全人類を魅了する、奥深き食の世界[中編]/菊地成孔×伊藤俊治 対談連載 vol.18 | Numero TOKYO - Part 5
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全人類を魅了する、奥深き食の世界[中編]/菊地成孔×伊藤俊治 対談連載 vol.18

──本格的なイタリアンがたくさんある一方で、ナポリタンもリバイバルしていますよね。
I「一時期は絶滅しそうだったのに。女の子たちもよく食べていますよね」
K「ノスタルジーもあるんじゃないでしょうか。広告屋さんがノスタルジー~フューチャー、コンサバティブ~アバンギャルド、といった軸を作っていそうですが、この手法でものを考えること自体が廃れてきているから、最近はみんなまとめなくなりましたけど」
I「従来のマーケティング理論が通用しなくなっているんでしょうね」
K「ただ、カジュアルに向かっていることは確かで、安くておいしくておしゃれで、という随分がめつい(笑)ニーズがあるようです」
I「最近はちらほら一人で牛丼屋に入る女の人もいるから、アラサー、アラフォーの女性たちが自信を持って牛丼屋に足を運ぶようになれば、トレンドもきっと変わるでしょうね」
K「その現象にはジェンダーが壊れたことも影響していると思いますし、食文化はやはり人類の中枢というか、いろいろなものが反映されるので、一言で統括するのは難しいですね」
I「物流システムの変化も背景にはありますよね」
K「アマゾンの存在は食の業界にも影響を与えているでしょうね。ジョージ・オーウェルのディストピア的に言えば、そのうちパソコンからパンケーキが出てくるんじゃないでしょうか。パソコンから食べ物が出てきたら、いよいよ人類はコンピュータに家畜化されてしまうわけです(笑)」
I「たとえさまざまな産地の米が自宅で簡単に手に入っても、味わいの違いを受け止められる自分ができているかというと、それは別問題で。そこは解決されていないんですよね」
K「健康状態と食はめちゃくちゃ関係があって。何でもそうだけれど、外にあるオブジェクトの効果が絶対的に決まることはないので、結局は自分のコンディションと対象との関係なんですよね。三つ星が絶対においしい、インスタントラーメンが絶対にマズい、というわけではなく、常に相対的で流動的なんです。これがグルメを考える上でのダイナミズムになるべきなんだけれど、情報として固定化できないのでなかなか言われないですよね」
後編へ続く
伊藤俊治(いとう・としはる) 1953年秋田県生まれ。美術史家。東京芸術大学先端芸術表現科教授。東京大学大学院修士課程修了(西洋美術史)。美術史、写真史、美術評論、メディア論などを中軸にしつつ、建築デザインから身体表現まで、19世紀~20世紀文化全般にわたって評論活動を展開。展覧会のディレクション、美術館構想、都市計画なども行う。主な著書に、『裸体の森へ』『20世紀写真史』(筑摩書房)、『20世紀イメージ考古学』(朝日新聞社)、『バリ島芸術をつくった男』(平凡社)、『唐草抄』(牛若丸)などがある。
菊地成孔(きくち・なるよし) 1963年千葉県生まれ。音楽家、文筆家、音楽講師。85年音楽家としてデビュー以来、ジャズを基本に、ジャンル横断的な音楽活動、執筆活動を幅広く展開。批評家としての主な対象は、映画、音楽、料理、服飾、格闘技。代表的な音楽作品に『デギュスタシオン・ア・ジャズ』『南米のエリザベス・テイラー』『ニューヨーク・ヘルソニック・バレエ』『戦前と戦後』などがある。主な著書に、『スペインの宇宙食』『時事ネタ嫌い』『ユングのサウンドトラック』など。映画美学校・音楽美学講座、国立音楽大学非常勤講師として教鞭もとる。www.kikuchinaruyoshi.net/

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