ワインの世界では昔から女性たちが活躍しています。たとえば、今でも有名シャンパンの名称として名をのこすヴーヴ・クリコ。史上初の辛口シャンパンを生み出したマダム・ポメリー。二人とも19世紀の人物ですが、「女性は事業を持てない」時代に「ただし未亡人なら可」という抜け穴を使って、ワインの歴史に永遠に消えない名前を刻んでいます。
そして今、世界中のワイン畑や醸造所で、女性たちが大活躍しています。元ハリウッドスターから100歳を超える女傑、そして東京の住宅街でワインを造る女性まで。それぞれの信念と哲学を注ぎ込んで造られる「女性たちが造るワイン」の世界を、ワインブロガー・ヒマワインがご案内します。
AVALINE アヴァリン(キャメロン・ディアス
女優業は引退してしまいましたが、ワイン事業で成功を収めているのがキャメロン・ディアスです。
ファッションブランドCEOのキャサリン・パワーと共同で設立したワインブランド「アヴァリン」は、オーガニック栽培のブドウを使用し、「不必要な添加物はすべて排除する」というコンセプトを掲げて2020年にローンチ。ディアス自身の言葉を借りるなら、「食べるものや使うコスメの成分にはこだわるのに、なぜワインだけこだわらないの?」という、いかにも彼女らしい問いかけからブランドが生まれています。
このアヴァリンに限らず、セレブがワインを手がけるケースは近年増えており、カイリー・ミノーグはブランド立ち上げからわずか数年で累計1700万本を世界で販売。ドリュー・バリモアやサラ・ジェシカ・パーカーも自分の名前を冠したワインを展開しています。セレブたちがこぞってワインの世界に参入する背景には、「自分のライフスタイルを体現する飲み物」としてのワインへの関心の高まりがあるのかもしれません。
残念ながらアヴァリンは現在日本では手に入りませんが、アメリカ旅行の際のお土産にすると喜ばれそうな1本です。ちなみに、サラ・ジェシカ・パーカーが手掛ける「インヴィーヴォ×サラ・ジェシカ・パーカー ソーヴィニヨンブラン」はアマゾンで2,000円くらいで買えて、とてもおいしい1本です。
ASLINA WINES アスリナ・ワインズ(ンツィキ・ビエラ)

南アフリカ「アスリナ・ワインズ」の醸造家、ンツィキ・ビエラは、南アフリカ初の黒人女性醸造家です。
高校卒業後、家事労働者として働いていた彼女のもとに、ワインの醸造学で有名な大学の奨学金のチャンスが舞い込んできます。「ワインが好きだったから選んだわけじゃない。勉強したかったから選んだ。たまたまそれがワインだっただけ」と語るように、好きで進んだ道ではありませんでしたが、学べるチャンスを彼女は逃しませんでした。
授業は彼女が話せないアフリカーンス語で行われ、クラスでも黒人学生はほんの数人だけ。そんな環境を乗り越えて卒業したビエラは南アフリカ初の黒人女性醸造家となり、2009年には「ウーマン・ワインメーカー・オブ・ザ・イヤー」を受賞します。
現在は自身のブランド「アスリナ」を展開。ブランド名は彼女を育てた祖母の名前から取られています。黒人であり、女性であることに誇りを持ち、ワインを作り続けるツツィキ・ビエラのワイン。信念を持って行動する女性へのプレゼントにも良さそうですね。
CHÂTEAU GINKO シャトー・ジンコ(百合草梨紗)

ボルドーには5000軒以上の生産者がいるといわれますが、その地で日本人女性として初めて醸造家となったのが百合草梨紗さんです。
シャトー・ジンコの「ジンコ」は銀杏(いちょう)のこと。百合草さんは銀杏の木に深い愛着があり、お子さんが生まれた際には庭に銀杏の木を植樹したそう。醸造にはフランス農務省が認定するオーガニック認証(ABラベル)を取得し、化学肥料・農薬・除草剤を使わない自然農法を実施。「海外でゼロから夢を実現した日本人女性」という文脈でも語りたくなる1本です。実際、飲んでみてもとてもおいしいです。
DOMAINE LEROY ドメーヌ・ルロワ(ラルー・ビーズ=ルロワ)

「ブルゴーニュの女王」と呼ばれ、現在も現役で活躍するラルー・ビーズ=ルロワは、1932年生まれ。92歳にしてなお、ブルゴーニュ最高峰のワインを生み出し続けています。
1955年、23歳で父の商社を引き継いでビジネスを始め、その後世界最高のワインのひとつである「ロマネ・コンティ」の共同醸造者まで務めたラルー。1988年にはドメーヌ・ルロワを設立し、当時のブルゴーニュでは誰もやっていなかったビオディナミ農法(有機農法・自然農法の一種)を全面的に取り入れます。「月のリズムに従ってしか収穫しない」「剪定はしない」「ワインメーカーは雇わない」。
すべてが常識はずれとも思える考え方でしたが、今やブルゴーニュで最も権威ある造り手の一人として世界中から尊敬を集めているのが、ドメーヌ・ルロワのワインです。
ワインメーカーを雇わないないのは、ラルー・ビーズ=ルロワの天才的とも称される味覚あればこそ。その哲学が生み出すワインの価格はロマネ・コンティと並ぶ超高額で、世界の愛好家垂涎の的。人生で一度は味わってみたいワインのひとつです。
GLENELLY LADY MAY グレネリー・レディ・メイ(メイ・エレーヌ・ドゥ・ランクザン)

ドメーヌ・ルロワのラルー・ビーズ=ルロワとぜひ並べて語りたいのが、南アフリカ・ステレンボッシュのグレネリー・エステートを率いるメイ・エレーヌ・ドゥ・ランクザンです。
1925年生まれ。2025年に100歳を迎えたいまも愛するワインを生み出し続けています。ボルドーの名門ワイン家系に生まれ、格付け第二級シャトーである「シャトー・ピション・ロングヴィル・コンテス・ド・ラランド」を30年以上率いた彼女が、「もっとよいテロワール(≒ワインを造る環境のこと)を探したい」と南アフリカに渡ったのは、なんと78歳のとき!
フラッグシップワインの名前は「レディ・メイ」。そのまま彼女の名前です。ボルドースタイルのカベルネ・ソーヴィニヨンを主体とした赤ワインで、評論家からも高く評価されています。一方、リーズナブルな価格帯のワインもとてもおいしいので、ぜひ飲んでいただきたいです。
ブルゴーニュの生きる伝説、マダム・ルロワと、ボルドーから78歳にして南アにわたったレディ・メイ。二人のフランス人女性の生き方は、変化の激しい今の時代にあって、どちらも等しくロールモデルになるのではないでしょうか。
GRACE WINE グレイスワイン(三澤彩奈)/東京ワイナリー(越後屋美和)
最後に、日本の女性醸造家をふたり紹介したいと思います。

山梨・中央葡萄酒の醸造責任者、三澤彩奈さんは、「甲州を世界へ」という信念の体現者。日本固有の品種「甲州」にこだわり抜き、作り上げた「キュヴェ三澤 明野甲州 2013」が、世界最高峰のワインコンクールで金賞を受賞するという快挙を成し遂げました。
中央葡萄酒のブランド「グレイスワイン」の甲州は、価格帯のリーズナブルなものから高級なものまで、どれを飲んでもハズレなしです。

一方、東京・練馬の住宅街で、ワインを造っているのが越後屋美和さん。大田市場の仲卸として働いていた越後屋さんが「東京の農産物のおいしさを伝えたい」という思いから2014年に東京23区内初のワイナリーとして立ち上げたのが「東京ワイナリー」です。

私もお邪魔してワイン造りのボランティアをしたことも実はあるのですが、住宅街の真ん中に現れるブドウ畑と、そこでワインが造られる事実に深く感銘を受けました。カフェも併設されているので、都内近郊の方はお散歩がてら訪ねてみてはいかがでしょうか。
このように、今や「女性が造るワイン」とカギカッコをつけなくても、女性がワインを造ることは当たり前であり、その感性や繊細さは、ワインにプラスアルファの魅力をもたらしています。
ともあれ、「どんな人が造ったか」を知った上で飲むワインはその物語の重みの分だけ液体に深みをもたらすもの。本稿で紹介した女性たちのワイン、一度試してみてはいかがでしょうか。
Photos&Text:Hima_Wine
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