【アーティストたちの色の世界】Vol.4 上田真央香 | Numero TOKYO
Art / Feature

【アーティストたちの色の世界】Vol.4 上田真央香

絵画や織物、それぞれの手法で色を印象的に用いるアーティストにメールインタビュー。その独自の世界を創出するために、色をどのように見て、向き合い、捉えているのか。アーティストたちの色にまつわる原風景から惹かれる色まで、色彩表現に込められた思いを読み解く。Vol.4は、上田真央香。自身の原体験と自然界の法則を交差させ、生命のエネルギーを独自の視覚言語へと翻訳する。

──色を意識的に捉えるようになったきっかけや原体験は?

「絵を描き始めるきっかけともなった原体験ですが、ある時から、視界に曼荼羅のような柄が現れるようになりました。一見カオスな柄のようなのに全体には不思議と秩序があって、色も形も何か大きな一つの流れの中で動いているような視覚なのですが、そこから色は物に付いているただの属性ではなく、形や動きと結びつきながら絶えず変化しているものとして感じられるようになりました。見えているものを残したいと思い、絵を描き始めました」

──作家として活動を始めてから、色に対する考え方や向き合い方にはどんな変化がありましたか。

「一つの色を単体で見るのではなく、その周りの色などとの相互性で見るようになりました。同じ色であっても隣に何色が連鎖していくのか、どのくらいの面積で存在しているか、どう流れているかによってその色が持つ温度や情緒はまったく違って見えます。最近では、自分のその日の知覚状態によっても色や視覚そのものが大きく変化すること、自分が知覚できるレイヤー自体もその日によって変わることをはっきり感じていて、光、色、気象、運動が空間全体を巡って響いて、その中にいる自分の知覚状態もその日その一瞬で揺らぎ、その度に見える色や感覚も変わる。固定されることなく常に変化しているものだと感じています」

──個人的に、好きな色、惹かれる色、探求したい色とは? その理由は?

「この色!という一色よりも、環境のあいだで揺れている色やそれによって発生する質感に惹かれます。光や湿度によって、青にも紫にも灰色にも見える色。淡く軽やかにも見えつつ、その奥に濁りや影を含んでいる色。そういう揺らぎのある色には、時間や空気まで含まれているみたいに感じます。その奥行きや運動から生まれてくるような色の世界や象徴性のようなものを探求したいです」

《Echoes of Neverland-》
《Echoes of Neverland-》

──これまでの経験の中で、大切な、印象に残っている色にまつわる記憶、思い出は?

「普段は山の中にあるアトリエで制作することが多いのですが、長い時間絵を描いたあとふと外へ出たときに、現実の世界の色に包まれる瞬間がとても好きです。特に雨の季節には湿気や霧がかかって、植物と空気、地面と遠景の境界が曖昧になって、草木や花の色も晴れた日より深くて滲んでいるように見えます。密集する紫陽花のパステルカラーや、山道にぽつんと立つ信号機の人工的な赤や緑のネオン色が霧の中に拡散して、周囲の深い緑と絡み合っている情景だったり。霧の中で反響する鳥の声や自然の色などが、一つの湿った空気の中で混ざり合って生き物のような空間になっていて、そこに蠢きや生命を感じます」

──造形やモチーフと色彩はどのような関係性の中で生まれていますか。また、その組み合わせや重なりを考える際に大切にしていることは?

「私が描いているのは「流れ」のようなものなんですけど、この色をここに置いたときその力は次にどこへ流れていくのか。この線があっちへ進んだとき、次の線や形はどこに発生するのか、そのつながりを追いながら描いています。人の身体だったら、神経や血管やツボのようなものが全身を巡り、一つの場所で起きたことがある秩序や方向性をもって次の場所へも伝わっていく感覚に近いかもしれません。造形を先に決めてという感じではなく、色が形を呼び、形がその次の色を呼ぶような、一つの発生点が画面全体にどのように伝播していくかを大切にしています」

《Blooming Into Bloom》
《Blooming Into Bloom》

──制作において、特定の色に固有のイメージや意味を持たせることはありますか。

「特定の色に、固有の意味を持たせることはあまりありません。たとえば赤は情熱、青は爽やかみたいに決めてしまうと、色が自我を持って、動かなくなってしまうように感じます。同じ赤でも、深い緑の中に置かれれば傷や脈動のように見え、鮮やかなピンクや黄色の中に置かれれば、喜びや生命力のようにも見えます。ただ、画面の中で色にそれぞれの役割が生まれることはあります。リンパ節のように流れを可視化したり、開かせたり、纏めたり、加速させたり、隣の色を支えたり壊したりなどです。その役割も色そのものに備わっているのではなく、周囲との関係の中でその都度発生するものだと考えています」

──ポップで軽やかな色彩もあれば、複雑で多層的な色彩も見られます。色彩の方向性、組み合わせによって、作品の中で表現したい世界観、感覚はどのように変わりますか。

「私が描いているものの核心は、おそらく大きく変わっていません。ただ、その時に触れたものや、身体の状態、季節、入ってきたインスピレーションによって、表面に現れる色や雰囲気は大きく変わります。意図的に選ぶというより、その時に自分や作品の中で起きていることになるべく正直でいたいと思っています。私が主導して描くというよりも、私もその時々の流れの一部になってそれに影響されたり変形されながらそれをそのまま残して、何が起こるのか見たい。美しく整えられた世界観には自分自身あまり生命力を感じられず、自分でも制御不能で予測していない新しい何かを起こしたい、それが流れ着いたキャンバス上にその都度何か別のものが立ち現れるという感じです」

《Teddy in the Infinite Woods》
《Teddy in the Infinite Woods》

──自然界の法則や生命のエネルギーを独自の視覚言語へと翻訳していますが、モチーフや造形、色彩、タッチは様々です。それぞれの違いはどのように生まれ、どのように描き分けていますか。

「最初から『今回はこれを描こう』と強く決めてしまうと、既に知っているものを再現するだけになって面白くなくなってしまう感じがあります。また、人為的な意思によって美しく整えられたものは、たとえどれほど完成度が高くても、ときにその完成物よりも『こう見せたい』『こう受け取ってほしい』という意図自体が先に立ってしまうように思います。すると、その表現者自身のもっと深いところから自然に湧き出てくるものや、まだ本人にも自覚されてなかったり概念として成立していない生の感覚が削ぎ落とされてしまっていることがあります。私はむしろ、人間の意図や自我の連続性によって完全に統御される前のものに惹かれます。偶然に生まれた色の重なりや、その瞬間のインスピレーション、その時の知覚や空気によってしか現れなかった形には『意図した形』よりも、その人の本質に近いものが現れる気がするからです。なので私は実際にキャンバスと向かい合っているときに発生したものに正直でいたいと思っています。

それは、その日のその瞬間の身体や知覚、光、時間、情緒を含んだ“今”の一瞬にしか現れないものですし、一度生まれた流れとまったく同じ場所へは戻れないので、作品ごとにモチーフやタッチが異なって見えるのだと感じます。描き分けているというよりも、それぞれの作品が独立して持ち始めたリズムをそのまま生かして、それを一つの様式へ囲い込まないようにしています」

──最近、見たり、感じた美しい色、感動した色を教えてください。

「直接目に見える色というよりも、匂いや動き、人の表情などから色を感じることがあります。たとえば犬の匂いや虫の動き、電車の中で泣いている子ども、車内に充満する人の匂い、ふてくされた表情で座っている学生。その情景を見て感じたとき、実際の色だけではない、別の色や質感が立ち上がってきたり、その人が纏っている服の色と、表情や情緒、身体のリズムが絡み合って色相のように感じたり。言葉では何色と名づけにくいのですが、色、質感、匂い、動きがまだ絡み合った状態で、一つのイメージとして現れてくる。その瞬間に美しさを感じます」

《Wonky Mandala- Endless Characters》個展「The Fractal Garden」展示。
《Wonky Mandala- Endless Characters》個展「The Fractal Garden」展示。

──あなたにとって色とはどういう存在ですか。

「私にとって色は何かを装飾したり、コンセプトを伝えるためのものではなく、何か物事が起きていることを知覚するためのものです。色が置かれて、一つの色が別の色に触れるその化学反応で、その間にそれまで存在しなかった空間や情緒が現れる。色は目に見えない流れや力が、一時的に目に見える姿を取ったものなのかもしれません」

──これから取り組みたい色彩表現や挑戦したい色の可能性はありますか。

「色同士の関係によって、実際には描かれていない奥行きや空間まで知覚されるような表現を探りたいです。平面を見ているはずなのにその中へ視線が入り込んだり、逆に色がこちら側へ広がってきたりする。見る距離や角度、見る人の状態や環境との相互作用で、作品の状態が少しずつ変化して感じられるような色彩に興味があります。見る人の知覚そのものが少し変わり、動き始めるような場所に到達できたらと思っています」

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Interview & Edit:Masumi Sasaki

Profile

上田真央香 Maoka Ueda ロンドン芸術大学およびロンドン大学にて5年間アートとデザインを学び、独自のコンセプト「Wonky Tunes(グラグラで不安定な旋律)」をもとに制作する。日本国内を中心に個展やグループ展、アートフェアなどに多数参加。Instagram/@i_am_maokaxx
 

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