今、世界の注目を集める日本の写真表現。男性に偏りがちだった見方を問い直し、新たな展望へと導く展覧会が「アルル国際写真祭」などで話題を呼び、東京へ凱旋。1950年代から現在まで。女性写真家30名のまなざしが、まだ見ぬ地平を照らし出す。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2026年9月号掲載)

展示第一章のテーマは「『写真』をめぐる冒険ー想像力を解き放て!」。写真とはもっと自由なもの。旺盛な実験精神で価値観を揺さぶる作品群を前に、写真の見方が広がるはず。



第二章は「『記録と記憶』をめぐる冒険―目に見えないものに向かって」。目に見える記録を通じて、目に見えない記憶を掘り下げていく。時の流れに刻まれた小さな記憶、人々の声に耳を傾けたい。





第三章「『女性』をめぐる冒険―ジェンダー、身体、セクシュアリティ」および第四章「『日常』をめぐる冒険―見過ごされた風景の中で」より。女性を取り巻く社会規範と向き合う試みや、ささやかな日常に目を凝らし、気づきをもたらす作品を取り上げる。





キュレーターインタビュー:写真でたどる女性たちの冒険
今なぜ、“日本の女性写真家”に光を当てるのか。「まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険」展キュレーターの竹内万里子に、その意義を聞いた。
1950年代から現在まで、写真表現において重要な役割を果たした日本の女性写真家30名が一堂に会する展覧会「まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険」が開催中だ。これまで約14万人を動員してきた国際巡回展をベースにしつつ、凱旋記念展ならではの特別な内容が展開されている。出発点となったのは、2024年に英語・フランス語版で刊行された大型書籍『I’m So Happy You Are Here: Japanese Women Photographers from the 1950s to Now』。同書籍に寄稿し、本展でキュレーターを務めた竹内万里子によれば「独創的で強度のある作家を挙げていくと、その多くが女性になる」という“気づき”が、このプロジェクトに発展していったのだという。
「既存の写真史を眺めてみると、その多くが弾かれている。要因の一つに男性偏重の環境によって、女性たちの評価が制限されてきた歴史があることは確かでしょう。しかも、海外で日本人写真家の人気が続いていながらも、日本の写真表現に女性たちがどれほど貢献してきたかは、ほとんど知られていません。そこで、海外に向けたイントロダクションとして書籍と展覧会が構想されました」
書籍で大きくフィーチャーされた作家は25名。フランスの権威あるニエプス賞を受賞したオノデラユキや、写真界のノーベル賞とも呼ばれるハッセルブラッド国際写真賞を受賞した石内都など、海外での評価を獲得した写真家の名前がある一方で、抽象写真で独自の作品世界を開いた山沢栄子や、コラージュによるシュルレアリスム表現を実践した岡上淑子など、近年になって再評価が進んだ作家たちも含まれている。
「彼女たちの表現への情熱にあらためて驚かされます。誤解を恐れずに言えば、女性であるがゆえに周囲から期待されていなかったにもかかわらず、自らの意思で独自の表現を切り開いたんです」(竹内)
そして開催された国際巡回展は、ガーリーフォトの火付け役となったヒロミックスを加えた26名で構成されるが、さらにこの東京展では、50年代から前衛的な作品を発表した今井壽惠や「コミュニティの記憶や不可視の歴史に対してそれぞれが異なるアプローチをしている」と竹内が評する現代作家、岩根愛、藤岡亜弥、米田知子の計4名を加えた総勢30名へと拡張されている。加えて、約1600平方メートルという広大な会場の空間を生かし、小松浩子や多和田有希、長島有里枝らによるインスタレーションや、川内倫子や蜷川実花による映像展示など、野心的な企画を展開している。
また、本展を構成する4つの章立ては、およそ200点を数える出品作の多彩さを物語っているといえるだろう。フォトグラムやコラージュなど実験的な作品を集めた第一章「『写真』をめぐる冒険」(今道子、杉浦邦恵ほか)、目に見えないものをすくいとる写真の特性に着目した第二章「『記録と記憶』をめぐる冒険」(石川真生、志賀理江子、常盤とよ子、西村多美子、渡辺眸ほか)、ジェンダーや身体、セクシュアリティをテーマにした第三章「『女性』をめぐる冒険」(岡部桃、片山真理、澤田知子、野村佐紀子、やなぎみわほか)、日常の光景に新たな視点を導入する可能性を探る第四章「『日常』をめぐる冒険」(潮田登久子、楢橋朝子、野口里佳、原美樹子ほか)と、見どころ満載な内容となっている。
最後に、書籍と海外展のタイトル「I’m So Happy You Are Here」について触れておきたい。この言葉は川内倫子の詩集から採られた一節に由来するが、タイトルとして切り取られたときに「I」と「You」が誰を指すのかをめぐって、企画段階でかなり議論が交わされたという。竹内は当初「欧米側が日本の女性写真家を“発見する”という偏った構図を助長しかねない」と懸念したが、次第に「I」と「You」は入れ替わり可能ということに気づき、認識を新たにしたという。「男性と女性や、日本と欧米といった関係に限らず、多様なまなざしが交差するこの展覧会は、あらゆる存在の肯定の物語となる」と語る竹内。そんな彼女の言葉に、本展を訪れる来場者の多くも賛同するのではないだろうか。
「まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険」
日本の写真表現において見過ごされてきた女性写真家に光を当てる書籍『I’m So Happy You Are Here: Japanese Women Photographers from the 1950s to Now』(2024年、Aperture)。共同編纂者のポリーヌ・ヴェルマール、レスリー・A・マーティン、寄稿者の竹内万里子の共同キュレーション展示がフランスの「アルル国際写真祭」で話題を呼び、オランダ、ドイツを経て、現在イギリス・ロンドンへ巡回中。本展は内容を拡大し、Bunkamura ザ・ミュージアムにより開催。1950年代~現在まで日本の女性写真家30名の約200作品を展示する。最新情報はサイトを参照のこと。
会期/7月4日(土)~8月26日(水)
会場/ヒカリエホール
住所/東京都渋谷区渋谷2-21-1 渋谷ヒカリエ9F
TEL/050-5541-8600(ハローダイヤル)
URL/www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/26_kiseki
Interview & Text : Akiko Tomita Edit : Keita Fukasawa
