小説から映画へ。日本全国に旋風を巻き起こした吉田修一の長編作品『国宝』。その新聞連載時、束芋(たばいも)によって描かれた挿絵たちが、新たな色彩のもとに展示される。「再び私を物語の奥深くまで引きずり込む」*──「束芋画 国宝」の世界へ、ようこそ。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2026年9月号掲載)



綿密な取材をもとに、人間心理を鋭くえぐる筆致で知られる小説家・吉田修一。今や代表作となった『国宝』は、自ら黒衣(くろご)として歌舞伎の世界を血肉と化し、紡ぎ出された渾身の一大長編だ。その「朝日新聞」連載時に挿絵を手がけたのが、現代美術家の束芋。風刺に満ちた手描きアニメーションで構成される、空間インスタレーションを持ち味とする彼女だが、日々綴られる物語と呼応しながらの長期戦を前に、独自の“システム”作りに取り組んだという。

『国宝 #166-169』 (和紙に墨と顔彩 2016-2026年 Photo : Keizo Kioku)(※クリックで拡大表示)
「横長の和紙の右から左に時間軸を設定し(中略)日を跨(また)いで繋(つな)がっていくように描いていく。前日のストーリーが次の日のストーリーに影響を与えていくことを直接的な繋がりで見せるこの手法を(中略)採用した」*。墨で線を描き、場面ごとの感情や空気感を色彩として重ねる。連載期間は1年以上。「小説に漂う空気や登場人物の感情のような、目に見えないものを色に置き換えた」*
それから約10年。展示に際して束芋は、新聞の入稿時はデータ上で合成していた色彩部分を、あらためて和紙に着彩していった。時間を超え、当時の感覚を呼び起こすなかで完成を遂げた全500点の挿絵たち。文学と美術、記憶や身体感覚が重なり合い、描き出された“もう一つの国宝”。その世界観をぜひ、たどりながら味わってみたい。
*本展に寄せた束芋のステートメントより。
「束芋画 国宝」
2017~18年「朝日新聞」で連載された吉田修一の小説『国宝』の挿絵全500点を、前後期に分けて展示。最新情報はサイトを参照のこと。
会期/[前期]7月17日(金)~8月9日(日) [後期]8月11日(火・祝)~30日(日)
会場/ポーラ ミュージアム アネックス
住所/中央区銀座1-7-7 ポーラ銀座ビル3F
TEL/050-5541-8600(ハローダイヤル)
URL/www.po-holdings.co.jp/m-annex/
Edit & Text : Keita Fukasawa

