世の固定観念を挑発してきたリンダー・スターリング。その切れ味とユーモア、信念の源泉を探る。
固定観念を挑発するフォトモンタージュの力
──パンクバンドのアートワークに始まり、既存の写真を切り貼りするフォトモンタージュの作品を制作してこられました。この手法にどんな可能性を感じますか。
「一番は、誰でも経済的負担が少なくできることですね。雑誌とハサミ、ノリがあれば、小さなスペースでも作ることができます。もう一つの側面は『ただのツールにすぎない』こと。行為そのものが政治性を帯びるわけではないので、思想を問わず誰でも行うことができます。いいこともある一方、デジタル技術が進化した現在、AIを用いて著名人などの偽動画を生成するディープフェイクが簡単に作られる時代です。これは非常に暴力的な行為といえます。フォトモンタージュも同様に、アーティストの力量や思考によって印象が左右される危険性をはらんだツールでもあるだけに、今後のイメージの使われ方は、私たちの手にかかっていると感じています」


──時代の変化も自身の制作に影響を及ぼしているのですね。
「もちろんそうですね。ですが、いろんなことが変わっていくなかでも続けてこられたのは、手法のシンプルさが大きいと思います。例えば『Pretty Girls』シリーズは、ポルノという男性の領域と、女性に課されてきた家庭的役割を転覆させようと試みた作品で、成人向けグラビア誌の女性像一人につき一つずつ、家電の写真を貼り付けて構成しました。『Less is more』、つまりシンプルこそが豊かであるという考えがありますが、シンプルさに力を感じると同時に、一見ミニマルな作品ほど、モチーフ探しから貼る位置を決めるまで、ものすごく時間がかかっています。私の場合は、外科用のメスで切り取り、ノリで貼るというアナログな作業だけに、一度でぴたりと配置を決めなければなりませんから」

──自らがモデルとなった作品も初期から制作されていますね。
「ポルノやファッション、インテリアなど雑誌の女性像を切り抜いて創作していくなかで、性的、あるいは“正しい女性”として表象化された女性の姿をたくさん目にしていました。『What I Do To Please You I Do』(本記事のトップ画像)は、自分自身も一度、対象化されなければならないという気に駆られ、写真家に『私をモノとして撮ってほしい』と依頼して制作した作品です。実家で母が使っているキッチンを探り、包帯やフィルムなど、どの家にもありそうなものを用いて魅力的に見せる方法を実験しました」
フェミニズムとダダイズム、ユーモアに批判を託す姿勢
──ステレオタイプな女性像に一石を投じる姿勢に、フェミニズム的な思想を感じます。そうした要素を作品に反映した理由は?
「これは初めて話すことですが、フェミニズムとの最初の出合いはコメディでした。16歳の頃、毎週見ていたテレビ番組が、皮肉まじりにいろんなことを風刺していくもので。出演者の一人に、フェミニストのジャーメイン・グリアがいました。彼女の『去勢された女』を読んでみると、その内容が革新的だったんです。その後、女性の権利を求める運動が広がりましたが、グリアのスタンスは変わらず、女性の権利をウィットの利いた発言で主張していました。もともとフォトモンタージュは、第一次世界大戦で手足を欠損した兵士の姿を見たダダイズム(1910年代に起こった前衛的な芸術運動)のアーティストが、伝統的な価値観を否定するために始めた手法です。ウィットを利かせて世の中を風刺する姿勢は、グリアの姿とも重なりますね。私自身も作品を作るときは、批判的なメッセージをユーモアの表現に託すようにしています」
──パンクバンドBuzzcocksのアートワークに使用された作品など、唇のモチーフには、どんな意図を込めていますか。
「女性の口から出る会話はゴシップとして片付けられ、口に入る食べ物も『体重に気をつけなさい』と管理されてきました。そして最近では、若々しい唇の輪郭を保つのにヒアルロン酸が注入される。女性が自らをモンタージュしているようで、とても象徴的ではないでしょうか」
規範、ジェンダー、世代……境界を超える新たな試み
──いま関心のあるテーマや、挑戦したい表現はありますか。
「現在イギリスではディープフェイクを規制する法律の制定が進んでおり、私も関心を寄せています。女性が男性的な目線でディープフェイク化されるのは非常に暴力的な、忌まわしいことです。私はまず自分を素材にすることで免疫ができるのではと考えて、自分の顔を成人向けグラビア誌の裸体にモンタージュしてみるなど、実験をしているところです。ちなみにその作品はロンドンのナショナル・ポートレイト・ギャラリーに収蔵されていて、古くは17世紀絵画の巨匠レンブラントに始まる肖像画専門の美術館にディープフェイク的な作品が加わるのは、誇らしくうれしい半面、ちょっと複雑な気持ちでもあります(笑)」

──地元リヴァプール近郊のチームで活躍するプロサッカー選手、ミゲル・アゼースとのコラボレーションは、これまで女性像を主題に制作してきたリンダーさんにとって、新しい挑戦にも思えます。
「美術史においては長らく、男性が若い女性をミューズにしてきました。ミゲルはサッカー選手らしからぬファッションセンスの持ち主で、自分のセクシュアリティにも自信を持っている。思わず気になり、何か一緒にできないかと声をかけました。小さな田舎町では勇気のいることだと感じ『こんな格好をしていて、暴力を振るわれたりしない?』と尋ねましたが、『自分が一番強いから』と。女性の場合、目立つ服装で自身の特性を明らかにするのはリスクが伴うものの、恐れに屈しない彼の世界観をどう見せるかを考えて、制作に取り組みました。本作には宗教絵画で知られるラファエロの若かりし頃の作品をモンタージュしていますが、ミゲルがバチカンで洗礼を受けた直後だったこと、23歳というミゲルの年齢が見事に重なったと感じます」

──「若い女性こそがミューズ」という固定観念や、ジェンダーや世代の差など、多くの境界を超えようとする意志を感じました。
「彼自身が“こうあるべき”という規範を自ら壊し、超えようとしていますから。そうした彼の態度が私たちを引き合わせてくれた。私にとっても、心躍るチャレンジにつながったと感じています」
「LINDER: GODDESS OF THE MIND」
女性の身体にまつわるイメージを挑発的に再定義し続けるフェミニズムアートの先駆者にして、イギリスで最も影響力がある現代アーティストの一人。「KYOTOGRAPHIE」の展示を巡回・再構成し、約半世紀に及ぶ創作活動の進化をたどる。最新情報はサイトを参照のこと。
会期/6月25日(木)~8月16日(日)
会場/シャネル・ネクサス・ホール
住所/東京都中央区銀座3-5-3 シャネル銀座ビルディング4F
URL/https://nexushall.chanel.com/program/2026/linder/
Interview & Text : Akane Naniwa Edit : Keita Fukasawa
Profile

© CHANEL, Photo: Takeshi Asano
