IVEのウォニョンや本田翼らが来場。情報過多な時代へのカウンター「Miu Miu」2025年春夏コレクション
ミュウミュウ(Miu Miu)は、2025年春夏コレクションを2024年10月2日(現地時間)にパリのイエナ宮で発表。日本から参加した本田翼をはじめ、IVEのウォニョン、アーティストのカミラ・カべロや俳優のシェイリーン・ウッドリーといった豪華ゲストが見守るなかランウェイショーが行われた。
「SALT LOOKS LIKE SUGAR(塩は砂糖のように見える)」と題された本コレクション。かなり示唆的なタイトルではあるが、その“こころ”までは解読不能だ。コレクションノートによると、今回のランウェイショーを皮切りに、ミュウミュウのショートフィルムプロジェクト『女性たちの物語』にまつわるゴシュカ・マクガによるインスタレーションやさまざまなアーティストとのコラボレーションが控えており、それらを通してアート、シネマ、ファッションとの対話の探求を試みるという。多岐にわたる交流の意図は、虚栄心の動き、また女性が自身の眼差しにおいて、自らをどのように見えているかを探る目的がある。
パリ16区にあるイエナ宮のショー会場では、ゴシュカ・マクガのインスタレーションの一環として、印刷機をイメージしたセットを設置。来場者には「The Truthless Times」という新聞が配布され、セット上部にも同誌が吊るされている。誌面のQRコードを読み込むと、イギリス人思想家・シューモン・バサールのエッセイをはじめとする、様々な文書が読める仕掛けとなっている。情報の伝達、発信、喧伝をパッケージ化したような空間そのものが、物事の詳細を吟味するツールであり、真実という概念を解読するツールなのだ。そこには、現代社会におけるおびただしい情報量がデフォルメされており、本コレクションが、9月に開催されたプラダの2025春夏ウィメンズコレクションに内包されていた「インターネットがもたらすアルゴリズムによる画一的な世界への独創的な挑戦」と、地続きであることを確信させた。それらを踏まえると、“塩は砂糖のように見える”というタイトルには、“玉石”入り混じる似たようなものの中から本当に必要なもの・ことを見極める審美眼の大切さを説くメッセージだと考えるのが自然なのかもしれない。
改めてランウェイショーに話を戻そう。フランスのジャズピアニスト、アラン・ゴラゲールの『Terr et Tiwa』が流れると、ショーはスタート。ファーストルックは、シンプルなコットンの白いスリップドレス。リブ編みのロングソックスとトウ部分から足指が顔を覗かせるハイヒールを合わせた。続いて、コットンのノースリーブワンピースの上から、異素材のトップスをボディに巻きつけてシルエットを変容させたルックが続く。これらは、幼い子供のワードローブに着想を得たもので、コーディネートを度外視したおしゃまな幼少期のファッションを想起させる。2024年秋冬コレクションでは、人生の経験をスタイルの変遷やアイテムの変化といった服の言語で提案したミュウミュウ。前述した2つのルックに顕著なように、今回は絶対的な真実を象徴する子供時代を模索したという。感情を偽ることを知らない無垢な子供の存在は、自分自身や、自らの理想に対しても正直であること。それは、情報過多な時代においては、シンプルな服が明瞭さや素直さを雄弁に語るものだと伝えている。
中盤以降に多く見かけたロゴ入りのトップスが、おそらくプチバトーとのコラボレーションと思われる。首周りに立体的なカッティングを施したショートスリーブやトリムタンクトップなど多彩なバリエーションがあり、人気を集めそうだ。
序盤はシンプルなアイテムが多く、カラーパレットもグレーやネイビー、ホワイトが中心で、アクセサリーはかなり控えめだった。ただ、クラシックなアイテムでもルールから外れた着こなしによってフレッシュに見せている。カラーブロックのナイロンコートとスイムウェアの組み合わせた、3つボタンの端正なテーラードジャケットのインナーに大胆なカットアウトのボディスーツを合わせたルックなども印象に残った。また、シャツの襟を片方だけわざと乱したり、無理やり胸元をたくし上げたようなワンピースがレイヤードのディテールとして機能していたりと、あえて間違った着こなしを提案することで、着る人が新しい何かを発見する手助けの役目を担っているという。
BGMがスロッピング・グリッスルの『Walkabout』に変わる頃には、2000年代初期のミュウミュウを思い起こさせるような配色のトラックジャケットやジャージートップスが登場。24AWコレクションでも見られたポプリン地のバルーンスカートに、ラメやビジューで具象的なモチーフをあしらったアイテムなど、これまでブランドが手掛けてきた作品群の美しさを再認識させるような意匠も散見された。また、目元とリップラインの一部にシャイニーなシルバーを使ったアーリー90’s的なヘアメイクは、ノスタルジーとは異なる新鮮味を感じさせた。
終盤以降でも、気になるルックがいくつもあった。ヴェルナー・パントンを彷彿させるオプティカル柄を全面にあしらったコートやワンピースもそのひとつ。足元に合わせたランニングシューズも含めて、レトロクラシックなムードを助長する。また、マーゴット・ロビーやツィギーといった往年のスタイルアイコンが着ていたようなビニール風のレザーアイテムも目を引いた。ダブルのコートやラップスカート、ジャケットなどに用いられており、ミュウミュウを象徴するアズーリ(青)を含む様々なカラーバリエーションで披露。当時のムードを巧みに取り入れつつ、シャワーサンダルを合わせたルックでコンテンポラリーに変換していた。
毎回、モデルのキャスティングが話題になるミュウミュウのコレクション。今回もニコール・キッドマンの愛娘サンデー・ローズ・キッドマン・アーバンをはじめ、 (G)I-DLEのミンニ、ラッパーのリトル・シムズなどが登場。フィナーレでは、俳優のウィレム・デフォーがランウェイを歩いてショーを締め括った。こうした性差や年齢といった属性を問わない多彩なキャスティングは、ミュウミュウが目指す強い意志を持つ多様な人々が住む世界を表すものである。最後に登場したミウッチャ・プラダの真っ赤なコート姿に、彼女自身がその世界の住人であると同時に、情報過多な時代において確固たるスタイルを築いた崇高な美しさを見た。
Miu Miu
ミュウミュウ クライアントサービス
TEL/0120-451-993
URL/www.miumiu.com
Text:Tetsuya Sato