自然派ワインってなんだ? 人気ショップに聞いた、その条件と味わい | Numero TOKYO
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自然派ワインってなんだ? 人気ショップに聞いた、その条件と味わい

こんにちは、ワインブロガーのヒマワインです。

さてみなさんはどんなワインがお好みですか? 白ワイン、赤ワイン、スパークリングワイン……とワインにもいろいろありますが、ここ10年ほどで一気に市民権を得たワインといえば「自然派ワイン」ではないでしょうか。

街を歩けば「自然派ワインと焼き鳥」とか「自然派ワインとおでん」みたいなお店が目につきますし、なんとなく健康的でナチュラルなイメージがあって、好んで飲む方も多いのではないでしょうか。ちょっとオシャレな感じもしますよね。

でも、「自然派ワインとは?」と問われると、ちょっと答えに窮しちゃったりもする。そこで今回は、東京・恵比寿の人気ショップ、ワインマーケット・パーティ店長の沼田英之さんに、自然派ワインについて教えてもらいつつ、絶対に外さない銘柄も教えてもらってきました。

私・ヒマワインと沼田店長の掛け合いでお届けします。さっそくいってみましょう!

自然派ワインの条件

ヒマワイン(以下、ヒマ)「そもそも自然派ワイン(日本語)とか、ヴァン・ナチュール(フランス語)とか、ナチュラルワイン(英語)とかって呼ばれるワインは、どんなワインなんでしょう?」

沼田店長(以下、店長)「意外かもしれませんが、実は『これが自然派ワインである』っていう世界共通の明確な基準ってないんですよ」

ヒマ「そうなんですか! なんとなく農薬を使わずに栽培してるとか、酸化防止剤無添加のワインが自然派ワイン、みたいなイメージがありますが……」

店長「それらは要素のうちのひとつというイメージですね。ワインマーケット・パーティでは独自に自然派ワインの基準を設けているのですが、たとえばそのうちのひとつに農薬や化学肥料を使わない、もしくは認証団体の基準に従って少量のみ使用していることが挙げられます」

ヒマ「いわゆるオーガニックってやつ」

店長「そうですね、『オーガニックワイン』とか『ビオワイン』っていうのは基本的には栽培のことを言っていると思ってください。オーガニックでも自然派ではない、というケースもあるんです。自然派ワインの場合、栽培面に加えて醸造面の条件も加わりますから」

ヒマ「どんな条件があるんですか?」

店長「自然酵母を使って発酵させていること、SO2(酸化防止剤)が無添加、あるいは添加量が少ないことなどですね。ほかにも細かくあるのですが、そのふたつが主要な条件です」

ヒマ「栽培+醸造の条件が揃ってはじめて『自然派ワイン』なんですね!」

「ワイルドナチュラル」と「クリーンナチュラル」

店長「以上が自然派ワインの大枠なのですが、今回はそこから一歩踏み込んで、『ワイルドナチュラル』と『クリーンナチュラル』っていう言葉をご紹介したいんです」

ヒマ「なんすかそれ」

店長「『ワイルドナチュラル』はSO2無添加の、本当に文字通り“ナチュラル”なワインです。そのほかの人的介入もほぼ行わないのが特徴で、世間でナチュラルというとこのスタイルがイメージされがち。ただ最近はSO2を少量添加したり、無添加でも自然派ならではの特徴的な香りや味わいが控えめの『クリーンナチュラル』なワインが増えてきているんです」

ヒマ「なぜふたつのスタイルに分かれてきてるのですか?」

店長「一時期『ワイルドナチュラル』がドカンと盛り上がった時期があったんですが、やはり酸化防止剤を入れないと品質面が安定しないケースも多くあったんです。そこで、ナチュラルでありながら品質面においても味わいにおいても洗練された『クリーンナチュラル』が台頭してきているんです」

ヒマ「自然派とクラシックワインの中間みたいな。いいとこどりですね」

店長「そんな『クリーンナチュラル』のオススメワインを、今回は紹介したいと思うんです」

ヒマ「ぜひお願いします!」

ドメーヌ・ル・ブリゾー「ル・トン・デメ2021」

店長「今の話を裏付けるようなワインが、このドメーヌ・ル・ブリゾーの『ル・トン・デメ 2021』です。クリスチャン・ショサールというフランスのロワール地方における自然派ワインの父のような人がいるんですが、その方が亡くなって奥さんがワイン造りを引き継いでから、少量のSO2を添加するようになったんです」

ヒマ「まさにワイルドナチュラルからクリーンナチュラルに移行したわけですね……!」

店長「それによって品質がすごく安定したんです。このワインはピノー・ドニスというちょっと珍しい品種を使っています。お香のような、消し炭のようないい香りがする品種で、嫌いな人がいない味わいだと思います」

ヒマ「ちょっと一口飲ませてもらったんですが、自然派ワインならではの旨味の強さや独特な香りがありながら、たしかにクリーンで飲みやすさも十分に感じられました」

店長「はい、これぞクリーンナチュラルという味わいがすると思います」

ムレシップ「ル・ヴァオリイ 2021」

店長「赤をもう1本ご紹介しましょうか。フランス南部・ラングドック地方からムレシップの「ル・ヴァオリイ 2021」。自然派ワインの世界的リーダーの一人であるアラン・アリエという人がつくるワインです」

ヒマ「これはどんなワインですか?」

店長「これはSO2無添加のワインなのですが、それでいてワイルドナチュラル的な要素をほとんど感じないんです。これはブドウの栽培に徹底的にこだわり抜くからこそできること。艶があって、滑らかで、ハーブのようなニュアンスがある。ぜひ赤身のお肉料理と合わせていただきたいワインです」

ヒマ「ところで、SO2を添加している、していないで味わいに違いってあるもんなんですかね?」

店長「あります。これは昔とある実験に参加したことがあるんですよ。同じワインにSO2無添加、1リットルあたり換算で20ミリグラム添加したもの、40ミリグラム添加したもの、60ミリグラム添加したもの……と、SO2の添加量違いで飲み比べしたんです」

ヒマ「面白そう。結果、どうなったんですか?」

店長「個人的には、20ミリグラム添加したものが一番好みでした」

ヒマ「実は私も飲んでいるグラスにSO2を入れる実験を専門家としたことがあるんですが、瞬時に味わいが変わるんですよね、良くも悪くも。SO2無添加=おいしいってわけでもないし、入れたらおいしくなくなるわけでもないのが面白いところです」

店長「その通り。同時に、世界的にはSO2の添加量を極力減らそうという流れもあって、クラシックな造り手もナチュラルな造りに寄ってきている……とこの話は長くなるのでやめましょう(笑)」

ルドヴィック・シャンソン「サン・パーニュ 2020」

店長「続いては泡いきましょうか」

ヒマ「スパークリングワインですね」

店長「ビオ栽培、酸化防止剤ごく少量添加、無濾過の自然派ワインで、その名もルドヴィック・シャンソンの「サン・パーニュ 2020」です」

ヒマ「シャンパーニュならぬサン・パーニュなんですね(笑)」

店長「シャンパーニュにも使われる『シャルドネ』という品種を100%使っていて、レモンのような引き締まる酸味と、ラムネのような清涼感があります」

ヒマ「名前がサン・パーニュ、しかも自然派となればいかにも話のネタになりそうですし、手土産にもいいですね」

ヴァンサン・ベルジュロン「セルタン・レム・セック 2020」

店長「次もスパークリングワインで、ヴァンサン・ベルジュロンの『セルタン・レム・セック 2020』。フランス・ロワール地方の生産者で、これはSO2無添加のペットナット(微発泡ワイン)です。ちょっと一口飲んでみませんか?」

ヒマ「え、なんすかこれめっちゃくちゃおいしいですね! 泡はすごく弱目ですが、それがやさしい感じで舌を柔らかく包んでくれます。味わいは日本の柑橘の感じがします」

店長「伊予柑とか、そんな感じじゃないですか?」

ヒマ「まさにそれ。これは旨味爆弾ですね」

店長「澱とともに長く熟成させた酵母の味わい、アミノ酸的旨味、ポカリスエットの粉のようなニュアンスもあります。これもSO2無添加ながらワイルドナチュラル的要素のないワインのひとつです」

ヒマ「これは素晴らしい。イチ押しです」

ゲルノット&ハイケ ハインリッヒ「ネイキッド ホワイト2021」


店長「白ワインもご紹介しましょう。私のオススメのオーストリアワインで、ゲルノット&ハイケ ハインリッヒの『ネイキッド ホワイト2021』です」

ヒマ「これはどんなワインでしょう?」

店長「開けたては『アロマ系』と呼ばれる品種に特徴的なバラやライチ、洋梨のような香りがします。それが温度が上がると徐々にブルゴーニュの白ワインのようなニュアンスが出てきます」

ヒマ「ブルゴーニュの白というと、バニラとかハチミツ、白い花の感じ、美しい酸とボリュームが共存した印象ですかね」

店長「そこに自然派ならではの香りや味わいが加わっている感じ。ちょっと飲んでみてください」

ヒマ「おお、最初こそ自然派的なワイルドな香りが漂ってきますが、すぐにそれはなくなって、旨味が出てきますね。そしてたしかに飲んでるうちにトロっとした感じがしてきます。これもうまい……!」

ソアリェイロ ネイチャー「ピュア・テロワール アルヴァリーニョ2021」

店長「次も面白いですよ。ソアリェイロ ネイチャーの『ピュア・テロワール アルヴァリーニョ2021』です。まずは飲んでみてください」

ヒマ「えっ、これ自然派ワインなんですか? めちゃくちゃクリーンな味わいです」

店長「ですよね。でもこれがなんとSO2無添加なんです。その代わりに、ビタミンCを添加しているというワイン」

ヒマ「酸味がしっかりあるけどすっぱい印象ではなくて、旨味と果実味もしっかり感じられます」

店長「レモンの皮やグレープフルーツの皮のニュアンスがありますよね。ポルトガル料理は日本人の舌に合うと言われますが、魚介系の和食と合わせていただきたい味わいです」

ヒマ「ワイン名にある『テロワール』って言葉はワイン用語で、ウルトラざっくり言うと『その土地ならではの個性』みたいな意味合い。たしかにポルトガルの海の感じがする……気がします(笑)」

ドメーヌ・オステルタッグ「レ・アバンチュール・ドゥ・ラニョー・マスク・エピソード3 2019」

店長「最後にオレンジワインもご紹介しておきましょうか。フランスのアルザス地方から、ドメーヌ・オステルタッグの『レ・アバンチュール・ドゥ・ラニョー・マスク・エピソード3 2019』です。無濾過でSO2無添加ですね」

ヒマ「これはどんなワインでしょう」

店長「バラやライチの香りがする「ゲヴュルツトラミネール」と、白桃の風味のある『リースリング』という品種が使われていて、とても華やかなワインです。甘く仕上げることも多い品種をドライに仕上げているので、少し蜜っぽさも感じられます」

ヒマ「おお、いかにも良さそう」

店長「私は花に詳しくはないのですが、香りは20種類くらいの花が咲いたような錯覚を覚えるほど。そして赤、水色、黄緑……さまざまな色彩が浮かんできます。自然派ワインの入門にはもちろん、初めてワインを飲むという人にも勧められる味わいです」

ヒマ「以上6種類ですね。どれも個性的なワインでした」

店長「今回は自然派ワインをワイルドナチュラルとクリーンナチュラルのふたつにあえて分け、クリーンナチュラルな味わいのワインをご紹介しましたが、実際は両者は明確に分かれているわけではありません。ただ、クリーンナチュラルは世界的潮流になりそうなので、ぜひチェックしてみてもらいたいですね」

ヒマ「ワインの味わいの傾向って、意外なほど移り変わっていきますもんね。今日はありがとうございました!」

ワインマーケット・パーティ
住所/東京都渋谷区恵比寿4-20-7 恵比寿ガーデンプレイスB1F
営業時間/11:00〜19:30
Tel/03-5424-2580
winemart.jp



Photos & Text: Hima_Wine

Profile

沼田英之Hideyuki Numata ソムリエ、1978年生まれ。ホテルやレストラン勤務後、イタリア・トスカーナに留学。帰国後、レストランにソムリエとして勤務し、その後フランスワイン専門店ラ・ヴィネに入社。現在は姉妹店である都内屈指の大型店、ワインマーケット・パーティの店長を務める。
ヒマワインHima_wine ワイン大好きワインブロガー。ブログ「ヒマだしワインのむ。」運営
https://himawine.hatenablog.com/
YouTube「Nagiさんと、ワインについてかんがえる。Channel」共同運営
https://www.youtube.com/@nagi-himawine
Twitter:@hima_wine

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