【Editor’s Letter】モノクロームの世界観は、ZEN的発想に通じますね。 | Numero TOKYO
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【Editor’s Letter】モノクロームの世界観は、ZEN的発想に通じますね。

2024年3月28日(木)発売の『ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)』2024年5月号に寄せて。編集長・田中杏子からのエディターズレター。

いままで「黒」を幾度となく特集してきました。「Black Rose」のテーマで2023-24AWコレクションを発表した川久保玲さんへのインタビューが叶った「だから、黒」(161号)。こちらは記憶に新しいです。さかのぼれば18年に「心を動かす黒」(122号)も特集しました。このときは「#MeeToo」運動が浮上したのちの第75回ゴールデングローブ賞の授賞式に女性がみな黒いドレスで出席した姿が印象的で「物言う黒」をテーマにしました。黒の解釈はその時々で異なりますが、今号は黒ではなく「白、黒、そして白x黒」に焦点を当てます。

コレクションでは白一色、黒一色のワントーンスタイルも多く提案されていましたが、それに合わせて白x黒ルックの登場回数にも驚かされていました。白と黒は、それだけで高潔な印象を放ちます。ユニフォームの配色に近いからでしょうか。なぜモノトーンの世界に惹かれるのか。その潔さの本質を探りました。

モノトーンは色鮮やかなパターンよりも情報量が少なく、それだけに陰影の深みやシェードの濃淡、色調に目がいきます。白と黒の割合の違いも印象を変えます。情報を削ぎ落とした先に存在する「白と黒」にこそ豊かな想像の世界が広がっているといえるのではないでしょうか。

モノクロで表現された私の心の一作『ラ・ジュテ』(1962年仏)。28分と短いけれど、全編モノクロ写真の連投で物語が進んでいきます。私にとって表現のあり方を変えてくれた作品です。
モノクロで表現された私の心の一作『ラ・ジュテ』(1962年仏)。28分と短いけれど、全編モノクロ写真の連投で物語が進んでいきます。私にとって表現のあり方を変えてくれた作品です。

「モノトーンの表現者たち」(本誌 p.108〜)では6名の作家が作り上げたモノクロームの作品を紹介しています。作品を白黒で制作することで、自身と向き合っているようです。相反する色、拮抗する色で無から有を生み出す作業の裏側では、アイデンティティの模索に通ずるのではと感じてしまいます。(この企画で紹介する作品のうち数点と作家のエディション作品が、Numero CLOSET内で販売されますので、ぜひのぞいてみてください。) 「21世紀のモノクロ映画考」(本誌 p.114〜)では、色を単色にすることでさまざまな効果が狙われているのがわかります。この特集で知ったのですが、ご存じ第92回米国アカデミー賞4冠を達成するなど多くの受賞歴を誇る『パラサイト 半地下の家族』や第88回米国アカデミー賞10部門でノミネートされた『マッドマックス 怒りのデス・ロード』などの大作が、カラーで公開されたのちにモノクロ映画でも公開されていました。これは何を意味しているのでしょうか。特集に寄稿くださった映画文筆家の児玉美月さんによると、モノクロにすることで新たな物語や自分だけのそれを投影でき、さらには世界の見え方さえも一変させる力があると分析されています。無声映画時代のチャールズ・チャップリンが「音を得たとき、ひとつの表現手段を失い、色を得たときにもうひとつ失った」と言ったそうですが、自由なものよりも不自由なものの中にこそ、表現の縛りによる精神性の豊かさがほとばしるようです。まさにZEN的発想があるのかなと考えたりしています。

モノクロームの春夏コレクションがZEN的発想に直結しているかどうかは別ですが、白、黒、白x黒のスタイルで登場するルックは“素の自分で勝負しよう”としているようにも見えてきます。皆さまの目にはどのように映ったでしょうか。

2024SSコレクションに登場した白、黒、白x黒ルック。
〈上段左から〉 Christian Dior、Sacai、Saint Laurent 〈中段左から〉Balenciaga、Stella McCartney、Chloé 〈中段左から〉Maison Margiela、Louis Vuitton

さて、この号から新しく短歌連載「恋」(本誌 p.118〜)が始まります。注目の歌人、染野太朗さんとくどうれいんさんの“恋”にまつわるそれぞれの思いが、31音の文字に乗って5首ずつ詠まれていきます。想像力を刺激してやまないシチュエーションが頭をよぎります。短歌も、ミニマルな言葉に乗せて詠んでいくのですから、確実にモノクロームの世界が広がっていますね。

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Profile

田中杏子Ako Tanaka 編集長。ミラノに渡りファッションを学んだ後、雑誌や広告に携わる。帰国後はフリーのスタイリストとして『ELLE japon』『流行通信』などで編集、スタイリングに従事し『VOGUE JAPAN』の創刊メンバーとしてプロジェクトの立ち上げに参加。紙面でのスタイリングのほか広告キャンペーンのファッション・ディレクター、TV番組への出演など活動の幅を広げる。2005年『Numéro TOKYO』編集長に就任。著書に『AKO’S FASHION BOOK』(KKベストセラーズ社)がある。
Twitter: @akotanaka Instagram: @akoakotanaka

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