小室哲哉によるオンライントーク番組「Ground TK」第一回ゲスト:河瀨直美【後編】 | Numero TOKYO
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小室哲哉によるオンライントーク番組「Ground TK」第一回ゲスト:河瀨直美【後編】

小室哲哉さんと第一線で活躍するクリエイターの対談番組「Ground TK」第一回目レポートの後編です。ゲストの河瀨直美さん監督作『朝が来る』記者発表のあと、楽屋裏でお二人に話を聞いてみました。

河瀨直美は名インタビュアー? 「Ground TK」第一回を振り返って

──いま河瀨さんが養子縁組をテーマに扱うことについて。 河瀨「もともと辻村深月さんの原作があったのを映画化しました。私も生まれた時にはすでに両親が離婚していたので、遠い親戚でしたが子どものいない老夫婦に育てられました。なので両親と暮らしたことがないんです。養子縁組は自分ごとになっていたので、この原作に出会い、このテーマを扱うのは私の中では必然でした。養子縁組をされた私の立場をなかなか表には出してこかったのですが、この映画はそのあたりを明確に描いています」

──なら国際映画祭を行われましたよね。

河瀨「大仏様の前にレッドカーペットを敷いて、まずはそこを歩き、参拝してからのオープニングはとても荘厳でした。地域や生まれた場所、居場所が作家にとっては大切であるとおもっています。今回の映画は人と人との絆はもとより、特別養子縁組や不妊治療なども扱っています。頑張れば頑張るほど自分はダメなんじゃないか? と感じる女性がいる中、その暗い部分だけに焦点をあてると“見たい”映画になりづらいと思っています。そうなるのは良くないので、誰しもがなにか欠けた部分があるけれど、そこから先にきちんとつながり合える関係性を時間をかけて作っていくことが大切だと伝えたくて、この映画になりました」

──今回の小室さんとのセッションについて。

河瀨「先日、奈良にいらした際に初めてお会いしました。もちろん小室さんのことは存じ上げていましたが」

レスリー「小室さんの対談の第一回目のゲストは河瀨直美さんがいいなと思ったんです。映画の記者発表も兼ねてやるのがいいなと」

河瀨「小室さんって音楽がないとダメなんだと、最初にお会いした際に思いました。表現者はどこか欠けている。そこを自ら埋める作業が芸術であり表現だと思います。それが小室さんには確実にある。ひとりでもふたりでも喜んでくれる人がいれば自分の役割を見出せる。どこかでそういう部分を感じることができた。本質的なところはおこがましいのですが、近いところがあるのかなと思いました」

──河瀨さんの真横で弾いていらっしゃいましたがどうでしたか?

小室「今までにない緊張感がありました。自分の内面を引き出されている感じがしたというか」

──河瀨さんは名インタビュアーでしたね。

河瀨「とんでもございません。聞きたいことを素直に聞かせていただきました(笑)」

河瀨「小室さんには引退劇や90年代のイメージがあり、そういうところを乗り越え、あらたなものと融合して、世界へ飛び出されるカタチを周りがきちんと作って支えていくべきだと思うんです。風評や人の噂は、上澄みをチラッと知ってる人があることないこと言っちゃうので、そういう部分はどうしてもあるけれど、本質的に創りたいという気持ちだけなんです。それをどれだけの人に伝えられるかだと思います」

──河瀨さんの横にいて居心地が良かったのではないですか?

小室「基本的には上手ですよね。人の中に自然と入り込んでいらっしゃる能力がありますよね」

──河瀨さんは相手の方によって変わりますよね。ある番組で、俳優の虹郎くんを追い込んでいらっしゃる姿を見ました。

河瀨「はい。ビンタもしてました」

小室「うわ〜〜、怖いな〜!」

──愛をもって追い込んでいらっしゃる姿を見て、容赦ないから本物って怖い、だから人の心をえぐるものを作られる方なんだと感じました。今日の小室さんの音色もまた泣かせましたね。

小室「基本は孤独な作業です。仲間やチームがいるし、一人じゃできないけれど、でも基本はひとりで考えて、一人で決断をして、どこかでよしと思わない限り作品は終わらないんです。なので孤独な作業です。捨てることを決めること。捨てていく作業はとても大事なことなんです」

河瀨「何を捨てたか? なんです。残ったものはみなに伝わるけど、捨てたものは自分たちの中にしか残らない。そこがとても大事です」

Photo:Leslie Kee Styling:Dan Hair:Koki Noguchi Make-up:Mariko Suzuki
Photo:Leslie Kee Styling:Dan Hair:Koki Noguchi Make-up:Mariko Suzuki

──ひとりで初めて、ひとりで決めて、ひとりで終わらせる。孤独な作業ですよね。

小室「河瀨さんの、はいおしまい。できあがり!と言ったあと、夜中に編集室に一人でしのび込んでやり直す。達成感をえるために納得するまでやり続ける。その気持ちがとてもよくわかります。心境という意味では近いものがあるので。河瀨さんは、特に細かい作り方をされる映像作家のひとりですよね。めちゃくちゃ細かいです」

河瀨「わかっていただけると嬉しいですね」

──今後Ground TK、どうですか?

小室「全く自信がないです(笑)」

──初回は河瀨さんで救われましたね。見てると、どちらがゲスト? って感じなぐらい河瀨さんが上手でしたね。

河瀨「小室さん頑張ってください」

──『朝が来る』。人の心を掴むものでした。今後、コラボレーションがあるといいですね。

河瀨「おこがましすぎて言えなかったですが・・・実は詩を書いているんです。思いを紡いでいますので、送りつけますから(笑)」

※Numero.jpでは次回の「Ground TK」配信もレポート予定です。お楽しみに!

Profile

田中杏子Ako Tanaka 編集長。ミラノに渡りファッションを学んだ後、雑誌や広告に携わる。帰国後はフリーのスタイリストとして『ELLE japon』『流行通信』などで編集、スタイリングに従事し『VOGUE JAPAN』の創刊メンバーとしてプロジェクトの立ち上げに参加。紙面でのスタイリングのほか広告キャンペーンのファッション・ディレクター、TV番組への出演など活動の幅を広げる。2005年『Numéro TOKYO』編集長に就任。著書に『AKO’S FASHION BOOK』(KKベストセラーズ社)がある。
Twitter: @akotanaka Instagram: @akoakotanaka

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