<公演間近>落合陽一×日本フィルの音楽会、公開トークへ! | Numero TOKYO
Art / Editor’s Post

<公演間近>落合陽一×日本フィルの音楽会、公開トークへ!

左から落合陽一、WOWの近藤樹、指揮者の海老原光。(Photo: 野呂美帆)
左から落合陽一、WOWの近藤樹、指揮者の海老原光。(Photo: 野呂美帆)

メディアアーティスト落合陽一の演出による、「落合陽一×日本フィルハーモニー交響楽団プロジェクト」が今年も開催。オーケストラをテクノロジーで再構築する試み、その新たな進化形とは? 公演本番を前に行われた公開インタビューの模様を、ダイジェストでお届けします。

60年以上もの歴史を誇る日本フィルハーモニー交響楽団が、最先端テクノロジーを自在に操るメディアアーティストにして、弊誌も注目してきた希代の才能、落合陽一(※1)とタッグを組み、オーケストラの新しい可能性を探究するべくスタートさせた「落合陽一×日本フィルハーモニー交響楽団プロジェクト」。

Vol.1『耳で聴かない音楽会』の開催風景より。(Photo: 山口敦)
Vol.1『耳で聴かない音楽会』の開催風景より。(Photo: 山口敦)
2018年4月に開催されたVol.1『耳で聴かない音楽会』では、聴覚障がいのある方にも楽しめるクラシックコンサートとして、「SOUND HUG」など振動や色によって音を体感できる聴覚補助デバイスを導入。 続く同年8月のVol.2『変態する音楽会』では、“映像の奏者”として日本が誇るヴィジュアルデザインスタジオWOW(※2)を迎え、オーケストラの楽しみ方を共感覚体験によってアップデートする取り組みを展開。ともに大きな注目を集めた。
Vol.2『変態する音楽会』の開催風景より。(Photo: 山口敦)
Vol.2『変態する音楽会』の開催風景より。(Photo: 山口敦)

そして今年8月、Vol.3となる今回は、より進化した試みとして方向性の異なる二つの公演を実施する。題して『耳で聴かない音楽会2019』(8月20日)と『交錯する音楽会』(8月27日)。果たして何が起きるのか? 公演本番に向けて行われた、落合陽一、指揮者の海老原光、WOWの近藤樹による公開インタビューより、個人的にビビッ! と来た言葉を引用してみました。

(※1)参考記事

(※2)参考記事

7月22日に開催された公開インタビューにて。(Photo: 野呂美帆)
7月22日に開催された公開インタビューにて。(Photo: 野呂美帆)

―― 以下、公開インタビューより抜粋 ――

落合陽一「Vol.1の『耳で聴かない音楽会』は、耳が聞こえない人でも楽しめるような“聴覚ダイバーシティ”を音楽会でどう実現するかという試みでしたが、今回の『耳で聴かない音楽会 2019』は映像や触覚を駆使しつつ、より“みんなで楽しめる”という方向性を追求していこうと考えています。一方で今回の『交錯する音楽会』では、Vol.2の『変態する音楽会』の方向性を踏襲しつつ、“目で聴く音楽”や“耳で聴いたものから浮かぶイメージ”といった共感覚的な要素によって、オーケストラという表現様式のアップデートに取り組んでいきます」

海老原光「『耳で聴かない音楽会』が究極的に目指すところは、この公演に参加した目の見えない方が音楽だけを聴いて感じるものと、耳の聞こえない方が映像だけを見て感じるものが同じになることです。また、『交錯する音楽会』について言えば、落合さんやWOWの近藤さんとのやりとりを通して、音楽の存在価値というものが実は音楽ではないものと出合った時に初めて出てくるのではないかということを感じました。既存のオーケストラという存在が、オーケストラではない何かと交錯しながら変態していく体験になると思います」

近藤樹「これまでの企画を通して、映像という視覚的表現が人に与える情報の幅、明快さや繊細さをもっとコントロールできるのではないかと考えてきました。そういった共感覚的な可能性に、今回も二つの公演を通してアプローチしていけたらと考えています」

落合「数百年ものオーケストラの歴史に対して、日本のオーケストラは輸入されてまだ100年余り。でも、「外来物にいろいろと手を加えては自国風に料理してきたこの国」でなければできないアップデート方法もあると思っています。その意味で、僕はメディアアートのDNAは極めて日本的だと思っていて、それがオーケストラとミックスされたときに『ああ、なるほどね』と感じるものがありました。それはオーケストラを主体に据えてこそ成り立つものです」

海老原「落合さんがおっしゃった『モーツァルトが現代に生きていたら、絶対に映像を演奏の中に落とし込んでいるはず』という言葉が気に入っていて。『演劇や照明など舞台演出の要素は既に音楽と絡んでいるのに、映像はなぜ音楽と絡んでいないのか』と言われて、すごくハッとさせられました。だからこそ、メディアアート的な要素を音楽に合わせるのではなく、それが音楽と同時に存在しうるあり方を考えていきたいと思っています」

――(最後の質疑応答より、筆者の質問)3人のそれぞれの表現分野として、この試みの先に見据えているヴィジョンや、現在の手応えがあれば教えてください。

落合「重要なのは、テクノロジーにどれだけ“手垢”を付けていくか。オーケストラと映像を飛び道具的に合わせるということではなく、メディアアートの制作とメディア装置自体の研究をしてきた立場として、例えば映像装置なら、『ここまではオーケストラと合わせたとしても、これはもう“クラシック”と呼んでもいいよね』という境地を確立したい。そういったメディアテクノロジーの表現を、長期的な視点で探していきたいと思っています」

海老原「クラシック音楽の演奏会には、“間違い”はあっても“正解”というものはありません。ただし問題は、聴いてくれる人がどう感じるか。この企画を続けていくなかで、“映像をスコアに落とし込んだ音楽会”に対する批評が出てくることによって、新しい表現に対する新たな批評や価値観が生まれ、社会の中でアップデートされていくんじゃないか……。そんな楽しみを感じています」

近藤「聴覚にせよ視覚にせよ、“押し付けられる表現”と“想像力を広げてくれる表現”があるとして、自分たちとしては決して答えを押し付けるようなものにはしたくない。ある程度、みなさんの頭の中で想像がそれぞれに広がるような表現をどう形作っていくか。この企画は、そのバランスを探る長い旅路になるだろうと思っています」

落合「その意味では、この作業ってワインソムリエみたいだなと思うんですよ。『この「ジャーン!」という音は深海の青だね!』とか、『この音は紫がかった黒だな』『でもその黒だとチェロの音と合わないんじゃないですか?』といった感じで音楽を共通言語にして、装置とコンテンツの議論をしているから(笑)。でも、演奏家はもともと一音一音をそれくらい細かい粒度で解釈しているんだから、映像もそれくらいのクオリティで考えなければいけない。よくあるように、『ここの映像の尺は3分だから、盛り上がるところでピカッとさせる感じでいいでしょう』ということでは決してないと思うんです」

―― 抜粋ここまで ――

Vol.1『耳で聴かない音楽会』の開催風景より。(Photo: 山口敦)
Vol.1『耳で聴かない音楽会』の開催風景より。(Photo: 山口敦)

他にも「SOUND HUG」をはじめとする聴覚補助デバイスや音声文字変換アプリの導入、オーケストラの視点から日本文化を捉え直す文脈再構築の試みまで。アナログ×デジタル、伝統×テクノロジー、既成概念×拡張体験……。さまざまなキーワードが思い浮かぶものの、いったい何が起きるのか、こればかりは体感してみないことにはわからない。

オーケストラを拡張し、私たち一人ひとりの感覚や思考を拡張する試みーーそこに広がるのは、ネットやSNSでは決して共有できない2夜限定の時空間。さあ、告知は整った。体験するかしないか、それは自分次第です……!

1夜 Diversity『耳で聴かない音楽会2019
日時/2019年8月20日(火) 開演19:00(ロビー開場18:00)
場所/東京オペラシティ コンサートホール タケミツ メモリアル
住所/東京都新宿区西新宿3-20-2
料金/SS席¥12,000~B席¥5,000 ※ダイバーシティ(障害者手帳保持者)、Ys(25歳以下)、Gs(65歳以上)、割引あり

2夜 Art『交錯する音楽会』
日時/2019年8月27日(火) 開演19:00(ロビー開場18:00)
場所/東京芸術劇場 コンサートホール
住所/東京都豊島区西池袋1-8-1
料金/SS席¥13,000~B席¥6,000 ※ダイバーシティ(障害者手帳保持者)、Ys(25歳以下)、Gs(65歳以上)、割引あり

※チケット発売中
申込/www.japanphil.or.jp/
TEL/03-5378-5911(平日10:00〜17:00)
※各プレイガイドでも取り扱い有(S、A、B席のみ)

Profile

深沢慶太Keita Fukasawa コントリビューティング・エディターほか、フリー編集者、ライターとしても活躍。『STUDIO VOICE』編集部を経てフリーに。『Numero TOKYO』創刊より編集に参加。雑誌や書籍、Webマガジンなどの編集執筆、企業企画のコピーライティングやブランディングにも携わる。編集を手がけた書籍に、田名網敬一、篠原有司男ほかアーティストの作品集やインタビュー集『記憶に残るブック&マガジン』(BNN)などがある。『Numéro TOKYO』では、アート/デザイン/カルチャー分野の記事を担当。

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