幸福を呼びこむ、張子の小鳥|私たちのモノ語り #009 | Numero TOKYO
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幸福を呼びこむ、張子の小鳥|私たちのモノ語り #009

着たいものを好きに着ればいいと言われても、ファッションは似合う似合わない、場にふさわしいかどうかなど外的要素もあり、100%自分全開にはできない。そんなジレンマに悩まされている人もいることでしょう。

ここにも一人。好きと似合うの乖離に長らく悩まされてきたものがおります。10日に1回くらいは欲してしまう、愛らしいファンタジーなテイスト。ここしばらくはハイブランドでもZ世代を意識したユニークなデザインが多く登場していますが、一見真っ当そうな大人が着こなすのはなかなかのハードルです。万が一、涼しい顔で着ていたとしてもつくった人も想定外でしょうし、それを見かけた人にも迷惑(笑)……似合う人にぜひ着ていただきたい! 例えば、先日ロエベの展示会で見かけたメンズのTシャツとか。



そういうトボけた可愛さへの愛は、家のなかの置き物に注いでいます。その一つがこの鳥のオブジェ。くすんだピンクに味のある黒と黄色のペイント、特徴的な長いくちばしと尾、手仕事を感じるデコボコした表面……見るだけでなんとも和む佇まい。鳥の種類は雀なのですが、リアルな雀よりちょっと大きいくらいのサイズ感です。



これは「仙台張子 すずめ」という民芸玩具で、藩政時代のからの縁起物、赤じゃない青い「松川だるま」をつくっている仙台の本郷だるま屋によるもの。なんでもこの青だるまの制作は飢饉が起きた際に、武士の内職として始まったのだとか。ここでつくられている雀の張子は、手張りの和紙でできているのですごく軽いんです。仙台・伊達家の家紋が「竹に雀」ということからつくられたもので、幸運を運ぶ鳥として知られています。

東京国立近代美術館で行われていた「民藝の100年」展がファッション周りの人々の間でも盛況だったように、今、工芸、民芸がブーム。先日もTVでマツコさんが赤ベコを紹介していたりと、コロナ前には忘れ去られそうになっていた懐かしさのある民芸が気になるこの頃です。



家での生活が長引くなかでなんだか心を柔らかくしてくれるし、小さなコーナーにこのコの存在を確認するだけでほっこりします。というわけで、着るには似合わない愛らしいテイストへの思いを、こんな小さきものにのせて過ごしています。

年間に数羽しかつくられないので、もしどこかで手に入れられることができたらラッキーです。最後にこの鳥、推しアーティストの仙台でのライブに出かけたとき出合ったことも、個人的には価値が爆上がりしています。

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Profile

古泉洋子Hiroko Koizumi コントリビューティング・シニア・ファッション・エディター。『Harper's BAZAAR』『ELLE Japon』などのモード誌から女性誌、富裕層向け雑誌まで幅広い媒体での編集経験を持つ。『NumeroTOKYO』には2017年秋よりファッション・エディトリアル・ディレクターとして参加した後、2020年4月からフリーランスとしての個人発信を強め、本誌ではファッションを読み解く連載「読むモード」を寄稿。広告のファッションヴィジュアルのディレクションも行う。著書に『この服でもう一度輝く』(講談社)など。イタリアと育った街、金沢をこよなく愛する。
Instagram: @hiroko_giovanna_koizumi

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