大友良英が導く!「札幌国際芸術祭2017」現地レポート(後編) | Numero TOKYO - Part 3
Culture / Post

大友良英が導く!
「札幌国際芸術祭2017」現地レポート(後編)

日本全国、地域発のアートイベントが花盛り。「音楽フェスもいいけどアートもね!」的な楽しみはもう常識。いま話題の『札幌国際芸術祭2017』、雄大な自然を経て札幌の歓楽街へとたどり着いた前編に続いて、現地レポートをお届けします。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA
OLYMPUS DIGITAL CAMERA
『札幌デザイン開拓使 札幌発のグラフィックデザイン〜栗谷川健一から初音ミクまで』(JRタワープラニスホール) 予測不可能。 “ライブな芸術祭”の行方を目撃せよ このほか、北海道大学総合博物館では詩人の吉増剛造が石狩川河口を起点として紡いだ代表作『石狩シーツ』を中心とする展示、札幌駅から直結する商業施設エスタ内のJRタワープラニスホールでは、札幌にまつわるグラフィックデザインを明治初期の地図から初音ミクに至るまで一挙に俯瞰する企画も。 札幌市民の足として知られる路面電車「札幌市電」車内で行われるノイズミュージックのライブイベントや、指輪ホテルと市民の手で市電とその周辺地域で制作・上演される演劇なども行われ、加えて「我こそは」と手を挙げたアーティストや市民による自主企画が続々と立ち上がるなど、その全貌を把握することはもはや大友本人にも難しいという。
OLYMPUS DIGITAL CAMERA
OLYMPUS DIGITAL CAMERA
札幌の玄関口、JR札幌駅のコンコースに展示された『大風呂敷プロジェクト』のフラッグ。大友良英が東日本大震災後に立ち上げた『プロジェクトFUKUSHIMA!』をきっかけとするプロジェクトで、札幌でも市民自らが古い風呂敷を縫い合わせて“大風呂敷”をつくり、各所で展示中 「ゲストディレクター就任の依頼を受けて、『芸術祭ってそもそも何だ?』と考えました。まわりの人に聞いても意見はバラバラで、答えはない。それなら、この問いを投げかけることによって現れてくるものが答えになるのではないか。アートを町おこしに利用することに対する批判も聞きますが、僕自身はわけのわからないものが地域に根付く方法として大いに評価したい。そもそもアートの目的は経済効果などの“効能”ではなく、そこから“未来が見えること”だと思います。 その上で、アートの中だけで収まらずに、多種多様な人々とともに未来について考えることが重要なんです。この試みをトライ&エラーとして、札幌の人たちが『この芸術祭があったから面白い町になった』と言えるようにしたいですね。そのための“生きた芸術祭”をつくるべく、絶えずさまざまなゲリラ企画を仕掛けているわけです。だからこそ、開幕したからといって、僕の役割は終わりにはなりません。何といっても、僕自身がいちばんのゲリラになるんですから」(大友良英談)
OLYMPUS DIGITAL CAMERA
OLYMPUS DIGITAL CAMERA
前回(2014年)の出展作品、島袋道浩『一石を投じる』。北海道庁赤れんが庁舎前の北3条広場から札幌市資料館前へ移設され、展示されている いうまでもなく、ここで紹介した流れはひとつのモデルに過ぎない。来訪者自身が点と点を線でつなぎ、芸術祭という名の星座を描いていくと考えるなら、その星座は関わった人の数だけ、異なるパターンを浮かび上がらせることになる。この芸術祭はいわば、運営やアーティストだけでなく、その地域の人々、さらにはそこを訪れる人々によってつくられ、刻一刻とその様相を変化させながら共鳴する巨大な星座=アンサンブルを奏でていくという、ライブ極まる57日間ぶっ通しの実験なのだ。 2013年、札幌市はユネスコ創造都市ネットワークに「メディアアーツ都市」として加盟し、翌年には『札幌国際芸術祭2014』が実現。地域開催の芸術祭の常として、公金を投入する意義や具体的な効果に疑問を呈する声が多数挙がった。一方、その状況を同じ市民として「アートに対するリテラシーが低い」「メディアアーツ都市としてのヴィジョンがない」と評する声も耳にした。 そして今回も、前回のテーマ「都市と自然」からの接続性や方向修正を問う意見が散見される。しかし大友の試みが、立場ごとに相容れないそれら多様な見方を「芸術祭ってなんだ?」という逆ベクトルの問いかけによって包み込みつつ、その時空間上に同時多発的に生成される「そもそもアートってなんだ?」「文化振興ってなんだ?」「地方創生ってなんだ?」「朝令暮改ってなんだ?」「市民参加ってなんだ?」「私たちの未来ってなんだ?」「なんだとはなんだ?」という無数の“なんだなんだ?”をもってして、この地に堆積した集合無意識の地下水脈を気泡のようにふつふつと沸き立たせている状況は紛れもない事実だろう。 人間は意志の力でことをなす。大地を開拓し、繁栄とともに軋轢を起こし、さまざまな問題を引き起こしながら、自らの手で解決を図ろうともしてきたのだ。その意味において、お定まりの予定調和には答えはない。アーティストだけでなく来訪者自身も“まれ人”となって、有志やその他の市民とともに札幌の文化土壌を巨大なぬか床のように掻き回す、北海道=でっかいどうの一大「芸術祭ってなんだ?」祭り。“未来のヴィジョンを開拓する”このライブな躍動をぜひ、肌で感じてもらいたい。 『札幌国際芸術祭2017 芸術祭ってなんだ? —ガラクタの星座たちー』 会期/2017年8月6日(日)~10月1日(日) 会場/モエレ沼公園、札幌芸術の森、札幌市立大学、札幌大通地下ギャラリー500m美術館、札幌市円山動物園ほか パスポート/一般¥2,200、 市民、道民¥1,800 ほか(個別会場チケットもあり/中学生以下無料) 休館日/会場やプログラムによる お問い合わせ/札幌国際芸術祭実行委員会事務局 TEL/011-211-2314 URL/siaf.jp 札幌での宿泊先としてぜひオススメしたいのが、今年2月にオープンした「UNWIND HOTEL & BAR」こちらの記事もぜひチェックを!

他のアートフェスもチェックする

Text:Keita Fukasawa

Profile

深沢慶太Keita Fukasawa コントリビューティング・エディターほか、フリー編集者、ライターとしても活躍。『STUDIO VOICE』編集部を経てフリーに。『Numero TOKYO』創刊より編集に参加。雑誌や書籍、Webマガジンなどの編集執筆、企業企画のコピーライティングやブランディングにも携わる。編集を手がけた書籍に、田名網敬一、篠原有司男ほかアーティストの作品集やインタビュー集『記憶に残るブック&マガジン』(BNN)などがある。『Numéro TOKYO』では、アート/デザイン/カルチャー分野の記事を担当。

Magazine

MAY 2024 N°176

2024.3.28 発売

Black&White

白と黒

オンライン書店で購入する