21世紀少女 vol.12なぜ彼女はアフリカを撮り続けるのか?フォトグラファー、ヨシダナギ
フォトグラファー田口まき&小誌エディトリアルディレクター軍地彩弓がお送りする「21世紀少女」。クリエイターやアーティストなど、21世紀的な感覚を持つ新世代女子を一人ずつ紹介。今回のゲストは、フォトグラファー・ヨシダナギ。幼い頃からアフリカに憧れ続け、いまでは単身でアフリカの少数民族に会いに行き、シャッターを切る。彼女の話は終始興味をそそられるものだった。(「ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)」2016年4月号掲載)
軍地彩弓が読み解く
「国境や偏見を超える、信じる力」
「子どもの頃から私のスーパースターはアフリカの人たちでした。マサイ族の人のすらりと美しい姿に憧れて、いくつになったら自分の肌の色を選べるのか、母に聞いたことがあります」。ヨシダナギは、くっきりとした美しい目でそう話した。子どもの頃からセーラームーンに憧れるようにアフリカの人たちに憧れ、数年後、貯めたお金とカメラを持ってその地に立っていた。一見破天荒な人生だが、彼女にとっては子どもの頃からの夢をかなえた一本の道だ。
ヨシダナギが撮るアフリカの人々はかっこいい。裸の肌に描かれた美しい模様、豪華な装飾、鮮やかな民族衣装。だが、しっかりと目線を投げ、正面から向き合った写真は誰にでも撮れるものではない。彼女の手法はシンプルだ。アフリカの裸族に会いに行き、自分も服を脱ぎ、裸になってコミュニティに入っていくこと。そのおおらかさは、どこから生まれたのだろうか。
「子どもの頃、育った江戸川区の地域は障がい者の方も分け隔てなく生活する、とてもフラットな場所でした。そこから、親の都合で引っ越した新しい場所は真逆の場所。新参者として、ひどいいじめに遭って、中2のときにドロップアウトしたのです」
その頃からインターネットを覚えた。そこでネットアイドル的な存在になり、10代後半はアイドル業を始める。雑誌グラビアなどを経験するが、そこでもどこか馴染めなかった。「そのとき仕事をした方に才能があるよと勧められて、写真とイラストを始めました。イラストでは海外の有名スタジオから声がかかるまでになったのですが、一つのところに縛られたくなかった」。23歳のとき転機が訪れる。銀座のクラブでのバイトなどで貯めた100万円を持って念願のアフリカへ行った。
「2週間、エジプトからエチオピアへ。ここでの出会いでますますアフリカにのめり込みました。初めて出会った裸族の人の前で自分も脱ぎたいって思った。でも思うように英語がしゃべれずに断念。観光で来たんでしょ、という彼らの冷たい視線をとにかく変えたかった」
三度目のアフリカで訪れたコマ族の前で、初めて裸になって彼らの中へ入っていた。それまで遠巻きに見ていた彼らが、彼女が脱いだとたん、踊りだした。歓迎の踊りだった。「貧困、エイズ、内戦。アフリカに対する偏見を変えたかった。彼らの中に入って、そのかっこよさを伝えたい、ただそれだけなんです」。彼女の写真の中で、少数民族の彼らは凛と美しく、時にユーモラスだ。
「自分のやりたいことをやる。生きることは死ぬまでの暇つぶし、だったら楽しくやって死んだほうがいい。そう思えるんです」。信念で偏見を超えた、強い目の人だった。
the recipe of me
私の頭の中
21世紀的感覚を持った新世代の若者は、普段どんなことを考えているのだろう? そのヒントは、彼らの周りの“モノ”にもちりばめられている。ヨシダナギの周りにあるものは、日本とアフリカ、現代と歴史が交錯する。彼女の大切なモノたちは、そっと彼女に寄り添っていた。
(左上から時計回りに)
1. 「世界一おしゃれな民族」といわれるアフリカ・エチオピアの「スリ族」の子どもの写真。(撮影:ヨシダナギ)
2. 大切にしている、東京・三宿にある山本桃仙氏の印鑑。
3. 大好きなBOBBY DAZZLERのぬいぐるみ。
4. 「パインアメ」と「キャラメル」は現地の子どもたち用に。
5. 「スッパイマン」と「ポカリスエット」はアフリカ渡航時、自分が死なないための必需品。
(左上から時計回りに)
6. よく眺めている『MINIATURE LIFE』(水曜社)
7. スリ族の撮影をした時の集合写真。
8. 旅には必ず持っていくYOHJI YAMAMOTOのストール。
9. 「アフリカではこれじゃなきゃダメ!」
(上から順に)
10. スリ族の写真。「彼らはお祭り事があると、こんなふうにおしゃれをするんです」(撮影:ヨシダナギ)
11. 私物の小物はkagari yusukeさんの物ばかり。カメラバッグは特注。
12. トルコで購入したネックレス。「アフリカで見せると喜ばれます」
(左上から時計回りに)
13. 世界中持ち歩いているSK-Ⅱの化粧水。
14. ガラスのピアスはsorte glass jewelryのもの。
15. 交渉を重ねて手に入れたアフリカ「ムルシ族」のネックレス。「彼らは戦闘民族なので、自分の物を他人にあげることは滅多にないのですが、憧れていたのでどうしても欲しくて。本当は牙が付いていたんですけど、飛行機のセキュリティで引っかかってしまって泣く泣く置いてきました」
16. 千駄ヶ谷でよく行くMonmouth Tea。
17. THANNの練り香水は、女子力を忘れないために。
ヨシダナギの年表
1991年 5歳
TVでアフリカ人(マサイ族)を知り、彼らになることを心に決める。
1996年 10歳
母親から自分が日本人であることを告げられ、アフリカ人になることを断念。
2009年 23歳
初めてアフリカの大地を踏む。
2012年 26歳
裸族にともに、裸に。
2015年 29歳
TBS系『クレイジージャニー』で松本人志氏に「なんかエロい」と言われる。
ヨシダナギへの5つの質問
──今の日本をどう思いますか?(政治・経済・文化など総合的な意味で)
「疲れているなと思いますね。もっと楽に生きればいいのにって。日本人は真面目に考えすぎるから。動けなくしているのは自分自身なんだって気付くと、すごく楽になりますよ。失敗したってまたやり直せばいいんだから、やりたいこともどんどんやったほうがいい。昔は生きることや死ぬことがすごく怖かったけど、いまは全然怖くないんです。でも私みたいなのは少数派なんですよね。その少数派の人たちが生きにくくない世の中になればいいなぁ」
──尊敬している人や憧れの人は誰ですか?
「アフリカ人のお母さんたち。血がつながっていない私にも無条件で愛情をくれるんですよ。“よくここに来たね!”って包んでくれる。私が彼女たちのことを本当に好きなのがわかるみたいで。私はシャイなんですけど、お母さんたちはハグやキスをしてくれたり、愛情表現もすごいんです。それが本当に娘のようにやってくれているのがわかる。だから私もオープンになれるんです。そんな愛情深くてパワフルなお母さんたちみたいになりたいなと思います」
──今後の目標、挑戦したいことは何ですか?
「アフリカに何らかの形で恩返しをすること。私がこうしてフォトグラファーとして活動できているのも、すべて彼らのおかげなので。いま、少数民族も若者が都市に移住してしまったり、どんどん少なくなってきてしまっていて…。だから、まずは私の撮った写真を渡して“ほら、あなたたちはこんなにカッコいいんだよ”と誇りを持ってもらうことかな。将来的には、大好きな少数民族全体を守れるような、何かしらの仕組みを考えていきたいですね」
──今一番興味があること、今一番怖いと思うことは、それぞれ何ですか?
「いちばん怖いのは注射と雷です。アフリカでいろんな危ない体験をしても、怖くないのに(笑)。興味があることは、やっぱり世界中の少数民族ですね。でもアフリカが一番かな。肌の色や着ているものが自分と違えば違うほど、憧れるんです。私にとっては戦隊もののヒーローみたいな感じ(笑)。新しい少数民族を探すときは、現地で聞くのが一番ですね。ネットや本で見つけた写真を見せて“これ、どこの少数民族?”って。そうして情報を集めて会いに行くんです」
──10年後の日本はどうなっていると思いますか?
「最近、17〜18歳くらいの日本人の子と話す機会が多いんです。彼らはアフリカに興味を持って話しに来てくれるんですけど、みんなすごく頭が良くて、しっかりしています。この前、TEDの”世界を変える12人”にも選ばれた22歳の牧浦土雅君と話をする機会があったのですが、彼はもうアフリカで起業してインフラ整備や農作物のトレードなどを行っていて…。ただ者じゃないですよね。そんな子たちがこれから増えると思うと、すごく面白くなるな、と思いますね」
Photo:Maki Taguchi Director:Sayumi Gunji Text:Rie Hayashi