
世界の優れた芸術家に贈られる「高松宮殿下記念世界文化賞」の第37回受賞者が、9月8日(火)に発表された。
今年の受賞者には、絵画部門にジェニー・ホルツァー(アメリカ)、彫刻部門にアンディ・ゴールズワージー(イギリス)、建築部門にダニエル・リベスキンド(アメリカ)、音楽部門にヘルベルト・ブロムシュテット(スウェーデン)、演劇・映像部門にケイト・ブランシェット(オーストラリア)の5名が名を連ねた。また、将来を担う若手の支援を目的とした「若手芸術家奨励制度」の対象団体にはラ・スルス・ガルースト協会(フランス)が選出。
授賞式は、10月28日(水)に東京・明治記念館にて開催予定。各受賞者には顕彰メダルと感謝状、賞金1,500万円が授与される。なお、若手芸術家奨励制度の授与式は、9月8日(火)にパリで開催され、同団体に奨励金500万円が贈られる。
【絵画部門】ジェニー・ホルツァー|言葉の力で社会を見つめ続ける

米国の現代アートシーンを代表するコンセプチュアル・アーティストの一人で、電光掲示板やLED(発光ダイオード)、ビルボードなどの媒体を使い、テキスト(言葉)を用いたアート作品で知られる。1970年代にNY・ホイットニー美術館のインディペンデント・スタディ・プログラムに参加し、指定された本から学んだ思想を短文に要約する過程から、初期の代表作《Truisms(自明の理 )》(1977~79年)が誕生した。1990年、ヴェネツィア・ビエンナーレでアメリカ代表として女性で初めて個展を開催し、最高賞の金獅子賞を受賞。2001年、自身でテキストを書くことをやめ、詩人や政治家など他者のテキストを使うようになる。

2005年以降、膨大なアーカイブから黒塗りされた機密文書を探し出して表現する「レダクション・ペインティングス」シリーズを制作。また、2018年に米フロリダ州パークランドの高校で起きた銃乱射事件後は、銃暴力反対のメッセージを伝えるため、LEDトラックを走らせた。2016年にフランス芸術文化勲章オフィシエ受章。2024年、米タイム誌で「世界で最も影響力のある100人 」に選出された。日本では1991年、クリストとジャンヌ=クロードによる《アンブレラ・プロジェクト》に参加。1994年、日本初の個展『ジェニー・ホルツァー[ことばの森で]』(水戸芸術館現代美術ギャラリー)を開催している。2026年10月から、オルセー美術館にて展覧会『J’ai vu(私は見た)』が開催予定。
【彫刻部門】アンディ・ゴールズワージー|自然と向き合い、変化を受け入れる

自然から得た素材を用い、作品が置かれる場の持つ特性を生かして制作する「ランド・アート」の第一人者。スコットランド南西部の村、ペンポントに住まいを構え、その豊かな自然の中で制作を続けてきた。これまで北極圏からタスマニアに至る世界各地で、採集した葉、枝、石、雪、さらに日光や雨などの気象条件や自身の身体も利用し、野外インスタレーションを展開。色づいた葉を川面に浮かべたり、枯れ枝を組み上げたりしてつくられる作品は、完成と同時に消えゆく儚いもの。制作現場に残されたそれらを写真に収めたあとは、自然とともに朽ちるに任せるのが、制作スタイルとなっている。

モニュメンタルなプロジェクトも手掛け、NYのストーム・キング・アートセンターを約700mにわたって貫く石積みの壁、《ストーム・キング・ウォール》(1997-98年)はその代表作。近年は、ヨークシャーの国立公園内の歴史的建造物を再建する《ハンギング・ストーンズ》を約10年かけて完成させた。作品の数々は、スコットランド国立美術館やポリ・アート美術館(フィンランド)、メトロポリタン美術館、ソフィア王妃芸術センターなど各国の主要美術館での展覧会で紹介されてきた。2025年には、大規模回顧展『アンディ・ゴールズワージー | 50年』を、ロイヤル・スコティッシュ・アカデミーで開催。2000年に、大英帝国勲章(OBE)を受章している。
【建築部門】ダニエル・リベスキンド|建築に記憶を刻み、歴史と未来をつなぐ

建築を通じて文化的記憶を喚起する卓越した表現力で知られる、建築・都市デザインの国際的な第一人者。ホロコースト生存者の両親のもとポーランドのシェルターで生まれた。1959年に渡米して建築を学んだ後は、思考実験的なプロジェクトに熱中し、長年「建てない建築家」として名を馳せる。1989年にベルリン・ユダヤ博物館のコンペを勝ち取り、実作への転機を迎える。「形態は機能に従う」のではなく「形態は記憶に従う」という思想を掲げ、伝統的な直角の規範に反抗して無数の角度を用いることで、人々に世界を別の視点から見るための自由を与えてきた。

代表作に『フェリックス・ヌスバウム・ハウス』(1998年)の「出口のない空間」や、『ベルリン・ユダヤ博物館』(2001年)の造形の中心に配された何も展示できない「ヴォイド(空虚)」など。2003年には、米ニューヨーク同時多発テロ跡地(グラウンド・ゼロ)の再開発コンペでマスタープランを勝ち取る。ェネツィア・ビエンナーレ金獅子賞(1985年)、ドイツ建築賞(1999年)、ゲーテ・メダル(2000年)、ヒロシマ賞(2001年)、ドレスデン平和賞(2023年)を受賞。フランス芸術文化勲章シュヴァリエも受章している。現在、アインシュタインの生誕地である南ドイツ・ウルム市で『アルベルト・アインシュタイン・ディスカバリー・センター』のプロジェクトが進行中。
【音楽部門】ヘルベルト・ブロムシュテット|楽団との対話から、最高峰の音楽を引き出す

現代のクラシック音楽界において、最も尊敬を集める指揮者の一人。作曲家が譜面に書き込んだ意図を緻密に具現化し、重厚だが透明で引き締まった音を生み出す。「対話型」の指揮で、楽団員との信頼関係に基づく協働によって最高峰の演奏を引き出すスタイルで知られる。ストックホルム王立音楽院およびウプサラ大学で学んだ後、ニューヨークのジュリアード音楽院でレナード・バーンスタインに指揮を学び、さらにイーゴリ・マルケヴィチらの薫陶を受けた。1954年、プロの指揮者としてデビュー。以降、北欧の名門オーケストラの指揮者を歴任。1975年から10年間、当時の東ドイツの名門オーケストラ、シュターツカペレ・ドレスデン(SSD)で首席指揮者を務め、国際的名声を高めた。

1985年にアメリカのサンフランシスコ交響楽団の音楽監督に就任すると、その実力を世界トップクラスへと引き上げた。当時の演奏と録音は、高い完成度が世界的に評価され、米グラミー賞を複数回受賞した。その後も、ドイツのライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団のカペルマイスター(音楽監督)などを歴任。日本との縁も深く、1981年の初共演以来、NHK交響楽団とは45年にわたる信頼関係を築き、同楽団の「桂冠名誉指揮者」を務めている。東日本大震災の復興支援では、2014年に、チャリティーコンサートとしてNHK交響楽団の定期公演で指揮を執った。2018年に、外国人叙勲として「旭日中綬章」を受章。2022年、ドイツ連邦共和国功労勲章大功労十字星章を受章している。
【演劇・映像部門】ケイト・ブランシェット|演技と社会活動、両面で世界を動かす

オーストラリア出身でハリウッドでも活躍している国際的な俳優、プロデューサー。舞台で培った確かな演技力、さらには幅広い社会的活動で世界的に知られている。ーストラリア国立演劇学院を卒業後、早くから舞台俳優として注目され、1993年にシドニー劇場批評家協会賞の新人賞と最優秀女優賞をともに受賞。その後、活躍の場を映画にも広げ、『エリザベス』(1998年)のエリザベス一世役でゴールデングローブ賞主演女優賞などを受賞するとともに、アカデミー主演女優賞にもノミネートされ、評価を確立した。

出演作に『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズ(2001年〜)、『アビエイター』(2004年)、『アイム・ノット・ゼア』(2007年)、『ブルージャスミン』(2013年)、『キャロル』(2015年)、『TAR/ター』(2022年)など多数。一方で、ニューヨークのブロードウェーや、ロンドンのウエストエンドなど、世界の主要な劇場にも出演し、『The Present』(2017年)でトニー賞主演女優賞にノミネート。また、映画祭にも貢献し、カンヌやヴェネツィアの世界的な国際映画祭で審査委員長を歴任している。
社会的活動にも熱心に取り組み、世界の難民や移民、トランスジェンダー支援の映画基金を創設し、マイノリティーの創作活動を支援。UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の親善大使や、英国立劇場(ロイヤル・ナショナル・シアター)の理事の傍ら、オーストラリア野生生物保護協会を支援するなど自然保護活動にも尽力している。2012年、フランス芸術文化勲章シュバリエを受章。2017年、オーストラリア勲章で現在では最高位の「コンパニオン」に任命されている。教育界でも注目され、2026年6月、イギリスのオックスフォード大学の客員教授(現代演劇)に就任した。
【第29回 若手芸術家奨励制度】ラ・スルス・ガルースト協会|アートで子どもたちの創造性と自信を育む

フランスの現代美術家ジェラール・ガルースト氏と、その妻でインテリア・デザイナーのエリザベート・ガルースト氏によって1991年に設立。アートを通じた子供たちの支援と社会変革を目指して活動を続けている。活動の柱となるのは、第一線で活躍するプロのアーティストが講師を務めるワークショップ。対象となるのは、主に6歳から18歳までの繊細な時期の子供たち。学校の休暇中に平均20時間行われ、金曜の午後には保護者を招いて成果を発表する場も設けられている。提供されるプログラムは驚くほど多岐にわたり、デッサンや油彩、粘土細工といった伝統的な美術に留まらず、写真、映像制作、デジタル・イラストレーション、さらには演劇や執筆活動まで、現代芸術のあらゆる領域を網羅している。
現在、協会はフランス全土に10カ所の拠点を持ち、年間で約370件のプロジェクトを実施。約200名のプロのアーティストが関わり、1万人近い子供たちを支えている。
