森山未來インタビュー『「見えない/見える」ことについての考察』再演 | Numero TOKYO
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森山未來インタビュー『「見えない/見える」ことについての考察』再演

どんな業界にも「この人がいるから大丈夫」と思わせる存在がいる。森山未來は、複数のジャンルでその信頼を得ている稀有な存在だ。演劇で、ダンスで、映画で、ドラマで、どれだけの人が森山の解釈と表現によって新しい風景を目にし、届いたことのない深さに触れ、ジャンル全体の更新を経験しただろう。多くの舞台芸術の活動が制限されたこの半年でも、それは変わらなかった。森山が関わったプロジェクトがどれも「コロナ禍でも止まらない」ではなく「コロナ禍を契機に別の地平を切り拓く」ものだったのは偶然ではない。この人が動くと何かが大きく変わる。全国7ヵ所を回る朗読ソロパフォーマンス『「見えない/見える」ことについての考察』を控えた森山に、創作の核にあるものを聞いた。

「映像も演劇も踊りも、同等のものとして捉える作業は一応やってきた。だから、こういう遊び方ができたんだろうなという感じです」

──『「見えない/見える」ことについての考察』は、2017年に東京藝術大学の校内で4回だけ上演される作品として誕生しました。ただ、題材にしている2つの小説、『白の闇』(ノーベル賞作家のジョセフ・サラマーゴ作)と『白日の狂気』(モーリス・ブランショ作)はあまり一般的でなく、“朗読”と銘打たれてはいますが、照明や音響をかなり有機的に使い、森山さんのパフォーマンスも身体性が高い。どういう経緯で立ち上がった企画か教えてください。 「キュレーターの長谷川祐子さんから、朗読をしてみないかと誘われたんです。彼女が提案してくれた本の中にその2冊があって、パフォーマンスする場所として東京藝大の中にあるArts&Science LAB. 球形ホールが候補に出てきた。そこは半球状の構造で、まるで自分たちが網膜の中にいるみたいな錯覚にも使えるという話になり、『白の闇』と『白日の狂気』はまさに「見えるとは、見えないとは」という話なので、イベントタイトル通りになるといいんじゃないいかと決まっていきました」 ──とは言え、メインのテキストである『白の闇』が、謎の伝染病で世界中の人が失明する話なので、まさに現在の情勢と重なりますね。 「ザックリした感覚でしかないんですけど、『白の闇』は、今まで当然だったものが奪われてすべてが一変し、そこからどうやって、新しい社会との関わり方、人との関わり方を見出し、どう生きていくかを考える本でもあって、そのシチュエーションはとても(コロナ禍の現状に)フィットしますよね。『白の闇』は最終的に人々の視力は戻るんですけど、コロナは、いずれ落ち着くとしても、この数ヵ月にあったことは変えられないし、僕らの価値観も以前とは変わって、もう元には戻らないかもしれない。その変動に対する答えを僕は用意していないので、この作品がそれを一緒に考える時間になればいいな、ぐらいには思っています」

──その時に感じた手ごたえや課題があって再演が決まったのでしょうか。

「実は今回のツアーは、2年前に横浜の赤レンガ倉庫でやった『SONAR』というデュエットのダンス作品をやる予定だったんです。でも、相方のヨン・フィリップ(・ファウストロム)がノルウェー人で、この時期に来日するのが難しくなってしまった。それなら僕ひとりでできる作品ということで、これを選びました」

──このコロナ禍において最もアクティブに動いたパフォーマーのおひとりが森山さんだと認識しています。政府からの自粛要請で一時休止した劇場や団体は、本格的な再始動の前に、ひとまず配信を選ぶケースが多かった。その中で森山さんが関係した作品はどれも圧倒的に斬新でした。具体的には6月から7月にかけての、シアターコクーンの『プレイタイム』、彩の国さいたま芸術劇場の『OUTSIDE』、そしてチェルフィッチュの「『未練の幽霊と怪物』の上演の幽霊」です。同時期、かなりの数の演劇やダンスの配信がありましたが、内容や形式の新しさが桁違いでした。作品によって関わり方が異なったとは思いますが、そうした現場に森山さんがいらしたのは偶然でない気がします。

「『プレイタイム』について話すと、シアターコクーンは民間の劇場で(再開は自主的な判断を取れるものの)動きづらい施設のひとつだったと思うんです。そうした中でプロデューサーさんが、何か立ち上げたいと声を掛けてくれたところから始まりました。ぶっちゃけ僕、パフォーマンスは生で観るべきものだとかなり強く考えていて、映像で観るという選択肢自体がなかった。今も原則的にはそう思っていますが、その時期は現実的に、映像でしか舞台作品を観る術がなかったわけで、これはいよいよ腰を据えて、演劇なりダンスなりを映像で届ける、映像で観ることを考えなきゃいけない時期に来たんだな、と思ったんですよね。それで一緒にやりたい人を考えて、梅田哲也さんというアーティストをコクーンサイドに紹介したんです」

──梅田さんは、音響作家、演奏家でもありますが、建物の構造や人間の行動を捉え直すインスタレーションで国内外で高い評価を得ている方で、これまで演劇とはほとんど接点がなかった。森山さんはここ数年、パフォーマーでありながら別ジャンルの才能を連れてきて大きな化学変化を起こすというか、離れていたもの同士をつなぐジャンクションの役割を果たすことが多いですよね。子供が書いた物語を演劇にする2017年の『なむはむだはむ』では、岩井秀人さん(劇作家、演出家、俳優、ハイバイ主宰)とミュージシャンの前野健太さんを結び付けました。その“接続の勘”はどこから来るのでしょう?

「うーん、どうなんだろう? 自分の目線でしか判断できないんですけど、梅田さんにしてもマエケンにしても、存在だったり表現しているものが“横断的”だと感じられる。自分と一緒にワークができる可能性があるかを知る上でも、たぶん僕にはそれが重要で。梅田さんは、インスタレーションや彼が出ているパフォーマンスを観て、美術館の展示を鑑賞する枠を超えている人なんだなと勝手ながら理解していました。人柄とかはまったく知らなかったんですけど。マエケンは、メインの職業はシンガーソングライターなんだけど、存在自体が横断的というか。文章も書くし役者もやっているし、そもそも人との接し方がおもしろくて、存在そのものが普遍的な言語を発する人だから、どこに連れていっても恥ずかしくないという感覚を直感的に持っていました。

それと単純に、いわゆる既存の演劇、既存のダンスの関係者がつくっている“暗黙の了解”が好きじゃないんです。(特定のジャンルが築いてきた)阿吽の呼吸みたいなものが疑わしいというか、なぜそうなったのかを忘れて、お約束として形式だけが残っているのがいやなんですね。自分が演劇の中だけ、ダンスの中だけで動いている人間ではないからなのか、昔からずっと気になっていて。やっぱり、劇場という空間の中でゼロから虚構を構築して、それをつくる側と観る側でその場で共有することは、世の中で最も神秘的で美しいことのひとつだと思うから、そのためには違う風をちゃんと通さないといけない。だから意図的にそういう(別ジャンルの)人を入れたいと思っているのかもしれませんね。そういう人がいるとコミュニケーションが大変になるじゃないですか、お互いが当たり前だと思っていることを最初から説明しなきゃいけないから」

──森山さんの人選は大胆で失敗がないように見えますが、どうやって情報をインプットをしているんでしょう?

「うーん……。例えば今度の『「見えない / 見える」ことについての考察』をつくるきっかけにもなった長谷川祐子さんと出会ったことで、アートのフィールドに顔を突っ込む機会ができた。すると、そこで共通言語とされている言葉や景色があるじゃないですか。ホワイトキューブ(天井、床、壁が真っ白な空間。美術館の展示室に多い形状)の目線で作品を見るとか。かたや演劇では、ブラックボックスの中で何をやるかというところでの言葉や景色がある。ダンスにもそういうものがある。言ってしまえば広く浅い景色なのかもしれないですけど、そこを好きなように動いているから、自然とインプットがあるんだと思います」

──横断できる人に興味があるし、森山さんも横断している。“横断”はアーティストとしての中長期的なテーマでしょうか?

「あまりそこ、自覚的じゃないですけどね。というか、以前は他の人にも意識してもらいたくてそう言ってきましたけど、今はそうでもないかな。だからこそコロナの時期も自由に動けた気がします。ひとつのアクションを起こすのにも、どこにも所属していない、ある意味、ひとりだから動けたケースもありますし、映像も演劇も踊りも、同等のものとして捉える作業は一応やってきたから、こういう遊び方ができたんだろうなという感じです。ただ、自分と関わる人を見る時には、専門知識や技術の中で、どれぐらい普遍的な言語──表現にしても実際にしゃべる言葉でも──を用いるのかはすごく気にします。そういう意味では、横断的かどうかは口にしてしまうかもしれない」

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──もしかしたら森山さんは“横断”を“普遍的”なものにしたいのかもしれませんね。

「そうですね。でも最近は、普遍とは逆で、敢えて主観的なものの見方を意識しなきゃなと思っています。わがままとも捉えられるかもしれないけど、自分がどう歩いてるのか、何をどう見ているのかを、もっとちゃんと作品にしなきゃなって意図的に考えています」

──『「見えない / 見える」ことについての考察』は構成、演出ともに森山さんですから、あくまでも原作を通してですが、その点がダイレクトに反映されそうですね。

「視覚が失われた時、まずそれを補うのは聴覚かと思うので、そこをフォーカスした作品にします。この時期にこれだけのツアーをやらせてもらうのはまだ先行例がないと思うので、とてもありがたいですし、実際に出かけて行ってパフォーマンスする意味を改めて考える作品になりそうです」

朗読パフォーマンス『「見えない/見える」ことについての考察』

演出・振付・出演/森山未來
キュレーション/長谷川祐子
テキスト/ジョゼ・サラマーゴ「白の闇」(翻訳:雨沢泰、河出書房新社刊)
モーリス・ブランショ「白日の狂気」(翻訳:田中淳一 ほか、朝日出版社刊)
共同振付/大宮大奨
照明/藤本隆行(Kinsei R&D)
音響/中原楽(ルフトツーク)
映像/粟津一郎
舞台監督/尾崎聡
協力/藤井さゆり、三宅敦大
制作協力/伊藤事務所
企画・制作・主催/サンライズプロモーション東京

10月14日(水)~11月6日(金)、横浜赤レンガ倉庫1号館3Fホールを皮切りに、全国7ヶ所で38公演を開催。

チケット購入URL/https://eplus.jp/mienaimieru/
公式 HP/https://mienai-mieru.srptokyo.com/
お問い合わせ/サンライズプロモーション東京 0570-00-3337(平日 12:00-15:00)

Photos:Erina Fujiwara Styling:Mayumi Sugiyama Hair&Make-up:Miho Tokiwa Interview & Text:Kyoko Tokunaga Edit:Chiho Inoue

Profile

森山未來Mirai Moriyama 1984年、兵庫県出身。5歳からジャズダンス、6歳からタップダンス、8歳からクラシックバレエとストリートダンスを学び、99年に「ボーイズ・タイム」(パルコ劇場他)で本格的に舞台デビュー。その後、多数の舞台経験を重ね、映画、舞台、テレビドラマなどと活躍の場を広げる。2013年には文化庁文化交流使としてイスラエルのテルアビブに1年間滞在し、インバル・ピント&アヴシャロム・ポラック ダンスカンパニーを拠点にヨーロッパ諸国で活動。近作に初監督作品ショートフィルム『Delivery Health』(9月20日公開)、武正晴監督作品映画『UNDERDOG』(11月27日公開)などがある。miraimoriyama.com/

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