高良健吾インタビュー「映画でなければ、体験できないことがある」 | Numero TOKYO
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高良健吾インタビュー「映画でなければ、体験できないことがある」

盲目の愛なのか、暴走した狂気なのか━━。誰からも名前すら呼んでもらえない孤独な人生を送ってきた男が、人生で唯一、幸せだったあの感覚にもう一度触れるために“彼女”を探す。映画『アンダー・ユア・ベッド』で高良健吾は、暴走した男の姿をピュアに、魅力的に演じきった。難しい役柄に向き合う姿勢、撮影中のエピソードに彼の人柄がにじみ出る。

地方ロケでは、息抜きも兼ねた散歩をするのが好き

──映画『アンダー・ユア・ベッド』の撮影期間は2週間。オール福島ロケだったそうですね。

「僕、地方が好きなので、福島ロケと聞いて嬉しかったですし、特に今回の作品は重たいシーンも多く特殊な役柄でもあったので、撮影期間中、作品にどっぷりつかれてありがたかったです。やっぱり、撮影が終わってから自宅に帰って、洗い物や洗濯、掃除をしたりという日常の環境から離れて、自分のものに囲まれていない、ある種、非日常の中で作品と向き合えるというのは、役者にとって大きなことかな、と思います」

──地方ロケでは撮影と向き合う時間が長い分、煮詰まったりしませんか?

「もちろん、煮詰まる瞬間はあるんですけど、地方だからこそ気分転換しやすいというか。知らない土地に短い時間でも暮らしている、というのがすでに気分転換になっている部分がありますし、空いた時間に散歩をして初めての道を歩いて、知らない風景を目にするだけで、十分息抜きになります。僕は小さな頃、転勤族の父についていろんな土地へ行ったので、見知らぬ場所をうろうろするのが好きなのかもしれません」

──今回、地方ロケならでは、というエピソードはありましたか?

「これまでの作品では、キャストとスタッフが別々のホテルに宿泊することが多かったんですけど、今回は、全員が同じホテルでした。なので、撮影が終わったらみんなでホテルに帰って、そこから一緒にご飯を食べに行ったり、朝もみんなで出勤したり。そういう、合宿のようなノリを味わえたのは楽しかったです。泊まったのは、そんなに大きなホテルではなかったのですが、僕らが到着した日はホテルの屋上や上空にカラスが100羽くらいいて、その数の多さにちょっとビビっていたんですけど(笑)。数日したら、撮影隊の一つの作品に向かっていく熱気でホテル全体が活気づいたのか、カラスの姿を見なくなったんですよ。なんか、そういうエネルギーって伝わるんだなって、貴重な体験をさせてもらいました」

──映画では、彼女に固執していく狂気が描かれ、バイオレンスシーンもありましたが、現場の雰囲気は明るそうですね。

「すごく、いい現場でした。年齢的に若い人が多くて熱量もありましたし、笑い合う時間もあれば、深刻なシーンの前には集中できる空気が自然とそこにあったりとか、みんなで現場の雰囲気を作ってくださったので、役者として本当に幸せな時間を過ごさせてもらいました。僕は普段、現場に入ったらまずは自分の準備してきたものを一回演じて、それに対して演出してもらうというやり方が多かったのですが、今回は、今日撮影するシーンについて毎朝のように監督と話し合いました。振り返ってみるとあの時間は、監督の何かを自分に分けてくれるというのか、これまで自分の中になかったものを得たというか。素直に意見をぶつけ合いながら作品を作っていけたことも含めて、これまで役者を続けてきたことへのご褒美のような、そんな感覚がありました」

純粋と狂気は表裏一体。まっすぐな想いは応援したくなる

──高良さんの演じた三井という男の一途すぎるほどの愛を、どのように受け止めていますか?

「めちゃくちゃ歪んだ愛ではありますけど、演じていく中で、どんどん三井のことが好きになっていって、三井が報われたらいいなという気持ちになりました。ただ、僕は演者だからそう思うのであって、三井の想いはあまりにも真っ直ぐすぎるので、多くの人の共感を得るのは難しいと思います。でも、それでいいと思うんです。映画の中の登場人物に共感できるかどうかはさほど重要ではなくて、その人を理解できるかどうか。ここが、大切だと思っているんです。そういう意味では、一歩間違えれば自分も三井のようになってしまうかもしれないっていう感覚は誰の中にもあると思うので、彼の愛の形を理解はしてあげられるんじゃないかな、と思います」

──彼女の部屋を覗き、家にまで入り込む。三井のしていることは、愛ではあるけど、罪でもありますよね。

「そこは本当に難しいところで、罪イコール悪かというと、単純にそうとも言い切れないじゃないですか。罪は犯していても悪人じゃない人もいれば、法には触れなくても悪い人もいるわけで。三井のように純粋と狂気が表裏一体になっていると、純粋すぎるほどまっすぐな想いだけをすくいあげれば、応援してあげたくもなりますしね。過去の点でしかない一瞬の幸福感が、ずーっと三井くんを支えているというのも、なんか、すごく可愛いじゃないですか」

──暴力的なシーンも多いですが、観るときの心構えなどアドバイスをいただけますか。

「描写は、やっぱりきついので、そこは覚悟して観てほしいですね。ただ、少しトラウマになってしまうような映画があって、僕はいいと思っているんです。映画だからこそ体験できること、その体験からしか伝わらないことが、絶対にあると思うんです。少し傷つくことも含めて、映画という体験をしていただければ、と思います」

──高良さんご自身は、試写をご覧になってどんな感想を持たれましたか?

「嬉しかったのが、僕、ちょっと笑えたんですよね。自分が演じたのに、三井くんの純粋すぎて滑稽な姿に、『おいおい(笑)』ってツッコミを入れちゃうような感じで……、って、あれ? 僕が演じたからそうなったのかな(笑)。結末はハッピーエンドと言えるかどうか、観る人によって受け止め方はいろいろでしょうし、映画だからそれでいいと思うんですけど、僕としては、『生きてるね! 三井くん!』みたいに、ポジティブに受け止めた部分もありました」

──三井はあのときの“幸福感”を追い求めていましたが、高良さんにとって幸せな瞬間というのは、どんなときですか?

「些細なことも含めたら、たくさんありますね。現場の雰囲気がいいと、それだけで幸せですし、その幸せな気持ちのまま帰る車の中で『あぁ〜、いい日だったなぁ』って、幸せをさらにかみしめたり(笑)。今回の作品で言えば、若いスタッフの方たちと一緒に年を重ねて、またいろんな作品で出会っていくのかなと考えると、それもまた幸せな気持ちになります」

──いい現場になるように、ゲン担ぎなどされますか?

「それも、たくさんあります(笑)。一つあげるとしたら、クランクインの前日とか、特別にがんばらなきゃいけない日の前日は、お風呂に塩を入れてつかる、とかですかね」

──最後に、昨年30代を迎えましたが、これからの役者・高良健吾について教えてください。

「この作品は30代最初の年に撮影しましたし、昨年から今年にかけては、いろんな役をやらせてもらいました。10代で仕事をはじめたばかりの頃は、三井のように陰のある役が多くて、当時は、役と自分の距離感が近すぎて、自分の問題にしすぎてしまっていたところがあったように思います。年月を経て、役との距離感も測れるようになってきましたし、役としてそこに居る、ということが少しはできるようになってきたのかなと感じています。これからも、変わっていかなければならない部分、変わってはいけない部分をブレずにしっかり見極めながら、目指す役者像に近づいていけたらと思っています」

シャツ ¥42,000 パンツ ¥38,000/ETHOSENS(ETHOSENS of whitesauce 03-6809-0470)

 

Photos: Kanta Matsubayashi Styling: Shinya Watanabe(Koa Hole) Hair & Makeup: Rika Takakuwa(Takeshita Hompo) Interview & Text: Yuki Imatomi Edit: Yukiko Shinto

Profile

高良健吾Kengo Kora 1987年11月12日、熊本県生まれ。2006年、『ハリヨの夏』で映画初出演。『蛇にピアス』(08)、『ソラニン』(10)をはじめさまざまな役を演じる。2012年『軽蔑』で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。2013年『苦役列車』で日本アカデミー賞優秀助演男優賞。2014年には『横道世之介』でブルーリボン賞主演男優賞を受賞。2019年は『人間失格 太宰治と3人の女たち』(9月13日公開)、『葬式の名人』(9月20日公開)、『カツベン!』(12月23日公開)など話題作が待機している。

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