女性たちをエンパワメントする「アナザーエナジー展」レポート
今なお世界各地で挑戦を続ける70代以上の女性アーティスト16名に注目し、紹介する「アナザーエナジー展:挑戦しつづける力—世界の女性アーティスト16人」展。映画作品『あえかなる部屋 内藤礼と、光たち』を手がけるなど、映像作家として活躍する中村佑子がレポートする。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2021年9月号掲載)
作り続ける力
緊急事態宣言下で観覧し、身体のなかから湧き上がるようにエンパワメントされた展覧会だった。集められているのは、全員が70歳以上、キャリア50年以上の女性作家16名の作品。
アート界では、これまで美術館や有力ギャラリーが注目してこなかった、女性や白人欧米社会の周縁のオルタナティブな作家をあつかった展覧会が増えている。本展に集まる彼女たちは、そんな本流からの評価や、経済的な恩恵を得られる前から、ずっと作り続けてきた。
アプローチは自由で風通しが良い。たとえば各国に飛んで、その土地の地層に眠る文化をリサーチしながら、紙や合板を用いて紙芝居のようなインスタレーションを作るアルメニア系エジプト人のアンナ・ボギギアン。調べること、作ること、そして現地に透かし見た歴史認識が渾然一体となった作品は、ひらひらと空中に舞い、生成変化する自由さが体現されている。
館内で上映されるインタビューで、ボギギアンはコロナ後の社会について鋭く切り込んでいた。いわく、「資本主義は死にました。あるいは、別のものに取って代わられるべきです」、そしてアートの役割を「現実そのものではないが、リアルとは何かという問いそのもの」と語る。この答えにある種、作り続けることの答えが集約していると感じた。
ソーシャリー・エンゲージド・アートの巨匠スザンヌ・レイシーの作品もまた、年齢差別や性被害、人種差別など、社会に巣食う複雑な問題に安直な答えを求めるのではなく、どこに問題があるのか、参加者を巻き込み、各人が深く問う契機となるような作品群だ。
自分を見つめ、作り続けてきた彼女たちの眼差しに私たちは、いまの混沌とした時代を潜り抜けようとする力を見るのかもしれない。広く多くの女性たちに見てもらいたいと思う展覧会だ。
「アナザーエナジー展:挑戦しつづける力—世界の女性アーティスト16人」
会期/2021年4月22日(木)〜9月26日(日)
会場/森美術館
住所/東京都港区六本木 6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53 階
時間/10:00〜20:00(火曜日のみ17:00まで)※当面、時間を短縮して営業
URL/www.mori.art.museum
※掲載情報は8月18日時点のものです。
開館日や時間など最新情報は公式サイトをチェックしてください。