“Re”の時代を生きるファッショニスタにできること
グッチがファーフリー宣言をしたように、ファッション業界では、動物や環境への影響を配慮する動きが加速化している。既存のモノやアイデアを再考・再構築し、新たな価値を提案するブランドが増えているのだ。ファッションを愛する私たちが持続可能な未来のためにできることとは何だろう? 「Rethink(再考)」「Renovate(再開発)」「Recycle(再利用)」「Realize(再認識)」を軸とした、最新のトピックからあなたらしい答えを見つけて。(「ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)」2018年3月号掲載)
何がエシカルなのか自分が納得できるポイントって?
先日、取材に行った<Apiece Apart>のショップで、「最近、『この商品はエシカルですか?』とよく聞かれるようになった」という話を聞いた。ニューヨークで子育てをしながら暮らすローラとスターがデザインするこのブランドは、確かに服作りに使う素材については、作り手や生産方法にはこだわるブランドだ。「サステイナブルなブランドです」と声高に謳うわけではないけれど、静かな思想性が見え隠れする。お店のスタッフが「最近の消費者が、素材がどこからきたかに関心を持つようになったのは心強い」と話すのを聞いて、時代は進化しているのだなと実感した。
サステイナブルなファッションといえば、これまではデザイン性とスタイルがいまひとつ置き去りになりがちだった。けれど最近、独特のスタイルを創造することは当たり前、かつ素材や作り方にはこだわって、でもそれを押し付けがましくない方法で、オーディエンスとシェアすることに成功しているブランドが増えてきている。
サステイナブルという言葉がファッションの世界に登場して久しいが、最近は、さらに一歩進んで「エシカル(倫理的)」という言葉を耳にすることが増えてきた。たとえば動物を殺しているかどうか、環境に配慮しているかだけではなく、人間的な労働環境を確保しているか、工場に正当な賃金を支払っているか、なども含まれるようになってきた。
また水を汚さない染めの方法、無駄を限りなくゼロに近づける(ゼロ・ウェイスト)裁断の方法が追求されるようになっているし、またたとえば途上国で生産をするような場合、労働者や工場に還元するシステムを構築する、など、サステイナブルの内容も進化している。
その背景には、ステラ・マッカートニーのように、早い段階からファーやレザーを拒絶してきたパイオニア的デザイナーの啓蒙が浸透してきたこともあるけれど、恐ろしい速度で進む環境破壊に、都会に暮らすファッションピープルの間でさえも、危機感がリアルに広がりつつあることもある。大手のファストファッションブランドが使う工場で働く人たちが置かれる状況の劣悪さが、たびたびクローズアップされて、ようやくファストファッション離れが、これまで以上に進むようになってきた。
確かに、都会に暮らす自分が身を飾るものを作るために、途上国の労働者を圧迫したり、環境を破壊するような無責任なやり方に加担する、というのは気持ちのよいものではない。どうせお金を使うのであれば、自分が罪悪感を持たずに、胸を張ってサポートできるブランドの作るモノを買いたい。自分自身も、自分のお金を使う先については、前以上に考えるようになった。
とはいえ、知れば知るほど、何がエシカルか、という問いの答えは、それほどシンプルでないと実感する。フェイクファーや「ベジタリアン・レザー」と言われる合皮は、動物を殺さないかわりに、石油を必要とする。ファストファッションの企業が焼却処分する大量の衣類が石炭の使用廃止の役に立っているという記事を読んで驚いたこともある。大量生産の工場の代名詞といえば中国だけれど、いつの間にか中国にもクオリティの高い工場がずいぶん登場していて必ずしも「メイド・イン・チャイナ」=低品質ともいえなくなっている。
さらには、何がエシカルか、という線引きは、人によって違うのだ。カシミアはサステイナブルでないという人もいるし、動物を殺さなくても、動物から取れる(ウールなど)素材はイヤだ、という人もいる。こうやって考えていくとキリがない。物欲を否定するほど強くない自分は、結局のところ、自分が許容できるポイントを探すしかないのだという結論に至った。散々考えた結果、自分のできることは、何かを購入するときに、自分がその商品を本当にほしいのか、長期的に愛することができるのかを考えること、そして一度手にしたものを、大切に、きちんとケアしながら使うこと。ここしばらくヴィンテージが再び愛しく思えてきたこと、世の中的にもヴィンテージ熱が再燃していることも、きっとサステナブル、エシカルの動きとどこかでつながっているのだと納得する。
佐久間裕美子(Yumiko Sakuma)/ライター、『ヒップな生活革命』著者
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